第5話 夢
あるバーで若い女性と、中年のダンディな男が話をしていた。
「君には才能がある」
「本当に?」
「ああ、誓ってそうだ、俺が君をスターにしてやる」
「でも、こんなに売れない地下アイドルを、いくら芸能事務所の副社長だからといって、無理に推薦したら“疑われてしまう”」
二人は清い関係だった。芸能アイドル事務所副社長のリリー。そして、売れない地下アイドルのスガル。もともと売れない子をスカウトするのが趣味だったリリーは、そんな事は気にしないでいいと言い放つ。
「あなたは、ずいぶん違うわ、あの人とは」
「あの人?」
「ううん、なんでもない」
「いってよ、二人の仲だろ?」
「そうね、10年前のことよ、私にストーカーがいたのよ、20代なのにはげた男で随分やせこけていたわ、アイドルにとって人気はうれしいことだけれど、一人に妙な執着をされても困るのよ、まるであの男自分の夢をかなえるために、私を利用しているみたいだった」
「自分の夢を……ねえ」
それから、数日後に副社長は自殺をしてしまった。遺書には
「すまない、この夢は間違っている」
とだけ書かれていた。
スガルはショックを受けて寝込んでしまった。アイドルの仕事を休み、首になった。それから数か月後だった。メイド喫茶でバイト中に、芸能事務所の社長が尋ねてきたのは。
「こんばんは、スターロードカンパニーのサトウといいます」
「あなたは……」
「そうです、リリーと私と彼とはずいぶん長い中でねえ、ただ……彼はたしかに君の名前と君の特徴をいっていたんだが、だが、同姓同名ということもあるじゃないか……それでだな、君には霊感があるとリリーがいっていたからさ、一つ頼みがあるんだよ」
「頼み?」
「その、妻の最近の不機嫌の訳をしりたくて」
「不機嫌……というと」
「私の妻は20年以上前になくなっているんだ、だが確かに私は彼女の気配を感じる
、人生の選択の中で間違いなく彼女に導かれているのを感じるんだ」
社長のサトウの目は血走っていた。
「だから頼むよ、もしこの依頼を達成したら、君をアイドルにしてあげよう、僕らのプロデュースは失敗したことがない、頼むよ」
スガルは困ってしまった。霊能力などあるわけがない。また数日カフェを休んで、物思いにふけったり、友人に連絡をしてつてをあたったりしたが、全然進展はしなかった。そこで、リリーとの思いでの品をあさった。
「そっか、そうだった」
初めてあったとき、パパ活としてアプリをつかって出会ったのだ。だがそのうち互いに互いの純粋さにひかれるようになっていき。年の離れた友人となった。彼は
「報われないものが報われる、まだ華の開いていないつぼみを育てるのが僕の夢なんだ」
そういっていた。
スガルはわかいとはいえ、すでにアラサー。普通なら夢を諦める年だ。だが、どうしても小さいころからの、物心ついてからすぐにはじめたアイドルの真似や歌の練習が忘れられずにすがりついていたのだ。
ふと、リリーとの思いでをしまったお菓子の箱の中に、懐かしいものをみた。
「どうしてこれが?」
それは、地下アイドルの最初に所属したグループの名刺だった。それは、リリーからもらった財布の中にあったのだ。そして、その裏に奇妙な付箋があった。
「もし僕が真実を語れずにいるのなら、彼に頼むがいい」
そこには、ある雑居ビルの名前と住所、ハミラという男の名前がかかれていた。
ハミラを頼っていくと、彼は心霊万屋をなのっていて、何でもできるといった。そこで、彼に頼んだ。
「芸能事務所の社長の奥さんを、交霊術でよびだしてください、私の霊能力のふりをして」
あるホテルの一室でそれは行われた。交霊術は成功して、守護霊として存在している社長夫人は呼び出された。社長夫人の要求は
「娘に冷たい態度をとらないで」
ただそれだけだった。
社長のサトウは喜んだ。
「経営が傾くんじゃないかというくらい不運続きだったが、君のおかげで随分おちついてきたよ、ありがとう、約束通り君をアイドルにしてあげよう」
サトウは彼女の手を優しくにぎった。しかし、スガルは不安だった。この芸能事務所の社長のセクハラは、ずいぶん有名なのだ。
依頼が終わったあと、ハミラは鼻を書きながら本をよみ、そして、つまらなそうに彼女にわたされた名刺をみていた。
「10年前に所属したグループねえ、彼女には口がさけてもいえませんねえ、そのストーカーの犯人が彼だってことは、10年前私が”彼”を助けて、“霊能力者”として売り出して、芸能事務所の社長からきた依頼を助けて、彼と芸能界をつなげたなんてことは……まあもっとも、人間の腹黒さをしるのは、少しあとになってからでもよいでしょう」
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