第27話 真実の一端
時間はクロが『堕落への誘い』から正気に戻った時まで、少し遡る。
■
「――スノー、赤鬼の怪人の様子が変だ」
「はあ……はあ……、こっちはそれ所じゃないんだけど――ん? どういうこと?」
決死の覚悟で足止めをしていた対象――赤鬼の怪人の動きに異変が見られた。
それまでは私を全力で排除しに来ていたのだが、急に攻撃を止めた。十秒程様子見に徹する。しかし、そのまま静止して動きそうにない。
術者であるクロの魔力が切れたのだろうか。そんな私の予想は、アイスマンに否定される。
「いや、あっちの方では魔力の動きが僅かだが確認できる。あの怪人はまだ動けるはずだ」
アイスマンの言葉に、緩みかかった気を再度締め直す。警戒の度合いを上げて、こちらから仕掛けようとした瞬間。突如赤鬼の怪人が行動を起こした。
咄嗟の出来事で対応が間に合いそうにない。そう思ったのも、一瞬のみ。
赤鬼の怪人が得物である金棒を振るった先は、辺りを囲うように散開している小型の異形達であった。
無様に抵抗を試みている私達を嘲笑ているのか、元々醜い顔を更に歪めて不愉快な鳴き声を上げていた。
先ほどから耳障りであった異形達の鳴き声は、瞬時に悲鳴へと変わる。その悲鳴すら、聞くに堪えないものであるが。
一応味方であるはずなのだが、いきなり同士討ちを始めてしまった。突然の赤鬼の怪人の豹変ぶりに困惑することしかできない。
けれど、思考の放棄は死同然だ。考えることを止めてはならない。
クロの魔法に操られている赤鬼の怪人が、悪魔の怪人が召喚した異形達を攻撃し始めた。
傍から見れば、仲間割れにしか連想できない状況。しかし肝心のクロが、悪魔の怪人の魔法によって洗脳されていることを考慮すると、意味は大分変わってくる。
思い至る答えは一つしかない。
「――正気に戻ったのかしら、クロは……」
「そう考えるのが自然のようだな……」
「そうね……」
最低限の警戒に留めて、攻撃準備に入っていた魔法を解除する。
赤鬼の怪人との戦闘で消費した魔力が多く、もしも長引いていれば、最悪死んでいただろう。
詳しい原因は不明だが、あちら――ファイの方は上手くいったのだろうか。
他のことを考えている間に、赤鬼の怪人は矮小な異形達をすり潰していく。一体ずつ丁寧に。
それほどの時間をかけずに、異形達は全滅してしまった。
「■■■■……」
「……!?」
次の標的は私達か。そう思い身構えるが、その必要がないことを悟る。
赤鬼の怪人は異形達の肉片を、いつの間にか出現していた門の中に、投げ入れていく。
そしてその作業が終わると、門の奥から異形達が五体満足――いや欠損部分を他の何かで補った状態で這い出てきた。
赤鬼の怪人を先頭にして、魑魅魍魎の軍勢はクロとファイの方へ向かって行った。
これで、向こうの戦場も遠からず決着がつくだろう。
この一連の流れで、私はクロの意識が完全に正気に戻ったことを確信する。
私達も参戦しようとアイスマンに合図を送ろうとした時に、どこかで聞き覚えのある声がした。
「――そこの魔■少女よ。■が主からの伝言だ。この二■を頼■と」
「貴方は……!」
その声の主はクロが使役する怪人の内の一体である、吸血鬼の怪人であった。
血を操る魔法によって作り出された板のような物の上に、ファイと救助対象である少女が横に寝かされている。
器用に操作された血によって、二人は地面に優しく降ろされた。
二人の姿を確認すると、私は慌てて近づこうとする。その私の行動に、吸血鬼の怪人は特に干渉してこない。
二人に目立った外傷はなく、呼吸も安定している。これで一安心だ。そう思っている所に、吸血鬼の怪人が声をかけてくる。
「あ■まで私が彼女達に施したのは、応急処置だ。外傷がない■うに見えるのも、誤魔化し■過ぎん。急いできち■とした設備の整った施設に連れて■くようにし■」
「――分かったわ……! それでクロの方は……?」
「――主の■であれば、心■は無用だ。直■片がつく」
何の躊躇いもなく、断言する吸血鬼の怪人。そんな彼に対して、今まで無言を貫いていたアイスマンが言葉を発する。
「――君はあの魔法に取り込まれていても、自我はある程度残っているようだ。それで他の怪人とは違う視点も持っているだろう。その上で質問させてもらうけど、よく彼女――クロに従っているね? 自分を殺した相手に対して。君達怪人にはそういった機能はなかったはずだが――クロの魔法の効果がよっぽど特殊なのか?」
「■れを妖精の貴様が言■か? そ■そも私達をそういう風に創り出し■のも――」
「――ねえ、それどういうこと?」
二体の人外の会話に耳を傾けていたが、聞き逃してはならない内容が耳に入り、横から割って入ってしまった。
「――それ■関しては、私から話す■とはない。そこの妖精に■ら聞くがいい。――どうやら、主の■も終わったよ■■」
「ま、待ちなさい!」
「――いや、今はそのことはどうでもいいよ、スノー。今はファイ達の安全と、状況の把握に努めないと」
「――分かったわ。それよりさっきのことについては後で聞かせてよね!」
去っていった吸血鬼の怪人を追いかけるために、私達は移動を開始した。
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