第16話 本当の友達
友達と友達が、戦っている。
これだけは枯らしたくないと思っていた、二輪の花が。
――ダメ。
そう思うが、身体は動かない。
どうしようもない。
もうチガヤの身体は、チガヤのものではない。
だから、どうにもできない。
嫌だけど、止めたいけれど。
何もできない。
チガヤは、暗闇の中で蹲った。
※※※
ブレインパッケージ33は、笑いが止まらなかった。
偉そうにご高説を垂れた男は、ナイフで攻撃を受け止め続けるだけ。
防いで、躱して。
確かにすごい。
見世物としてはなかなかだ。
ひょっとしたら本当にリンネを殺して、チガヤすらも殺せるかもしれない。
そうだとしても、残るのは救おうとした人間を殺したという事実だけ。
彼が気付いているかは知らないが、パッケージ33はチガヤという端末がなくても他人をコントロール可能だ。
大多数の人間を制御できるチガヤと異なり、パッケージ33が発芽した能力では、その対象はたった一人。
しかしその強制力も精度も、チガヤ以上だ。
自分を作った奴らは、チガヤとセットになることで、システムは完成すると言っていた。
神の祝福を受けた存在だと。
もはや神と同等であると。
しかしその言葉に従うのは癪だ。
気に入らない。
だったらハルカズを乗っ取って、復讐を進めるのもありだろう。
難易度は上がるが、それはそれで気が紛れるかもしれない。
満たされない原因は、チガヤの能力が強すぎたからかもしれないし。
「頑張りなよ。どうせ殺すしかないんだから」
もう勝ちは確定している。
どう足掻いたところで、ハルカズは詰んでいる。
嫌な奴が無駄な努力をする姿は滑稽で、見ていてとても楽しい。
※※※
「リンネ……!」
無駄と知りながら、その名を呼ぶ。
やはり、その動きに変化はない。
ハルカズは説得ではなく、無力化に方針を切り替えた。
スモークグレネードを地面に投げつける。
煙に紛れながら、タクティカルアイでリンネの姿を捕捉。
背負っていたアサルトライフルの銃身を掴んだ。
グレネードが炸裂した段階で、彼女がチガヤを守りに行くのは予測できている。
リンネはハルカズを排除すると同時に、チガヤの身も守らなければならない。
ハルカズがチガヤの排除に、いつ動くかわからないからだ。
ゆえに、リンネ自身の防御は疎かになるはず、という希望的観測は、
「何――ッ!」
殴りかかったライフルを切断されたことで、外れた。
追撃の蹴りを、ハルカズはまともに受けてしまう。
水切りで投げられる小石のように、硬い床の上を転がった。
「さっきも言ったでしょ? 殺さないと、どうにもできないよ?」
パッケージ33が、ハルカズを嘲笑ってくる。
理性も、似たようなことを言っている。
二人とも、この行動は本意ではないはず。
だから、これ以上利用される前に殺してあげるべきだ、などと。
正論を言ってくる。
そんな自分が嫌いだ。
苦悶しながらも立ち上がる。
煙が晴れた先に立つ、リンネとチガヤを交互に見る。
「早く諦めた方がいいんじゃない。どっちでもいいけど。見てる分には、楽しいからね」
「諦めは悪い方、でね」
殺し屋なんてやっていると、どれだけ絶望的な状況でも、諦めることが難しくなる。
どれだけ理性が不可能だと結論付けても、殺されるまで抗うことをやめない。
それが生き残るコツで、今までもそうやって生き延びてきた。
「それに俺には……流儀があってな。最近改定したんだが……」
「あっそ。だったら、見応えのある戦いを見せてよ」
リンネが駆けてくる。
ハルカズは再びナイフを構えた。
正面からの縦斬り。
常人には反応すら難しい斬撃を弾き。
左拳で、リンネの腹部を突く。
リンネの顔が苦痛に歪み、飛び退いた。
「ようやく表情が変わったな」
息を整えながら、ハルカズはナイフを構え直す
リンネは静止している。
様子を窺っているのだ。
「戦ってて、気付いたことがある」
「何」
低い声で訝しむ、パッケージ33に真実を伝える。
「チガヤは素材を生かしたやり方だった。あくまでもお願いをして、任せる方式だ」
チガヤは、自由意思を剥奪しなかった。
最初にこの研究所に訪れた時、ハルカズは超能力兵士に殺されかけた。
あの時、ハルカズは殺意を持って兵士を殺そうとした。
そうしないと命の危険があるという状態であったとは言え、殺害という選択肢を、自発的に選ぶことができた。
「だが、お前は違う。素材を殺してる。無理やり操ってるせいで、リンネ本来のスペックが発揮できていない!」
さっきの殴りも、今までのリンネなら簡単に回避したし、何ならカウンターを貰っていてもおかしくない。
しかし、素人がリンネという強者をコントロールしているせいで、彼女が取れる……取るはずの行動が制限されてしまっている。
宝の持ち腐れだ。
対戦ゲームの素人が強キャラを使ったところで、ベテランの弱キャラに手も足も出ないように。
「弱いお前が強いリンネを、使いこなせるわけはないんだ」
それを知っているからチガヤは、ハルカズたちに任せたのだ。
素人だから、専門家にお願いをした。
パッケージ33がチガヤの能力を使いこなせているなんて、とんでもない。
彼女はチガヤの、本当のすごさを知らない。
「もちろん、チガヤのこともな!」
「私をバカにするな! ただの人間風情が――!!」
リンネが拳銃を抜いた。
ハルカズは早撃ちで、その拳銃を撃ち壊す。
突撃してくるリンネ。
蹴りを躱し、ブレードを弾いて蹴りをお返しする。
単調な斬撃を、完璧なタイミングで弾き返し、左腕を掴んで背負い投げした。
「もういい、死ね! さっさと仲間に殺されて、死ねえええ!!」
パッケージ33の激情に連動して、リンネが跳躍。
ブレードを振りかざしてくる。
ハルカズは、ポーチから白い筒状のグレネードを取り出した。
スタングレネード。
それを、リンネ目掛けて投げつける。
反応するリンネ。
刀身でグレネードを弾き飛ばそうとする――前に。
ハルカズは拳銃を撃った。グレネードに向けて。
閃光が炸裂する。
ハルカズの視界は、タクティカルアイで保護されている左眼以外封じられた。
まともに食らったリンネは、行動不能だ。
気絶こそしていないが、着地に失敗し、ブレードを適当に振り回している。
リンネらしくない動きだ。
初めて戦った時に見せた戦術をもう一度食らうなんて、らしくなさすぎる。
耳鳴りが響く中、ハルカズは視線を動かす。
視力と聴力が復活するまで、それほど猶予はない。
選ばなければならなかった。
誰を殺すか。
今のままでは、パッケージ33の本体へは間に合わない。
チガヤも閃光を受けて麻痺しているが、きっと無理だ。
本体に辿り着く前に、リンネが動けるようになってしまう。
しかしリンネを殺せば、チガヤが復活するまでには間に合うかもしれない。
そうすれば、チガヤを救える。
或いは、チガヤを撃って確実にリンネを救うか。
リンネか、チガヤか。
片方を殺して、片方を救う。
逡巡したハルカズは、リンネに拳銃の狙いを定めた。
「悪いな、リンネ……」
呟く間に、リンネが体勢を立て直し、こちらに向かってくる。
鮮血が飛び散った。
※※※
「トリガー? 引き金のこと?」
ジープを運転するハルカズに、リンネが訊き返してくる。
「きっかけの話だ。チガヤが突然動き出した時のこと、覚えてるか?」
「うん。忘れるわけないよ」
リンネの作った優しい笑みが、ハルカズにも移った。
「なんで動き出したかわからないのは今も同じだが、チガヤは言ってたろ? 羨ましかった。友達と遊びたいと思ったってな」
「それが、逆転の秘策?」
そうだ、と頷く。
例え作戦がなかろうと、やることは変わらない。
それでも、何か策は講じたかった。
どれだけ可能性が低かろうと。
外れていようとも。
「うまく行く保証はない。ただ、チガヤが本気で自分の身体を取り戻したいって願えば、案外すぐに主導権を奪い返せるんじゃないかってな。乗るか?」
「乗るけど、失敗したらご飯奢ってよ?」
「ああ、好きなだけ食べていい」
約束しながら、ジープを運転する。
帰る場所まで、もう少しだ。
※※※
視界に飛び込んできた光景が、信じられない。
夢かと思った。幻かと。
だが、自身の頬に付着した赤い液体の温かさが、現実だと告げている。
「ハルカズ……!!」
手に持っていた得物を落とす。
鮮血に塗れた流動ブレードを。
リンネは、ハルカズの腹部を刀で刺していた。
「なんで……!!」
リンネは座り込んだハルカズのお腹を押さえるが、血が止まらない。
「どうしてっ!?」
リンネは問う。
床には、ハルカズの拳銃が落ちている。
ハルカズは自分を殺せたはずだ。
操られていた時の記憶はあやふやだが、確信していた。
彼なら、自分を殺せると知っていた。
彼は自分より弱いけれど、強いのだ。
リンネの質問に、ハルカズは笑みを返した。
「報酬をもらってない殺しは……しない主義だ」
「バカ! 私は別に良かったのに!」
「俺が良くない……」
「私だって、良くないよ……!」
ハルカズを殺したくなんてない。
それなのに、このままじゃ。
血に塗れた腕でポーチを探る。
だがその手を止められた。
「後にしてくれ……。まだ終わってない」
「けど……!」
涙がこぼれてきた。
なんでこいつは笑ってるんだ。
こんなに嫌なのに。
嫌いになりそうだ。
背後から笑い声が聞こえてくる。
リンネは反射的に睨んだ。
全ての元凶が、高笑いをしている。
「だから言ったでしょ! こうなるって。全部決まってたんだ。あなたたちに、勝ち目なんかないんだよ!」
「君はっ!!」
「そんな顔しないでよ。だって、私は可哀想な人なんだし、愉しむ権利はいくらでもあるでしょ」
「ふざけないで!」
怒りに任せて行動しようとして、その身体の持ち主が誰かを自覚する。
パッケージ33がチガヤの身体を動かしている以上、リンネには手が出せない。
どれだけ怒っても、悔しくても。
悲しくても。
「そうだ、ふざけてる場合じゃない……」
ハルカズが立ち上がろうとする。
止めようとしたが、目で制された。
「手を、貸してくれるか」
「うん……うん」
ふらふらになりながらも、立ったハルカズ。
こうしている合間にも、命が削れていく。
「お前はいつまで、そうやって、ふざけてるつもりだ?」
「いつまでって、全部が終わるまでだよ? 世界中の人に、復讐するまでね」
狂気に包まれた瞳のパッケージ33。
そんな彼女を、ハルカズは鼻で笑う。
「まだ、気付いてないんだな」
「……何のこと?」
「どうして――リンネが自由になってるんだ?」
パッケージ33がハッとした。
リンネも気付く。
どうして自分が自由になっているのか。
その理由は、たった一つしか思い当たらない。
※※※
パッケージ33は、花畑の中に立っていた。
命令を飛ばしても、リンネが動かない。
いや、チガヤの身体の調子も変だ。
早くあの生意気な男を殺して、復讐を始めなければならないというのに。
《許さない――》
声が響いて振り返る。
隅に追いやったはずのチガヤの意識が、そこに立っている。
彼女は見たことのない表情をしていた。
怒っている。
途轍もなく、怒っている。
背筋が凍った。
「待って、チガヤ。これは――」
「どうして、私のお花を傷付けるの」
「これには、理由があって」
弁解するパッケージ33は気付いた。
チガヤの足元に、花が咲いている。
黒色の花の持ち主が誰かを、直感的に理解した。
自分だ。
自分の花が、チガヤの傍にある。
恐怖を覚える。
今までそんなことなかったのに。
「私……私は、可哀想でしょう!? 脳だけにされたんだよ! 大人たちに!!」
「どうして、私のお花畑を、めちゃくちゃにしたの」
「必要なことだったんだよ! お願い、聞いて!」
命令を飛ばす。
だが、効かない。
聞いてくれない。
なぜ?
「もう、聞かないよ。あなたの言葉なんて。お花畑を見せたくて、たくさんの綺麗なお花を見てもらいたくて、ここまで来たのに。あなたは、お花を傷付けるだけ。もう――知らない」
「チガヤ!」
どうして、命令を受け付けない?
自分はコントローラーのはずだ。
あらゆる人間に命令を下す、神。
「あなたを自由にさせてたのは、心のどこかで、まだあなたのことを信じてたから。悪いのは私だと、思ってたから。でも、もう信じない。信じられない」
「そんな……有り得ない……!」
あの研究者共が自分に付与した能力は、不完全だったとでも言うのか。
なおさら怒りが込み上げる。
なんで、誰も自分の声を聞いてくれないのか。
「どうして私ばかりがこんな――なんでこんなに、不幸なの!?」
「自業自得だよ」
声を荒げるパッケージ33に、チガヤが冷たい声で言った。
※※※
油断すると気絶しそうになる自分に活を入れて、ハルカズは前に進む。
支えてくれるリンネの頬には、涙が流れている。
今にも決壊しそうだ。
そんな顔をさせてしまったことを、申し訳なく思う。
我ながら情けない。
ハルカズは停止するチガヤに声を掛けた。
「チガヤ」
「ハルカズ……リンネ……。っ!?」
チガヤが一瞬呆けた後に、覚醒する。
慌ててハルカズに駆け寄ってくる。
正気を取り戻したようだ。
「ハルカズ! 大丈夫なの……!?」
「大丈夫……だ」
その頭を撫でる。
普段はそんなことしないのに、彼女が無事だという感触を確かめたかった。
推測通り、チガヤがこちら側に戻ってきたトリガーは欲求であり、気持ちだったのだろう。
彼女は、リンネと同じだ。
自分の欲望を、わかっていなかった。
現状で満足していたから、花畑で孤独でも平気だった。
でも、新しい欲求が生まれて、花畑の中だけでは満足できなくなった。
だから、現実への戻り方を自覚した。
そんな単純な話なのではないかという予想は、的中したようだ。
そしてまた、大事な人が死ぬのは嫌だという気持ちが、パッケージ33の呪縛を跳ね除けた。
正気を取り戻す、トリガーになったのだ。
(本当は、もっとうまく……やれれば良かったが)
今の自分が思いついた最善は、コレだった。
心の中で謝罪しながら、歩を進める。
箱の中へ入り、対峙した。
ブレインパッケージ33と。
瞬間、ハルカズの目の前に、白い髪の少女が現れた。
屈辱的な表情を浮かべる彼女は、脳の前に立ち塞がっている。
リンネも息を呑む。
彼女も、見えているようだ。
チガヤがそうしたのかもしれない。
苦しげに息を吐いて、ハルカズは話しかけた。
「もうやめろ。お前の復讐は、終わりだ」
「言ったでしょ! 終わってなんかない!!」
「いいや、終わってるんだ。これ以上はただの逆恨みだ」
「私の恨みは晴れてない! どうして私ばかりがこんな!」
ハルカズはもう一度、彼女の説得を試みる。
「いくら酷い目に遭ったからって……被害者だからって、やっていいことと、悪いことが、あるんだ。俺は清廉潔白とは、程遠い人間だ。だから、復讐そのものを否定する気はない。殺さないとどうしようもない人間だって、いる。だけど、無関係なチガヤを利用したことは……許せない」
「私だって許せない! 世界が許せない! 私が苦しかったのに、何もしてくれなかった人たちのことが、許せない!! この気持ちをすっきりさせたいの!」
駄々をこねる子どものように言い返すパッケージ33は、哀れだ。
だからこそ、伝えなければならない。
ハルカズは気力を振り絞って、続けた。
「わかってるだろ? お前の考えが変わらない限り、永遠に満足することはない。何人殺したって、何十何千何万……全ての人類を殺し尽くしたって、最期に待ち受けるのは絶望だけだ。だってお前はもう、救われてるんだから」
「救い? どこが!」
パッケージ33は、怒りに声を震わせる。
ハルカズは冷静に諭す。
言うべきことは、決まっている。
「チガヤの力を使って復讐を果たした時点で、お前は救済されている。救われた人間はな、自分の足で立って歩かなきゃいけないんだ。ずっと救い続けてくれる人間なんていないし、都合よく助けが来るように、世界はできていない。だから、自分の力でコネクションを作ったり、居場所を作ったり、逃げ方、戦い方……生き方を学んで、考えて行動しなくちゃいけない。残酷に聞こえるかもしれないが、本当に残酷な奴ってのは、生きる力を奪う奴のことだ。甘やかして、思考力と行動力を奪い尽くした後で、捨てる。俺はそんな人間になる気はないし、自分のことを棚上げして、他人を呪うだけの人生を過ごす気も、過ごさせる気もない」
「でも……だって……!」
「一つだけ、言うとしたらな」
ハルカズは悔いる。
唯一取れたかもしれなかった、最良と思える選択肢を考えて。
「本当に復讐したいんだったら、俺に依頼するべきだったんだ。何の罪もないチガヤを、利用するんじゃなくな。お前はやり方を、致命的に間違えた」
もし助けてと言ってくれたならば。
チガヤの身体を通して、伝えていてくれたらば。
自分がチガヤの友達は怪しいと、もっと早く気付いていたのなら。
別の方法が、あったのかもしれない。
パッケージ33は狼狽えた。
「だって、わからなかった! 誰も教えてくれなかった! 言ってくれれば良かった! そうだ、だからお前のせいだ! あなたたちのせい! 私は悪くない! 私は――ッ!?」
パッケージ33が、恐怖に顔をひきつらせる。
ハルカズが拳銃を向けたからだ。
少女に。
その背後にある、脳のパッケージに。
「や、やめて……死にたくない……」
救いを求めるように、パッケージ33はリンネを見る。
彼女は目を伏せた。
今度はチガヤを見る。
懇願する。
「チガヤ、助けて! 友達でしょ! お願い!!」
請われたチガヤもまた、顔を背ける。
「ごめんね。でも、違ったの」
「ま、待って――!!」
「あなたは、私の――友達じゃ、なかった」
「やめてえええええ!!」
ハルカズは、拳銃の引き金を引く。
撃針が動き、薬室の弾丸底部を刺激。
極めて小規模な爆発が起きて、銃身内で奔った弾丸が銃口から飛び出す。
放たれた弾丸は脳パッケージ入った箱を貫通。保護液が漏れる。
浮かんでいた脳パッケージが、箱の底に着いた。
パッケージ自体に損傷はない。
タクティカルアイの分析では、スリープモードに入ったようだった。
少女の……パッケージ33の姿は消えている。
「……殺さなかったの?」
「言っただろ? タダ働きはしない主義だって……」
リンネに応じつつ、ハルカズは考える。
この状態でずっと放置するのはまずいだろう。
何かの装置に入れて、しばらくの間眠ってもらう。
その間に、考え方が変わることを祈るばかりだ。
まずはその装置を探さなければ――。
「ぐっ……!」
ハルカズの身体から力が抜けた。
急に倒れたせいで、リンネとチガヤは支えきれない。
そのまま床に寝転がった。
「ハルカズ!」
リンネの切ない叫び声が聞こえる。
「死なないで!」
チガヤも涙を流している。
これは、良くない。
このまま死ねば、リンネは後悔するだろうし、チガヤの心にも傷を残すことになってしまう。
生きなければならない。
生きねば。
だというのに、身体の力が抜けていく。
意識が遠のいていく。
「ハルカズ!」「しっかりして!」
二人の声が遠ざかる。
視界が、暗闇に埋め尽くされていく。
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