第3話

 ハミラは陰鬱とした表情をうかべていた。ソーシャルゲームに課金して、数万円を使ってしまったから。ただそれだけではなくおめあての“心霊アイドル・たわわちゃんSSR”が出なかったからだ。


 しぶしぶビルの奥、まるで物置じみた、古びた書店のような作りのカウンターで座っていると、入口に立てかけてあるホウキが動いた気がした。その奥から、自分より陰鬱な感じの髪の毛がもじゃもじゃで、隠すように帽子をかぶった男がでてきた。

「あんた、心霊万屋だろ?どんな幽霊にでも会えるって?」

「ええ、そうですよ」

 ぶっきらぼうにいわれるが、ハミラは特段気にした様子もなかった。男はユウと名乗った。

「俺は長い事、ある男と競い合ってたんだ、作家をやっててさ……あいつは去年死んだんだが、あいつはその前に盗作をやりやがってさ、それから俺は調子がおちちまってるんだ、もしや俺のせいで死んだんじゃねえかってな」

 ハミラは男の様子から違和感を感じた。その風貌しぐさからいって、本当に、他人の死に苦しむようなタイプにはみえない。


 すぐにでも結果が欲しいというので“水晶”をつかった対話をこころみることにした。

「昨年亡くなったヨウコさん、ユウさんが話があるとか」

 ユウは水晶の中に何も見る事はなかったが、ハミラは違った。女性が風呂場でなくなっている光景が目に浮かんだ。

「なるほど、入水自殺ですか」

「ああ、評判は本当だったんだな」

「ですが、本人は無くなったことにあまり気付いていない、というよりもはや意識は成仏し、世界ととけかけている、質問ができるとしても、2、3個が限界でしょうね、何がききたいのですか?」

「ああ、そうだな、なぜ俺をつけまわし、俺の原稿をまねて出版社に提出しようとしたのか」

 ハミラは、その通りに尋ねると水晶から、優しく消え入りそうな少しかすれた女の声が帰ってきた。

「あなたが好きだから」

「そんなわけないだろう!!ハミラからまた聞きした男はすごい剣幕でおこった」

「そんなに気になるなら、調べますか?」

「調べるって何が?」

「その女性が何をしていたか、本当に盗作をしたのか」

「俺はこの目であいつの原稿をみたんだよ!発表こそしなかったが、それで去年のあの騒ぎだ、こっちは頭にきてるんだ、次の質問をさせてくれ」

「いいでしょう」

「お前は最後の作品で盗作をしたのか、そして、盗作を疑った俺にむけて言いたかったこととは何だ?」

「どういうことです?」

「死ぬ前に留守電に電話があったんだよ、でも、それを言い終えるまえに彼女はその……死んだんだ」

「ふむ」

 ハミラはアゴに手を当てて退屈そうに、不服の顔で水晶をひねった。

「あっ」

「どうした?」

 ユウは食い気味にカウンターによる、風呂に入っていないのか体臭がひどい。ハミラは鼻をつまんでいった。

「これが最後の質問になりそうですね、この人もそれ以上は応えたくないようです」

「いいよ、で、なんだって?」

「盗作ではない、あなたは確かにすぐれているけれど、高慢さに問題があるからくれぐれも気を付けて……」


 ユウは地団太を踏んだ。

「くっそ!!俺を愛しているやつが、そんな事をいうか」

 悪態をついたが、数万円をおいてでていった。

「ふむ、ガチャまわそう」

 ハミラはニコニコとして腕を組んだ。



 ユウはその足である神社に向かった。その神社で人と結ばれることを祈ると、その人に関する未来や過去がわかるという。ユウは自分のひいきにしている出版社の担当編集の顔を思い浮かべた。若く美しく、背が高く、頼りがいのある女だ。あの女―サチの事を考えると夜も眠れない。


 すると神社は薄く光り輝いた。かと思うと亡霊が現れる。この神社で建て替えられる前、古い時代にかつて生贄の祭儀に使われた少女の霊だ。

「あなたは、供物をささげられる?」

「供物?何の?」

「あなたの大事なもの、それを私があげるけど、変わりにそのものの寿命はひどく短くなる」

「そんなの受け入れられるか!!」

「そう、いいよ、それでも願いはかなえられる、それ相応の“代償”は必要だけど」

「代償?」

「あなた自身で払うのよ」

 いつのまにか、少女の霊は姿をけしていた。何も起こらず、見えなくなったために、自宅アパートに帰るのだった。


 ユウはその夜夢をみた。サチが、ヨウコと言い争っている。

「いい加減、あの人と、ユウと連絡をとるのはやめなさい、少し成果がでるとすぐにいろんな人につっかかって、盗作盗作いうんだから」

「でも……」

「あの時出版社の前でぶつかったときの事をみていたわ、私は弁明しようとしたのよ、“私が好きな作家の文体模写をして練習しなさい”とあなたに告げたことを、あなたはノートじゃなくて、原稿にかいた、だから盗作を疑われたのよ、あなただって、あいつに飯をおごったり、いちゃもんつけられた創作をいくつ発表を見送ったと思っているの」

「でも私は、創作なんかより、あの人の事が好きなんです」

「はあ……いい?ヨウコ、あなたは未来がある、でもあの男はクズでアホよ、いずれ必ずあの高飛車で、天狗な態度が自分の身を亡ぼすわ、必ずよ、でもあなたは巻き込まれることなんてないの、わかった?」

「……」

 ヨウコはそのまま黙り込んでしまった。


 そして、ヨウコは、ユウと同じようにあの神社を訪れたのだ。神社、いけにえの少女という設定は、ユウも考えたこともあった。だからこそそれに関わる昨年の彼女の新作を、盗作と決め込んでいたが、ユウも、そしてヨウコも確かに、あの少女をみた。そしていま、この“未来と過去”をたしかにみた。ヨウコは何を願ったのだろう?

「どうかあの人と結ばれますように」

「この野郎!!」

 思わず叫んだ。そして体がとびおきた。だが気づいた。彼女と自分は結ばれていない。そして、彼女は昨年死んだ。生贄の少女は“願いの代償”を求めた。“大切なもの”に支払う事ができなかった代償を、願った本人に。すなわち寿命?。

 顔を上げると、そこにはあの少女がいた。

「どう?代償を支払うきになった?あの性悪女の寿命を」

 ユウはにっこりわらっていった。

「とんでもねえ、あいつはいい女だ」

 その翌日、ユウの死体は発見された。自分で自分の首をしめた異様な姿で。














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