第2話
「元社長は自分がアイドルになれなかったことを逆恨みしているんです」
「お願いです、僕らを守ってください、そして、元社長を成仏させてください」
そういって、売れっ子アイドルのユミコとワタルが古びた雑居ビル4階の心霊万屋を訪ねてきた。
「ああ、かまわないけど、その件ならもう解決しているんだよ」
「解決?」
「別の依頼があったってことですか?僕らじゃなくて一体だれが……」
「……守秘義務というやつでね、とにかく、君らの願いを別で聞き届ける事はできるが、いったい何が望みなんだね?」
「それは」
「私たちは……」
週刊誌に彼と彼女らの素顔が載ったのは一か月前だった。だがそれは別のスキャンダルをもたらした。彼らの事務所の40代の社長が、その告発人という事になったのだ。時を経ずにその敏腕女性社長は自殺をした。遺書にはただ
「止められなかった」
と書いてあったのだ。
「何が止められなかったのか?」
すでに、事務所を訪ね、事務所元社長の“ユイ”を霊体としてみて接していたハミラは、彼女に尋ねたのだ。
「それは……」
「君が止められなかったのは、彼女らの“奇行”そういう事になっているが、君は心が強い事で有名だった、そうしたものが精神的に病む事もあるが、君は何かをかくしていないかい?」
「……」
霊体を疑うべからず。ハミルの目的は、霊体の感情と、依頼者の感情のバランスをとることだ。だから、ユミコとワタルの願いをかなえた。死んだ元社長を、彼女がよく利用していたホテルに呼び出したのだ。
「私たちを、バッシングしたかったんですよね」
「あなたはアイドルになりたかった、自分がなれなかったから、僕らを恨んで……あの顔だって、あなたの顏だってもっぱらの噂ですよ」
女性社長はそっぽをむいた。ユミコとワタルは霊体をみても少しも怯えず、むしろ何かを“肯定”してほしいようだった。
「社長、僕らに謝ってください、そして、“こんなに醜い僕ら”より“綺麗な写真”をリークしたことを、僕らに謝罪してください」
「社長!!私たちは世間に恨まれ、バッシングされてきた、整形を繰り返してきて、なんとか醜さを変えてきたのに」
社長は沈黙した。ハミラも沈黙した。
ハミラはしっていたのだ。彼らは決して醜くなどない。整形前の顔だっておかしくない。普通よりずいぶん美男美女である。しかし彼らは―少し病んでいた。醜くない自分を醜いと思い込んでしまう病だった。そして自分を憐れんで週刊誌と元社長を訴えるといっていた。
「訴えを取り下げてもいいです」
社長は、ワタルにそういわれて顔を上げ、顔を明るくした。ハミラはそれですぐに気付いた。大きな矛盾に。
週刊誌は、報道の後に大バッシングをうけた。彼女らの病気をしっていて、報道をしたためだ。そればかりか事務所も、もちろん元社長もふさわしくないとして、謝罪や抜本的改革をもとめられた。その引継ぎが終わったあと、彼女は自殺をしたのだ。
「ごめんなさい」
社長が謝罪をすると、彼女らは、満足して微笑んでいた。
「いいんです、社会的弱者がまもられるのなら」
ハミラは、その後“依頼者”のいる事務所を訪ねた。依頼者は、元社長の姪で現社長だった。元社長と昔から仲が良かったらしいが、それでも敏腕で有名だった。ハミルが事件の顛末をいうと、依頼者はいった。
「本人たちがいいなら、それでいいんじゃないですかねえ」
「たしかに、これで週刊誌たちは騒ぎ立てることがなくなる……しかし、愚かですねえ」
「はい?」
「いえ、こちらの話です」
ハミラが事務所を出ると、報酬を受け取り、しかししっくりこない顔で事務所を出た。社長は誰もいない事を見計らって、メイクをとった。ひどく厚く塗ったその顔の下は、ゴツゴツで、週刊誌にリークされていた。ユミコの顔そのものだった。
「ユミコ、ワタル、あなたたちはもう、私の標的ではないわ、アイドルになれなかった逆恨みをしてきたけれど、これ以上週刊誌に内情をさらされるのはごめんなのよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます