第34話 妖精の真実

「――それで白さん。もう一つ本題があるのですが……」

「――それは僕から説明するよ」



 理恵との話が一段落した頃を見計らって、米山ともう一人の人物――妖精が話しかけた。



 その妖精は片手に収まるほどのサイズで、背中から生えた一対の羽が特徴的であった。

 まさに童話から飛び出してきたような妖精だ。

 そして、この妖精を自分は見たことがある。



「確か……」

「――ベル!? 急に改まってどうしたの?」



 そうだ思い出した。理恵と契約している妖精だ。名前は――ベルと言うらしい。あまり関わる機会がなかったため、今まで知らなかった。



 ベルは米山の隣に出現して、自分と理恵の両方の視線が集まるのを待つ。

 どうやらベルが話す内容は、契約者である理恵も存じないようだ。



「――アイスマンとも相談して、妖精王様の許可も頂いている。事態が急だからね。僕が話すよ。白君も聞いてほしいな。魔女の怪人――クロ、君の家族にも関係することだ」

「――!」


 クロに関係する話題。そういうことであれば、聞き逃すことはできない。

 もう自分はクロと一心同体であるのだから。



「二人とも大丈夫なようだね。なら話を始めよう。君達は何故僕ら妖精と怪人が争っているか、分かるかい?」

「えーと、人間にとっての敵だからかな……?」



 理恵の答えは至って一般的なもので、世間的共通認に基づくものであろう。

 しかしクロの記憶を一部ながら共有する自分であるのなら、全く別の見解になる。怪人側としての。



「――妖精達に対する復讐だよね……確か」

「白には分かるようだね……。これもクロと同化した影響かな。……恥ずかしいながら、怪人達を作り出されのは――僕達妖精なんだ」

「――え」



 自らの契約妖精の言葉が信じることができなかったのか、理恵は空いた口が塞がらないようだ。

 呆然としたまま、固まってしまっている。

 米山の方は頭が痛そうな顔をしているが、それ以外の反応は見られない。事前に聞いていたのだろう。



「――僕達妖精は妖精王様がお創りになったんだ。一人で多くの妖精をね。とてつもない強大な力を持っているから可能だったんだ。だけどそんな妖精王様でも全知全能ではないからね。一つだけ不備があったんだ」

「……それが怪人……」

「――その通りだよ。創り出された妖精の中には失敗――というよりかは悪性が強い個体が発生してしまってね。その悪性が他の妖精にも伝染することを妖精王様は恐れたんだ。そうして妖精王様が選んだ方法は――」

「――妖精界からの永久追放。その先は妖精界や人間界とも異なる世界。ここは便宜上、怪人界と呼称しようか」



 妖精界や人間界、そして怪人界。

 怪人の正体が、元々は妖精と同一の存在であったという事実。

 次々と壊されていく常識に、理恵の頭から湯気が立ち上っているように見える。



 そんな契約者の様子を気にせず、ベルは言葉を続けていく。



「――そして妖精界を追放された妖精達の内に存在する悪性が増幅していった。その結果、君達が言う怪人の誕生だ。その通りだろう、白」



 このタイミングで自分に話を投げかけてくるか。

 確かにこの話が本当であれば、魔法少女――ひいては人間側からの妖精達の信用は地に落ちる。

 そこをわざわざ人間側と怪人側、両方の視点に持つ自分に確認することで、話が本当であるかを証明する。

 よく考えられた流れだ。



「――ベルの言う通りです。クロの記憶で見た限りだと、怪人は妖精の一種だったんだ。それで悪性が際限なく強まった怪人達の意思は統率された。――妖精達に復讐したい、妖精界に戻りたい、と」

「……じゃあ……別に人間自体に何か特別な感情を抱いている訳じゃないの……? 妖精も怪人も」

「うん……妖精達も怪人が発生してから、何度も直接手を下そうとしたができなかったんだ。妖精が怪人界には干渉できない。その逆も然り。そして彼らは互いに限定的ながらも、力を振るえる場所を求めた。その場所こそが――」

「――私達が住む人間界……」



 本当に迷惑な話だ。勝手にやっていろと言いたい所である。

 妖精は怪人に比べて出力できる力に差が出でしまう。現に使用できる魔法が防御系統に偏っているのも、それが原因になる。

 そして人間界で妖精が間接的とはいえ、力を十全に行使するために選んだ手段とは――。



「――第二次性徴期頃の少女との契約。つまり魔法少女の存在そのものが妖精にとっての武器に近い認識なるのかな……?」

「……それって、私達は単純に妖精と怪人の争いに巻き込まれてだけなの……? それで死んだ人達もいるのに……」

「……それについては申し訳ないと思っているよ。僕らの事情に巻き込んで起きた犠牲の数々。決して謝罪だけでどうにかなる問題じゃない。一つのやるべきことが済んだら、僕ら妖精は人間界に絶対に干渉しない。これは妖精王様の方針だ」



 そう断言するベル。

 妖精と怪人に間する問題は、今回の件で終わりを迎えるだろう。



「怪人もそれに関しては同じはずだよ」

「――どういうことですか?」

「スノーは既に九尾の怪人から話を聞いているみたいだけど、リエは意識を失っていたからね。改めて説明するよ。――近日中に怪人達による大規模な侵攻がある」

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