第1回こども部会議
「はい、じゃあ今から第一回こども部の活動を始めたいと思います。よろしくお願いしまーす!」
放課後の1年2組から咲良のハイテンションな声が聞こえてくる。
ちなみにこの教室は帰宅部と共用になっているが興味のない情報にとことん疎い咲良はまだそのことを知らない。どうせ帰宅部は会議なんてしないだろうと同じクラスに押し込んだ先生を恨むことになるのはあとちょっとだけ後のこと。
「よろしくお願いします。」
「お願いします。」
「…しゃーす。」
「蒼真、やる気ないね。」
「そうだな。」
ほとんど目を合わせずに蒼真が答える。
「あー、まあ自覚あるのは良いことだよね!」
適当に解釈して、咲良はチョークを手に持つと、達筆とも悪筆とも言えない若干のくせ字で『第一回こども部会議』『活動方針』『活動内容』などとすらすら書き付けていく。
「そういえば、みんなは中学どの辺なの?」
窓際のひなたの席を確保してスマホでゲームをしながら心晴が言う。正直このメンバーの中で一番コミュ力があるのは彼女だろう。咲良と蒼真はそれぞれ正反対の理由から論外として、琉生も初めのうちから話し始めるタイプではない。
「俺は電車で30分ぐらいかな。中学の時より朝が結構早くなってきつい。」
琉生が苦笑いする。
「あー、朝は大変だよね。特に宿題終わらなかった日とか結構絶望。」
「あれ、屋代、遠いとこに通ってたことあるの?」
「無いよ!」
「じゃあ今は?」
「自転車で7分。」
「近!いいな。」
…この会話で、最後の言葉だけ蒼真が言ったと聞いたらどう思うだろうか。人によって意外に思ったり何とも思わなかったりそれぞれだと思うが、こども部の面々は後者のようだった。
「それでここに決めたからだよ。しかも通学路に坂は無いし、勉強しなくても入れたし、いいことしか無い。」
「屋代それ最高じゃん。」…蒼真。
「えへへ。」
「お前人生二周目なのか?」…蒼真。
「まさかー。嫌だよそんなの。」
「じゃあ三周…」…蒼真。
「一周目。」
「…お前天然?」……琉生。
ツッコミを入れた琉生はかなり意外そうな顔をしている。蒼真は無愛想でやる気がないタイプだと思い込んでいたから、楽しそうに会話する様子とどこかぼんやりした受け答えを不思議に思っているようだ。
「いや、違うと思う。どちらかと言えば俺真面目な優等生顔して生きてるから。」
「じゃあそれ多分失敗してるよー!私から見ても蒼真天然だもん。先生に自分のこと名前で呼ぶ派なんですかって言った時から思ってたけど!」
チョークを握ったまま咲良が口を挟む。
「そう?じゃあそうなのかも。」
「あっさり流されんな自称優等生!」
「ごめんそれ取り消せる?くそ恥ずかしいんだけど。」
「いやいやー、こういう集まりには一人必要な役回りだよ、抜けてる優等生。だから消されちゃ困るなー、逆に!」
咲良は嬉しそうに言いながら活動方針に1つ目の項目を書き込む。
『楽しむ!!』
そして大きくスペースを残したまま活動内容を書き始める。
『①公園で遊ぶ、』
それだけ書くと樹形図のように下に線を伸ばす。
『鬼ごっこ、かくれんぼ、ドロケイ、木登り、グリコ、』
考えなしに横書きしたせいで、あっという間に黒板の残りの横幅を埋め尽くしてしまった。気にせず2行目に移る彼女が視界に入っているのかいないのか、心晴はスマホを横持ちして音ゲーを続けている。指が凄まじい速さで動いているのを蒼真は不思議そうに眺めていた。
「武田くんは中学どのへん?」
「自転車で20分。」
さっきまでの楽しそうな顔はどこに行ったのか、結構な低い声だ。
「えー、じゃあ結構近いね!」
「あれ屋代7分って言ってなかったっけ?」
「うん、だから『結構』って言ったんだよ。」
「ああなるほど。そんなことよりさ、よくゲームしながら話せるな。俺絶対無理なんだけど。」
「こんなの慣れだよー。誰でもできると思う。」
謙遜か?と思った琉生が後ろから画面を覗き込むとそこには一つのミスもない完璧なスコア。
「いやお前化け物だろ!」
「そんなことないよー、ほんとに誰でもできるって。」
心晴が本気で謙遜し始めた時、咲良が前で手を叩いた。
「はーい、こども部ちゅうもーく!」
その時扉が開いた。
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