第3話

神座警察署は慌ただしかった

所管内で事件が起きるとエリート意識の高い本庁からくる捜査一課の刑事達が我がもの顔で署内を歩き回るのは署員からしたら面白くない

その面白くない事の為に本庁から人が来る前に色々用意をしないといけないのでその準備も腹ただしい

なので慌ただしさと不満が混ざった空気が入り乱れていて署内は不穏な空気に満ちていた

戸川達が3人が神座警察署内に入るとパリッとした制服を着て髪を綺麗に整えた警察官が戸川、加藤に目もくれずに笹貫に近寄り

「これは捜査一課長殿、随分とお早いお着きで」

「どうも川原署長、たまたま近くにいたものでね、帳場がこちらに立つと聞いていたので急いでこちらに来ました。色々お手伝いをお願いする事あると思いますがよろしくお願いします」

笹貫が署長と思われる人間と話しているとちょうど本庁から捜査一課の面々が到着した

「課長?!なんでもう?」

「あー…個人的な用事で近くにいたからだよ、さて本部に行きますか、あ!戸川さん、加藤君も本部に出入りしていいからね。なんか言われた僕の名前出していいから」

「課長?この方々は…?」

怪訝そうに捜査一課の人間は2人を見た

「僕の個人的なお願いを頼んだ2人だ、丁重にね。あ、彼らにもキチンと情報を渡すんだよ。いいね、さて行こう」

そう言い2人より先に笹貫を先頭に一行は神座警察署のエレベーターへ

「やっぱり笹貫さんてキャリアなんすね」

「は?」

「いや、まぁ捜査一課の課長なんて俺みたいな奴からしたら…」


ビシッ!


戸川が加藤の背中にパンチ


「痛!なにすんすか!」

「つまらない事気にしない!アンタも優秀だよ、それに笹貫さんはノンキャリアなハズ」

「マジっすか?!」

「そうだよ、確かね」

2人でそんな話をしていると入口奥の階段から声が聞こえた


「もっと早く迎えにきてよ、もぅ!」

「仕事の打ち合わせ投げ出して勝手に私達から逃げた社長が悪いんです!」

「アハハ!無銭飲食だって!だっさ!」

「あ!脳筋プロテイン男!この野郎!」

「ハイハイ、ここじゃ邪魔になりますから早くホテルに帰りますよ!」

1人はキャップにパーカー、ストレートデニムにスニーカー。綺麗な黒髪のメイド服を着た女にストライブのスーツで筋肉質な男の3人組がこちらに向かって歩いてきた

「ったく!今時カード使えないとがありえないよね!」

「良識ある大人は現金も持ってるんですよ〜無銭飲食社長さん」

「たしかに…てか社長!!ただでさえ忙しいんだからこれ以上手を焼かせ…」

キャップを被った男が戸川と目が合い近寄ってきた

「君!ウチで働かない?」

「はぁ?」

流石の戸川もいきなりの申し出に面をくらったようだ

「君なんか頭良さそうだし…それに美人だし!警察なんてやめてウチに…」

男が喋り終わる前にメイド服の女とスーツの男がキャップの男がの首後ろを掴み無理やり引き剥がした

「この人こういう人なんで、ご迷惑おかけして大変申し訳ございません」

「社長!貴方はただでさえ人に迷惑かけるんだから無関係な方々まで巻き込まないでくださいよ!ほら!さっさとクルマに乗って」

「痛いな!もぅ!もう少し優しくしてよ!」

社長と呼ばれた男を半ば2人が引きずるように連れ出し署内から出ていった


「美人で綺麗だって!やっぱり見る人が見るとわかるんだなぁ〜私の魅力」

「お世辞を真に受けないでください、それに綺麗は言ってなかったすよ?」


バシッ!


「痛!だから!いちいち殴らないでください!」

「バカ言ってないでウチらも本部に行くよ!」

戸川と加藤も本部へ足を進めた



神室警察署6階大会議室の入口に

「神座雑居ビル転落死事件捜査本部」

の達筆な戒名が貼られそこには署長と思われる人間、笹貫、笹貫の部下と思われる人間がホワイトボードの前に座り対面に捜査一課のメンバー、後ろに所轄の順で座っていて戸川達は会議室1番後ろの空いてる席に座り戸川がキャリーバックからPCを出してホワイトボードの情報を入力しているとマイクを持った笹貫が喋りだしていた

「えー今回転落死との事だけど…遺書とかは?共通点とかあるの?」

笹貫の問いに前列にいた刑事2人が立ち上がり

「特に遺書等はみつかっておりません、また被害者の財布等を調べた所それぞれ業種も違う名刺で今の所接点はありません」

「目撃証言は?」

「はい…それが…その…いきなり降ってきたとしか」

「付近の防犯カメラ、ビルの屋上とかのカメラは…」

笹貫が喋っている途中で会議室のドアが勢いよく開くと10人程の男達がなだれ込んできてそのうちの1人が喋りだした


「この事件、我々が引き継ぐ。捜査一課の皆さんは解散して頂いて構いません」

笹貫が立ち上がり食ってかかった

「まだ自殺か他殺かどうかもわからない段階でハムの方々が随分とまぁ横暴なことを…」

「笹貫課長、これは上からの命令です、追って刑事部長から指示があります。あ、現時点での証拠等も我々に全て提出を…」

「はい…わかりました………とでも言うと思ったか?刑事部の捜一を舐めるのも大概にしないさいよ?ハムさん達」

「そうだそうだ!てめぇら引っ込んでろ!こるは我々のヤマだぁ!」

「うるせぇな!黙ってしたがってりゃ…」


会議室は騒然としていたが戸川はPCに情報を入力を続けていた、そして加藤に

「あの連中写真撮っといて」

「了解っす」

と指示を出し加藤はスマホで後からきた人間を写真に収めていった

「よし、出るよ」

そう言い2人は大会議室を出てエレベーターに乗り扉を閉めて話始めた

「これも三日月ですかね」

「まだなんとも言えないな…でもこのタイミングだ…おそらくそうだろうね」

「あの野郎…今度こそ!」

「落ち着きなさい、もしかしたらアイツと私達はゴールが一緒なのかもしれない…だから先にこっちが見つけないと」

「戸川さん…?もしかしてもうなんか分かったんです?!」

「まだ憶測…とりあえず笹貫さんはしばらくここから動けないから3人目と4人目の現場に行くよ、笹貫さんにはここで待つようにアタシから伝えておく」

「ウッス!」

2人はエレベーターから降りて車に向かった



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「いやぁーまさか大臣絡み…息子の敵討ちとはねぇ」

「ゲスな男からはクズしか育たないんですね」

「全くだよ、国交大臣と警察庁長官は先輩と後輩…だから公安を動かせたんだろう」

「はぁ…くっだらない…そんなんで三日月さんに迷惑かけるとか…有り得ない」


繁華街を三日月とヒカルが喋りながら歩いていた


「三日月さん…でも大丈夫ですか?本部が立ったりしたら…」

「あーその辺は大丈夫だよ、高津の時も監視してたのは公安だろう、どうせ連中が全てかっさらっていくし僕が生きてる事はもう薄々気がついてる、でも僕は公的には死んでるし僕とことを構える事はまだしたくないハズ、それに大臣絡みだから先に例の…を捕まえる事を優先するハズだよ。ま!邪魔をするなら連中を僕とヒカルで殺しちゃえばいいんだから」

「三日月さんが言うならそうなんですね、わかりました!みーんな私が殺しちゃうから大丈夫です!」

「頼りにしてるよヒカル」

三日月がヒカルの頭を撫でながら優しく笑いかけた

「そうだ三日月さん?もう例の燃えた所とか行かなくてもいいんです?」

「うん、もうその辺は調べる必要もないね」

「でもどこにいるかなんて…どう探すんです?」

「まぁまぁ、あてがあるよ。4人目の被害者、宮川 健が殺された場所はどこか覚えてる?ヒカル?」

「あ!この辺りの!」

「そうそう、それでこの辺でそれらしい女を買う場所、そして行き場のない子達がたむろしてる場所に行けば自ずと見つけられるさ、でもまだ時間的に早いか…いない可能性もあるから少しどこか遊びながら探そうか」

「どこで遊びます?三日月さん」

「そうだなー探しながらだからその辺の複合施設で昼飯食ったりしながら探そうか」

「はーい、あ!私抹茶プリン食べたいです!」

「お、いいねぇ、んじゃ適当に探しながら行きますか」


そう言い2人は雑踏に消えて行った


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青橋の住宅街に戻り第3の被害者が焼死した現場の公園トイレに2人はいた

「しかし…戸川さんこんな所でなんで…」

「あんたみたいな男にはわかんないよ」

「出た出た、そうやって俺をバカにして」

「違うよ、あんたみたいなマトモな奴には分からないって事、あんた小さい時家出した事ある?」

「はぁ…まぁありますよ、それが何か?」

「そん時どこに行った?」

「うーん…公園…に…あ!」

「その最初の被害者の家から消えた女の子が一発目に来るとしたら…」

「ここの公園!」

「ビンゴ」

そんな話をしていると公園入口でお喋りをしていた集団を見つけた

「すみません、私達こういう者なのですが…」

戸川が集団でいた女性達に手帳を見せた

「この前の事件の事ですか?」

「えぇ、まぁ…お話を聞かせて頂けたら助かります」

戸川が珍しく低姿勢なのを加藤は軽く驚きはしたが深く頭をさげた

集団はどうやらいわゆる「ママ友」と呼ばれるグループで戸川が女性という事もあり協力的だった

「焼死だっけ?怖いわー、あれって自殺ってテレビで見たけど…」

「あ、そうですけど報告書の兼ね合いで調べて回ってるんです。この公園って珍しく入口に草木があり周りもマンションに囲まれて見通しが悪いんですね」

「そーなの、前は違ったんだけどマンションができてねぇ…それから変な人がうろつくって噂が…」

「変な奴?」

加藤が話に入ってきた

「いやね?なんか痴漢騒ぎがあったりしたのよ!」

「痴漢?!とんでもない奴ですね!」

「そうなの!なんか下校中の女の子を公園に無理やり連れ込もうとした男がいたの!その子が防犯ブザーを鳴らして事なきを得たんだけどね、そいつちゃんと捕まえてよ!早く!」

集団の1人が加藤に食ってかかった

「もう解決した事よりこういう事が起きないようにするのも警察の役目でしょうよ!」

「おっしゃる通り…目下捜索して…」

「そうやって言い訳ばかり!」

加藤が平謝りをしてそんなやり取りをしているとスマホに着信

相手は笹貫だった

「すみません…上司からで…はい加藤です…はい…今青橋の公園にいます…はい…はい…分かりましたそちらに向かいます」

「笹貫さん?」

戸川が加藤に尋ねた

「はい、今諸々終わったからできたら迎えに来て欲しいと」

「この怪しいやつの事を2人でこれから上司に伝えます、お時間割いて頂きありがとうございました」

そう戸川が言い加藤の腕を強引に引っ張りその場を後にした


車に戻ると加藤はエンジンをかけ今度は戸川は後部座席に座りPCを操作した

ミラー越しに加藤が

「まーたハッキングですか?」

「情報を下ろさない奴が悪い」

「しかし…顔も分からない女の子を探すとか…どうせ防犯カメラは消されてるんでしょ?」

「どうかな…今調べてるよ…あ!」

「え?なんか分かりました?!」

「見つけた…たぶんこの子だ」


キキィィィィ!


加藤は急ブレーキを踏みすごい勢いで振り向いた

「危ないなぁ!やめろよ!バカ!」

「いやいやいや!もう見つけたんですか?!どうやって?!」

「犯行時刻前後は消えても丸々消えてる訳じゃない、小さい子供が町から離れるなら移動手段を使う、青橋の駅は消されてたけど1つ先の西条には残ってた」

そう言い戸川は加藤にPCの画面を見せた

「戸川さんすげぇ」

画面には髪の毛が少しボサボサの女の子が西条の西改札から入場しているのが写っており画面を変えると森宿方面の電車に乗り込む姿も写っていた

「戸川さんの事だ、どうせ改札の記録も見つけたんでしょ?」

「察しがいいね!この子は親…の定期を使って入場している…区間は…森宿までだ!ほら!加藤!早く笹貫さん拾いに行くよ!」

「了解!」


加藤はアクセルを強く踏み込み神座警察署まで急いだ



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


神座町は眠らない街

24時間騒がしい街だ

そんな街の振興地区のビル横で年端も行かない男女が集団で騒いでいた

「ねぇ君たち?ちょっと聞きたいことあるんだけど…」

三日月が集団に話しかけるとヤンチャさが全面出ている男が出てきた

「んだよ、オッサン」

「いやぁ〜ちょっと人探しをしててね」

「俺たちは仲間を売らねぇよ、とっとと帰れクソオヤジが」

「そういわないで…タダとは言わないから」

三日月がそう言うと男のポケットに金をねじ込んだ

「話がわかんじゃんよ…で?誰探してんの?」

「ここ1週間以内に中学生くらいの女の子が来なかったかな?」

「…知ってるぜ、案内するよ、おーい!カズ、ひーち!アキト!ちょっと来てくれ」

集団から3人の男子が現れて男を先頭に

「ここには居ないから案内してやるよ、オッサン」

そう言い4人は歩き出した

「ヒカルはここで待ってて」

「でも…」

「大丈夫だから」

「丁度いいや、お姉さんも来なよ」

「…私も行きます」

4人と2人は人混みを抜け少し歩くと繁華街ビルの間の死角のような公園に案内された

「ここにいるのかい?」

三日月が口を開くと同時に4人がナイフを構えた

「こんな所にいねぇよ!バカオヤジが!痛い目みたくねぇなら財布出せ!」

リーダー格の男が三日月にそう言い放った

「金はもちろん払うよ、でも案内するって行ったからついてきたのに…酷いな嘘ついたのかい?」

ヒカルの殺気を感じたのだろう4人の死角で三日月がヒカルを制止すると

2人がナイフをチラつかせながらヒカルに寄ってきた

「お姉さん美人だねーこんなオッサンほっといて俺らとあそ…」

「やっべこの姉さんめっちゃ美人!胸で…」


ヒュッ

ドゴォ!


「…汚い目でヒカルを見るな…ゴミ共」


三日月が1人に強烈な蹴りを入れて吹っ飛ばした


「てめぇ!なにしや…」

「ん?それはこっちのセリフだよ、わざわざバカに腰を低くして聞いて金までやったのに…時間を取らせて…それに」

残った2人が一斉に飛び掛かると三日月は1人の右手に鷲掴みそのまま力任せに地面に叩きつけもう1人の攻撃を躱し鳩尾に掌底

「…サルガキどものクセに僕に指図するなよ…ゴミ共」

怯えたリーダー格の男はナイフを振り回すが全く当たらずその手を三日月が掴み力任せに関節を決め肩を外した


ゴキッ


「ギャ!」


そのまま脇腹に膝蹴りを入れると男は蹲ったが三日月はお構い無しに蹴り続けた


ドカッ

ドカッ


「ほら、ほら…早く僕の聞いてる事に答えてよ、どこにいるのさ?」


「やめ…痛い!ごめんなさい!ごめ…」

「なーにー?聞こえないなー」

「ごめんなさい!許して!ここには居ないです!」

「いないの?」

「たしかに俺らがいた場所はガキの溜まり場でそんな女もいたけど金稼ぎてぇって言ってたから小久末公園の方教えてやったんだ、ホントだよ!」

「…ほんとに?嘘じゃない?」

「ホントです!ごめんなさい!」

「そっか…教えてくれてありがとうねヒカルー行くよー…あ!これ病院代の足しにしてね」

そういい三日月は万札を何枚か置いてその場を離れる時

「ゴミ猿共が…三日月さんにふざけた事してんじゃねぇぞ?」

ヒカルがそう言うとリーダー格の男のナイフを拾い左手に突き刺した


「ぎゃあああ!」


「ヒカル、ダメだよ汚いから」

「だってこいつら三日月さんに嘘つい…」

「いいんだよ、こんなゴミみたいな連中最初から信じてないし…あ、顔写真か何か持ってないの?」

「お、俺持ってます!」

恐怖からかそう言いながら三日月にスマホを渡した男のズボンは濡れていた

「お、サンキュ、この子か…ヒカル早く行くよ」

「はーい…運が良かったねぇ…三日月さんがいなかったら……おまえら殺してたよ」


そう言い2人は小久末公園へ向かって行った



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