第19話 魔女狩り②
「――お前達、小手調べだ。行け」
赤鬼の怪人の指示によって、小鬼の怪人が特攻してくる。それらを迎撃するために、召喚した豚男の怪人に命令を下した。
「■■■■ーー!」
「ぐえ――」
「ギャ――」
得物である斧が規則性のない、されど確実に命を屠る勢いで振るわれる。的である小鬼の怪人を逃すことなく、醜い断末魔を上げながら、その数を減らしていった。
「――相変わらず趣味の悪い魔法だな、魔女。そうやって死体を使った人形遊びは楽しいか?」
「だから、さっきから魔女、魔女って。誰のことだよ。勘違いじゃないのか?」
「はんっ。誰がお前の魔力を間違えるかよ。なりは全然違うが、お前はその魔法を見るに趣味の悪さは変わってなさそうだな」
赤鬼の怪人の話している内容は、こちらに見に覚えがないことばかりであった。要約すると、自分の魔法『ネクロマンサー』と似たような――或いは同系統の魔法を使う人物と、自分を同一人物だと混同しているようだ。
――『魔女』? 今の自分は心外ながらも魔法少女であるが、魔女という如何にもな闇堕ち状態になった覚えはない。
人語を解する怪人は、軒並み脅威度が高い傾向にある。現在自分が保有している怪人の中で、吸血鬼の怪人がまさにその例だろう。
自分が普段愛用――というよりかは強さ的に便利な、豚男の怪人と女怪の怪人は例外に入るのだが。
それはともかく、これだけ会話が成り立つのだ。奥の方でふんぞり返っている、赤鬼の怪人はさぞかし強いに違いない。
そう考えている間にも、豚男の怪人によって、小鬼の怪人は数を減らし続けている。
意味のないやり取りに疑問が拭えない。赤鬼の怪人の余裕そうな態度であるため、少なくとも豚男の怪人よりは強いのだろうと推測できる。
しかし、こちらの魔法について事前の知識があるのであれば、無意味な消耗戦は避けるはずだ。こちらの手札は赤鬼の怪人にはバレていない。
それに加えて、赤鬼の怪人が脅威度A以上あったとしても、同等の強さを誇る怪人を複数体保有している。最悪数に任せた物量戦という選択肢がある以上、自分の有利は揺るがない。
「どうした? 雑魚を特攻させるだけが、お前の戦略か? だとしたら、随意とお粗末なものだな」
「――ああ? 安い挑発だなぁ。良いぜ、その挑発に乗ってやるよ……! お前達引っ込んでろ!」
赤鬼の怪人の一声で、小鬼の怪人達は動きを止めて、後ろに退いていく。
ドシン。そんな音を立てながら、赤鬼の怪人は巨大な金棒を構え、こちらに接近してくる。
「■■■■……!」
元々の損傷が大きかった豚男の怪人は、口や鼻から泥のような液体を垂れ流し、不快な雄叫びを上げる。
その豚男の怪人の様子に、赤鬼の怪人は不愉快そうな表情で言葉を吐き捨てる。
「――ああ、残念だなぁ。万全の状態のお前だったら、良い勝負ができたろうに」
「■■■■……!」
「せめてもの慈悲だ。さっさともう一度死ね」
■
「ふーん、やっぱり大口叩くだけあって強いんだな」
赤鬼の怪人を相手にした豚男の怪人は、いつかの日のようにその体が無惨にもバラバラにされていた。
鹵獲した際の死体の状態が悪かったということもあり、元よりも大幅に弱体化していた豚男の怪人。
それでも脅威度に換算すれば、B以上はあったはずだが――。
血や泥に似た液体が混ざり、何とも言えない色になる。形容し難い色の液体は、先ほどまで動いていた肉体から止めなく溢れていた。
辺りに満ちていく鉄臭い香りに、顔を顰めつつ、赤鬼の怪人に視線をやる。一戦を終えた後だが、特に疲労している様子は見られない。
前衛が物理的に潰れた自分に、直ぐ様追撃を仕掛けてこないことから、相手の余裕さを感じられる。
「――これで終わりじゃないだろう? 早く次を出せよ」
「はい、はい。後悔するなよ――魔法発動『ネクロマンサー』」
相手側が慢心してくる分には、こちらに都合がいい。
目の前で幼い少女――アンを殺してくれたのだ。表面上はできるだけ平静を保とうとしているが、内心腹が煮え繰り返っている。
先ほどの赤鬼の怪人の発言から、襲撃を受けたのは自分達だけではなく、被害者は複数人いることも伺えた。しかもこの一連の襲撃は、ここ数日の出来事ではなく、たったの一晩で行われていると予想される。
でなければ、アンのような新人の魔法少女が深夜の時間帯に単独での活動は許可されないはずだ。
行動力も考慮すると、この場で仕留めなければ余計に犠牲者が増えていくだろう。
相手のお望み通りに、一切の加減、油断もなく屠ることを決意する。
最早見慣れた、禍々しい雰囲気の鉄製の門が背後に現れる。彼岸と此岸を分かつ鎖が、派手な音を立てて弾け飛んだ。
「――――」
「あ■、主よ。ご無事■したか? 今■ぐあの脳筋を始末してみせま■■う」
女怪の怪人、吸血鬼の怪人を始めとした、脅威度Aの怪人を持ちうる限り――計六体を呼び出す。更にそれだけではなく、脅威度B以下の怪人を手持ちの半数程――正確な数は把握できていないが、感覚として四十体前後――を召喚する。
赤鬼の怪人が、大量の怪人だったものに囲まれた。嘗ての同族達に何を思っているのか。
下らない思考を打ち切り、戦闘に意識を戻す。
所詮人間と怪人の間では言葉を交わすことができても、和解は通常では不可能だ。現在自分に従っている怪人も、言ってしまえば脱け殻を魔法の力で無理やり動かしているだけに過ぎない。
――だから、こいつをさっさと倒してしまおう。無駄なことを考える必要はない。
「――できるだけ、綺麗な状態で倒されてくれよ?」
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