帰宅部とこども部
扉が開いて、呑気かつハイテンションそうな雰囲気の少女が入ってきた。
「って、うわぁ咲!どうしたのこんなところで。」
「やっほー咲良。こども部、順調みたいじゃん。おねーちゃん安心したよ〜。」
学校でもその一人称は健在なのかとため息をつく咲良に先んじて、スマホから顔を上げない心晴が先に話しかける。
「咲良ちゃんのお姉さんですか?どうしてここに?」
「ふふ、咲ね、帰宅部の部長なんだ。」
「ああ、それで暇だから来たんですか。にしても珍しいですね、部長名乗ってる人、初めて見ました。中学だと自称エースはたくさんいましたけど。」
「って思うよね〜。それが違うんだ。」
「どういうことですか?」
「帰宅部ってれっきとした部活なんだよ。咲が去年設立したの。活動届も出してるし、部長会とかもちゃんと出てるんだ。役職も会計とか書記とかいるし、活動日は週4だから結構忙しい方だね。」
「…そうなんですね。」
心晴が気圧されたように呟く。因みにゲームの手は止まらない。傍から見ればかなり失礼な態度とも言えるが、咲は当然気にしない。
「週4で帰宅の活動って、残りの日はどうしてるんですか?」
代わって蒼真が訊く。咲はうんうんと頷く。
「いい質問だねー!答えは簡単!活動日以外はただ帰宅するんだよ。例えばサッカー部だって部活以外でもサッカーするでしょ?体育の授業とか、遊びとか。そんな感じ。」
「じゃあ、活動日はどう帰宅してるんですか?どういうこだわりでというか。」
「これもいい質問だね〜。活動日はね、いかに楽しく速く帰るかとか、逆にゆっくり帰るかとか、寄り道の最適ルートを探ったりとか、他にも色々。結構奥が深いんだよー!気が向いたらぜひこっちにも来てね!」
目をキラキラさせながら咲が言う。誰が見ても本当に帰宅部が好きなことがわかるような表情だ。
「ちょっとー、それでみんながそっち行っちゃったらどうするの?せっかく4人集まったのに。活動妨害だよ。さっさとお帰りください、帰宅部なんだから。」
「えー?咲たちも部室ここなんだから追い出さないでよ!今日の帰宅計画詰めないと、部活始められないんだから。」
咲良の動きが止まった。
「咲たちも部室ここ?え、どういうことそれ!」
「どうもこうもないよー。咲たちはもともとここが部室で、どうせ帰宅部なんて教室使ってないだろうってことでこども部と共同になったんだよ。もしかして知らなかった?だめだなーきょーちゃん、説明不足!」
「いや、言ってはなかったけど入部届に小さい字で書いてありましたよ。冤罪ですね。宮村が、あ、いや宮村咲良が読み飛ばしただけじゃないか?」
琉生がしれっと言う。
「失礼だなあ。まあ多分そうだと思うけどねー。ごめんなさいきょーちゃん先生。っていうか咲良でいいよ、フルネーム長いでしょ。」
「長くはないだろ。まあ分かった、咲良で。」
「二人もよかったら呼び捨てしてね!憧れだったんだよねー中学の時。小学校と違ってみんなちゃんとかさんとかつけてたからさ。もう一生このままかなとか思ってだいぶ悲しかったんだよ!」
「はーい、じゃあ咲良って呼ぶね。どうせなら私も呼び捨てしちゃってね、こども部として。」
「はっきり言われると分かりやすくて良いね。なら俺も咲良って呼ぶ。」
「はいはーい、じゃあ咲も…」
「咲は違うでしょ!普段から咲良って呼んでるくせに。」
「あっははー、ごめんごめん。じゃあそろそろ行こうかな、ドアの外に部員いるし。じゃーね!」
「え、あ、ちょっと?」
咲良が慌てた一瞬で咲は外に出た。そして入りづらくて外で待っていた部員と談笑しながら歩いていく。
『今日はどのルートで帰る?』
『久しぶりに第3交差点カラオケルートとか行きませんか?』
『お、それいいな。』
『じゃ、そうしよっか。みんないくら持ってる?』
『あ、待って財布見ないで!あんまり入ってないから』
『え〜、あなた500円しか』
『ちょっと!』
声が階段を降り始めたところで咲良は教卓の前に立った。そして改めて呼びかける。
「はーい、こども部ちゅうもーく!」
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