第6話 英雄


「久しぶりに会った彼はかわっていた、いえ、しんのところはかわっていなかったのよ、私の英雄なんです」

 そう女性の依頼者―ミヨコ―がカウンターの前、何もない空間につぶやいた。すると、その隣にたっていた、ハミルにだけ見える男は、光の泡となって消えていった。


「これでいいんですか?」

「ええ、それで大丈夫です」


「まったく、迷惑してたんですよ、確かに最初はいい”役者”だとおもって、私と彼の関係を盛り上げるために、彼を“痴漢”として、あの男、シンゴに助けをもとめたけれど、ただの痴漢遊びじゃ満足できなかったから、ただそれだけなのに」

「はあ、それでもねえ、彼は、自分が死んだと理解できなかった、成仏はできましたけど」

 ハミルは新聞ごしにミヨコをみた。気の強い女性は苦手である、新聞をカウンターの上にたてて、目だけ、ミヨコの様子を見ていた。



 6か月前、英雄が死んだ。名前はシンゴ。万屋を訪ねてきたのはその半月前くらいだった。

「僕の好きな人にストーカーがいるんですよ、奴は幽霊なんです」

 ハミラは、そのストーカーが幽霊でない事をしっていた。なにせ、彼の水晶は万能なのだ。


「いいですけど、その人は……」

「わかっています!!大丈夫です!!彼女は僕が助けますから!!あの男から」


 聞く耳をもたなかったので、とりあえずなぜその“ミヨコ”という女性にこだわるのか、助けるのかをきいた。

「中学で同級生だった彼女は、三つ編みの地味な子で、髪で顔を隠していたんです、でも同じ文芸部で俺だけが彼女の顔がとても美しい事に自身をもっていて、彼女を励ましつづけていたんです」

「なるほど」

「お互いヒーロー漫画が好きでね、もっとも彼女と僕との絆が強くなったのは文芸部に上級生のヤンキーがいちゃもんをつけてきたときでしたね、その時彼女は乱暴をされそうになり、僕は彼を打ち倒した」

「ほう、失礼ですが体はあまりがっちりしたほうでは……」

「大丈夫です!ヤンキーがもってきたバッドで殴り倒しました」

「は、はあ、それはそれは……」

「ともかく、久々の再会なんです!大学が一緒だなんて、これは運命ですよ!僕がまた助けてあげなきゃ!!あの頃みたいに!」


 その数週間後だった。シンゴ―英雄―がこの世をさったのは。街でヨウタとミヨコをみつけた。ミヨコは、ヨウタに付きまとわれているようで、それを振り払った。そしてその勢いで、車道に飛び出してしまったのだ。


 それを助けようと、英雄は飛び出した。しかしその途中で、彼は車にひかれてしまったのだ。


 ヨウタは、ミヨコを抱きかかえて、すんでのところで車をよけた。この事件の被害者はつまり、シンゴだけである。もちろんこの車も痴漢、ストーカー事件と同じく、“初めからしくまれた”もので、彼らの知り合いである。路上にあったものが突然駆け出すという仕掛けだった。


「あ、確かに、いなくなったわ、気配がなくなった、最近つきまとわれてきもかったのよ、本当に……死んでからも私に執着するなんて」

「でも、あなたたちの芝居とはいえ、彼はあなたを助けようとしたのですよ?心が痛まないのですか?」

「芝居を芝居とわからないのが悪いのよ、この私の美貌に気付いていたなら、それくらいわからないと、付き合うことすらできない、今までつきあった男たちは皆私の“狂気”を見抜いていたわ」

「中学生の頃の、その……ネガティブな様子は?」

「え?陰キャも芝居ですよ、その時つきあっていたのが、それでしか興奮しないヤンキーの上級生だったんです、私顔がいいから、アレがマンネリで退屈してたから、私は彼にいったんです、無理やり襲ってくれって、そしたらシンゴのやつ、バッドでぼこぼこにして、まあ、弱かったから別れたんですけどね」

「じゃあ、あなたはヨウタさんの事はどう思っていたんですか?結婚寸前だったとか」

「ああ、あいつも自殺をしたわね、ごっこで死んだシンゴに同情して、私が遊びでしか人をあいせないことをしっておきながら、場かな男」

 そうにやり、とわらいながら、万屋をでていった。札束の大金をおいていったので、ハミルはつぶやいた。

「ああ、あんな嫌な奴の事は、お金で忘れましょう」

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