第20話 魔女狩り③
「クソが………」
「――思ったよりも、頑張ったじゃないか」
自分と赤鬼の怪人の周りには、何十体以上の怪人の残骸が散らばっていた。その中には脅威度Aの個体が三体含まれており、赤鬼の怪人の強さが尋常ではなかったことが伺える。
しかし自分と同格の相手を複数しつつ、大量の取り巻きと戦うのはやはり無理があったようだ。
あれだけこちらを殺すと息巻いていた赤鬼の怪人は、荒い呼吸を繰り返し、全身の至る箇所から血を垂れ流している。
このぐらいの損傷であれば、自分の魔法『ネクロマンサー』で手駒に加えた後でも、戦闘能力にはほぼ劣化はないだろう。
「主■。この不届■者の始末はど■ように?」
「――いつも通りだ。抵抗されても面倒だからな。首を刎ねろ」
「御■」
何故かしれっと生き残っていた――『ネクロマンサー』の制御下にある対象に使う適切な表現でない気がするが――吸血鬼の怪人に指示を下す。
『ネクロマンサー』の制約の一つで、取り込む対象の息の根は止めておかなければならない。
殺した相手を、自由意思や尊厳を奪った上で、延々と使い潰す。
我ながら、本当に趣味が悪い魔法だ。人形遊びと揶揄されるのも、分からなくはない。
今回の騒動で、相当な消耗を強いられた。けれど、赤鬼の怪人と、大量の小鬼の怪人達を吸収できることを考えれば、お釣りが出るレベルだ。
少なくとも、赤鬼の怪人は脅威度A以上の実力を秘めている。失った分の戦力の補充としては充分過ぎる。
そこで、ふと疑問が湧く。そもそも何故この怪人達は徒党を組んで、魔法少女を狩っていたのか。
自分が倒してきた怪人は、何れも単独で暴れていた。個体としての強さ、知能の高さに限らずに。
対処する側としては楽なのだが、どうにも違和感が拭えない。ニュースやネットの記事を見た際にも、一箇所に怪人が複数体現れたという内容のものは確認できなかった。
理由次第では、今後の行動に大きく影響する。
止めをさす前に、質問を投げかけよう。そう思い、自身が血で創った剣で赤鬼の怪人の首を刎ねようとしていた吸血鬼の怪人に静止をかける。
「――おい、一つ疑問があるんだが、答えてくれるよな? どうして俺――というより『魔女』を探すことに拘っていた?」
「――はっ! 何で俺がお前の要望に応える必要がある?」
「この状況でどっちが主導権を握っているか、分からない程間抜けじゃないだろ?」
「ぐっ……!」
悔しそうに表情を歪める赤鬼の怪人。それに対して特に思うことなく、魔力を少し放出して杖を向けて威圧する。
新手が来る可能性だけではなく、別の魔法少女が異変を察知して派遣される可能性もある。この現場を見られると、厄介事になりかねないので、早めにこの場を立ち去りたい。
こちらの内心を知ってか、知らずか。数分間の沈黙の後、赤鬼の怪人はようやく口を開く。
「――どの口が言いやがる……! どうやら小さくなったのは体だけではなく、脳味噌もかよ! こいつは傑作だ! 物覚えも悪くなったとはな!」
「何が言いたいんだ……?」
「忘れたんなら、何度でも言ってやるよ……! お前は――」
赤鬼の怪人が言葉を続けようとした瞬間、その口は物理的に止められることになった。
強い衝撃を受けたかのように、赤鬼の怪人の頭部が吹っ飛んでいった。
「――は?」
あまりな急展開に、脳が理解を拒む。全ての思考が止まっている自分の耳に、この場にはいない第三者の声が割り込んできた。
「――余計なことは喋らなくて良いぞ」
男の声であった。視線を声の方へ向けると、いつからそこにいたのか、一体の山羊頭を持つ異形――怪人がいた。
状況的に赤鬼の怪人を始末したのは、目の前の怪人だろう。理由は何だ? 口封じか、それとも間引きか? ――いや、今それよりも。
「――お前達、構えろ」
傍にいる怪人達に命令を下し、周囲の防御を固める。赤鬼の怪人との戦闘で呼び出していた死体は、半分以上倒されている。
実力が全くの不明の敵に対して、半端な戦力で相対するのは心もとない。しかし次の手駒を召喚しようとする隙をさらす訳にもいかず、現状の手持ちで事に当たるしかない。
赤鬼の怪人の口封じが目的だとしても、何故度々姿を現すのか。自分の強さに自信を持っているのかもしれない。もしも赤鬼の怪人と同等の力を保有していた場合、だいぶん厄介だ
この状況で別の魔法少女が来たら、余計にややこしくなってしまう。
こちらが臨戦態勢を整えている間、山羊頭の怪人は興味深く観察するだけで、それ以外の行動を起こそうとはしなかった。
一通り見て満足がいったのか、山羊頭の怪人は右手で顎の毛を撫でながら、こちらに向けて話し始めた。
「はは、いきなり物騒だな」
「――それはこっちの話だ。しかもお仲間を殺すとは、随分と急だな。そんなにこっちに知られると困ることか?」
「別にそんなことはない。吾輩だけに限らず、他の怪人でも同じことをするだろうよ。吾輩達怪人は実力主義でな。弱者は必要ない。ただそれだけのことだ」
そう言い切った山羊頭の怪人。そもそも相手の言い分は関心はないが、何の目的でやって来たのか程度は把握しておきたいのであるが。
「――それよりも、随分と面白いことになっているな。先ほどの戦闘の様子を見させてもらっていたが、魔力の質や魔法は『魔女』そのものではないか」
「――だから、さっきから『魔女』『魔女』って。いったい何のことだよ」
「――? ああ、なるほど。理由も知らずに、無理やり力を押し付けられたのか。それはご愁傷さまだな」
山羊頭の怪人の物言いに、引っかかりを覚える。
内容をもう一度思い出せ。『力を押し付けられた』? 今自分が行使している力は、どういう経緯で手に入れたのか。
今までバラバラになっていた点と点が繋がる。
――クロの正体が、『魔女』と呼ばれる怪人であった。
薄々そんな予感はしていた。そのせいだろうか。不思議と怒りは湧いてこない。もしかしたら、騙されていたのかもしれないが、クロと過ごした日々の思い出は嘘をつかない。
例え、クロが本当にこちらを騙していたとしても、自分は信じる。家族一人であるのだから。
「――別にクロがどう思っていたのかは、どうでもいい。だけどな、俺の家族を侮辱するな」
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