第7話 自覚

 花畑はいつもと変わらない。

 細部は違う。新しい花が生えてきたり、元々あった花が散っていたり。

 それでも、大きな変化がないという意味では普遍的だ。

 この景色をチガヤは愛している。飽きてもいない。

 

 今日もまた、いつもと同じようにお気に入りの花を観察する。

 青いお花と橙色のお花。

 チガヤの友達は、楽しそうに談笑している。

 

 水滴からは二人のやり取りが見えた。

 本当に楽しそうだ。


「……」


 二人を眺めていると、ちょっとだけれど、心境の変化を感じる。

 本当に、本当に、少しだけだけれど。


「遊びたい……な……」


 羨ましそうに、チガヤは呟く。

 その羨望は、誰の耳にも届くことはない。



 ※※※



 今までと同じように、ハルカズはジープを運転していた。

 助手席にはすっかり回復したリンネ。

 後部には虚ろなチガヤとそのゆりかごが固定されている。

 

 闇医者は中和剤をケースでくれた。

 おかげでリンネの身体はしばらく安泰だ。

 あの闇医者は治療費こそ莫大だが、実際の治療の完璧さはもちろん、アフターサービスも充実していた。

 

 ミヤの処遇にも手を貸してくれた。しばらく傍で働くらしい。

 バイト代が凄まじいらしく、すぐに借金を返せると彼女は喜んでいた。新たなる受難が待っていそうな気もしたが。

 

 結果として、あの男に頼んで良かった、と心から思う。

 隣ではリンネがにこにこしながらデバイスを操作していた。


「ねえ、今日はここで食べようよ」


 差し出してきた画面を一瞥する。映っていたのはステーキハウスだった。


「昨日も肉だったろ?」

「毎日食べたっていいじゃない」

「違うのにしろって」

「だってお肉、美味しかったんだもん……」


 拗ねたように言うリンネ。ハルカズは仕方ない、と諦める。


「わかった。昼だけだぞ」

「やった! ありがとう、ハルカズ!」

「おう」


 喜ぶリンネに相槌を打つハルカズ。

 例の件以降、二人の仲が縮まった気がする。

 プラスなのかマイナスなのか……はっきりとはわからない。

 とりあえず、円滑にコミュニケーションを取れるのはいい傾向だろう。


(妹でもできたみたいだ)


 そんな風に思って、不意に、あの顔を思い出す。

 太陽と同じくらい輝いていたあの笑顔を。

 頭を振ったハルカズは、ジープを進ませた。



 ※※※



 リンネはご機嫌だった。

 注文したステーキが運ばれるのを待っているから、という理由はある。

 だが、それ以上の要因がデバイスで調べ物をしている。


「何調べてるの?」


 リンネが問うと、ハルカズは画面に目を落としながら答えた。


「福島まで来ただろ? そろそろ目ぼしい施設とかあってもいいんじゃないかと思ってな」

「ふーん」

「なんか、意見とかないのか?」

「ないよ。信頼してるから」

「……そう、か」

「ふふっ」


 笑みをこぼす。

 可愛い、と思う。

 てっきり全てをわかってます系な男かと思えば、あんな風に悩みながら、心情を吐露してくれた。

 悩む必要なんかなさそうなことをうじうじと悩んでいたのだ。

 

 リンネがこれまで見ていた部分は、彼が言う通りこけおどしで、本質的にはもっと弱い男なのだろう。

 ちょっと前に子犬の画像を見たが、あれと似た感情を覚える。

 弟がこれほど可愛らしい存在だとは知らなかった。

 彼は年上らしいが、それでも、うん、弟だ。


(受け止めてあげないと。姉として、ね)


 治療をしてくれた恩義もあるし。

 リンネが姉としての自己を確立している合間に、ステーキが運ばれてくる。

 二人揃って食事を始めた。ナイフとフォークを上手に使って肉を切る。


《……》


 新たな感情を芽生えさせたチガヤに、気付く様子もなく。



 

 ステーキで肉をカットするかの如く、敵の腕に切り込みを入れる。


「大丈夫なのか?」


 心配性なハルカズに、リンネは元気よく返事をする。


「全然平気」


 夜の公園で、リンネたちは敵部隊と交戦していた。

 山中が失敗したので、その後釜に選ばれた兵士たちだろうか。

 しかし彼が率いていた兵よりも質が悪い。人材不足は顕著なようだ。

 

 ジャンプして、敵へと急降下。

 峰打ち。

 

 相手を無力化させることにも慣れてきた。

 眼前の敵を斬っていると、背後から殺気がした。

 

 しかしリンネは振り返らない。

 銃声が響くと同時に目の前の男を気絶させる。

 二人の敵が倒れた。ハルカズが後ろの敵を撃ったのだ。


「おい」

「わかってたから」

「まぁいいが」


 満更でもないようにハルカズは笑う。

 ハルカズは自分より弱いと今でも思っている。

 それでも、その援護能力には目を見張るものがある。



 ※※※



「いただきます!」

「いただきます」


 ラーメンを所望したリンネの意志を尊重して、ハルカズは深夜営業のラーメン屋へと足を運んだ。

 店員はいつもと変わらず、チガヤのゆりかごを咎めない。

 

 リンネが大盛りの担々麺を勢いよく食べ始める。彼女は食欲旺盛だ。

 まるで昔の自分を見ているみたいだ、と思う。

 自由を得た時、ハルカズが最初に感銘を受けたのは食事だった。

 

 好きな物を、好きなタイミングで食べられる。

 多くの人にとっては当たり前の自由を、戦闘兵器として育てられた子どもは与えられない。

 

 任務に生きて、敵に殺される。

 それが、多くの子ども兵士の末路だ。

 

 山中が言ったように、ハルカズはラッキーな男だ。

 運よく助けられなければ、今も組織が敵と定めた人間を、無関係な他人を巻き込みながら殺していただろう。


「あのおっさんには、もっと感謝するべきだったか……」

「なに?」


 ラーメンを啜っていたリンネが手を止める。


「いやなんでもない。落ち着いて食えよ。ラーメンは逃げないぞ」

「敵が来るかもしれないじゃん」

「どうだろうな……」


 山中を倒して以降、敵の動きが読めなくなっている。

 今頃、チガヤを殺したい勢力は大騒ぎのはずだ。

 

 リンネが死にかけていた状態が、もっとも弱体化していた時だった。

 だが、彼女はすっかり回復した。

 二人の息も合いつつある。

 

 戦力の心もとなさは変わらないが、以前よりもこちらの質は上がっている。

 一体どうするつもりなのだろうか。それとも、まだ隠し玉があるのか……。


「……本当に、美味しいよね」

「良かったな」

「そういう意味じゃなくて」

「どうした?」


 ハルカズが聞き返す。リンネは少し寂しそうな顔をしていた。


「チガヤに、食べさせてあげたいなって」

「確かにな」


 ハルカズやリンネが、食事という自由を与えられていなかったのと同じように。

 チガヤもまた、自由とは程遠い状態だ。

 

 ゆりかごの中で、微笑みを絶やさず、虚ろな眼差しで虚空を見つめている。

 傍から見た彼女は廃人にしか見えない。

 頭に響く思念が楽しげだから、平気なように錯覚しかけるが。


「あの闇医者に見せてみれば良かったのかも」

「流石に専門外だと思うぞ。それに、リスクは冒せない。チガヤの能力はまだはっきりとしないが、彼女に価値があると思っている人間はそれなりにいるんだ。……本当なら、警察や国防隊に囲まれてもいい状態なのに、非正規部隊ばかりに襲われるのは、彼女の存在を隠匿したい狙いがあるんだろう」


 チガヤはきっと、政府にとっての厄ネタなのだ。

 だから公的な機関を表立って動かすことができない。

 

 こちらに好都合ではある。こうして堂々とラーメンを食べていても、奇襲を受ける可能性が低くなるからだ。

 もし襲ってくるようになれば、なりふり構っていられる状況ではなくなったということだろう。


「でもさ……。私がこうして、美味しい物を食べられているのは、君と、チガヤのおかげだと思う。だから、なんとかしてあげたいの」

「気持ちはわかるさ。だが……」


 現状ではどうすることもできない。

 ハルカズは味玉を口に運ぶ。


「……ごめん。変なこと言って」

「いいんだ。考えるべきかもな……そっちについても」


 ただチガヤを友達の元に送り届ける。

 ……だけではなく、彼女が幸せになる方法も模索するべきなのだ。

 

 流儀から逸れるが、もういい。

 ハルカズはそうしたいと思い始めている。

 だから、いい。


「もっと話してみるとか。静かにしててくれ、なんて言ったのは間違いだったな」


 いきなり思念に割って入られると、任務に支障が出る恐れがある。

 そう考えてチガヤに頼んだが、あれは酷なお願いだったと反省する。


「そうかも。あれ、酷かったよね」

「お前も同意しただろ?」

「そうだね、うん。私も悪かった」

「責める気はない。ただ、いっしょに謝ろう」

「そうだね。他に何かある?」

「何か映像刺激を……与えてみるとか。映画やアニメを見てみるとか。移動しながらにはなるが……」


 こちらに呼び戻すプランを相談する。チガヤは、力の使い過ぎで戻り方がわからなくなったと言っていた。

 素人考えだが、外からの刺激を与えることで、戻り方を思い出すかもしれない。

 などと夢中になっていると、チガヤから声を掛けられた。


「麺、伸びちゃうよ」

「そうだな、すまない」

「伸びたら美味しくなくなっちゃうもんね……えっ」


 ハルカズとチガヤは顔を見合わせる。

 勢いよくゆりかごへと振り返った。


「……私も、ごはん……食べたい、な……?」

「チガヤ!?」

 

 二人の大声が店内に響き渡る。

 ゆりかごの中で、チガヤは笑う。

 生気の灯った眼差しで。





 どうやって身体を動かせるようになったのか。

 超能力の方はどうなっているのか。

 久しぶりに動いて身体に問題はないのか。

 

 疑問点は挙げればきりがないが、それ以上にまず喜びが勝った。

 流石にラーメンを食べさせるのは身体に悪いだろう、という判断で、今はホテルに移っている。

 まず、ゆりかごの外に出ても平気なのかもわからない。

 

 タクティカルアイでバイタルを計測しながら、その時を待つ。

 部屋の真ん中に鎮座するゆりかご型ポッドのハッチが開いた。

 

 外へとまず手が伸びる。次に足。

 そして、身体。

 緑色の髪を揺らしながら、ゆっくりとチガヤが出てきた。

 バイタルに変調は見られない。


「今は……こんばんは、だね。うわ」


 チガヤがよろめいた。ハルカズとリンネが支える。


「久しぶりに歩いたから……よろけちゃった」

「でも、歩けはする……のか……」


 長期間寝たきり状態にあった人間は、歩行すら困難になる。

 事故や病気で動けなくなった患者がリハビリを行うのは、日常生活が送れる状態にまで体力や筋力を戻すためだ。

 

 だがチガヤは今のところ、健康的な少女にしか見えない。

 ゆりかごには生命維持だけでなく、身体能力を保持する機能も含まれているのかもしれない。


(楽観は禁物だが……)


 しばらくはこのままでもいいだろう。

 そう思ってリンネに目配せした。


「ごはん、食べる……?」

「うん」


 優しく言うリンネに、チガヤははっきりと返事をする。

 ハルカズが買ってきたのはおかゆだった。

 電子レンジでチンしたおかゆを器に盛って、テーブルに置く。


「食べられそうか?」

「大丈夫だよ」


 リンネと共に固唾を呑んで様子を見守る。

 スプーンですくい、ふーふーをして、口に入れる。


「……どうだ?」

「おいしい」


 笑みをこぼしたチガヤを見て、ハルカズとリンネはハイタッチする。


「ふふっ、大袈裟だよ。前は、できてたから」

「そうか。とにかく良かった」


 安堵したハルカズは、真剣な表情となる。


「早速で悪いが……」

「いいよ。どうして戻って来れたか、知りたいんだよね」


 チガヤがおかゆを一口食べる。


「正直に言うとね……よくわからないの」


 チガヤがスプーンを持ち上げた。

 液体と固体の中間であるおかゆに目を落とす。


「ただ私は……羨ましいなと思ったの」


 ハルカズとリンネを順番に見るチガヤ。


「私も、友達と遊びたくなって、そしたら……。この説明じゃ、ダメ?」

「いいや、参考になったよ、ありがとう。そして、ごめんな。ほったらかしにして」

「私も。ごめんね」


 二人で謝る。


「そんなことないよ、ありがとう」


 チガヤは笑顔で応えた。



 ※※※



 温かな無数のお湯が、程よく引き締まった肢体を伝って流れ落ちていく。

 こうやって一つの拠点に腰を据えたのは、組織から脱走して以来だ。

 リンネはシャワーのありがたみを再認識していた。


「久しぶりにお風呂に入ったよ……」


 湯舟にはチガヤが入っていた。

 ハルカズ曰く、危険性は低くとも、念には念を入れた方がいい。

 だから入浴も一人では入らずに、二人で入ってくれとのことだった。


(自分で入ればいいのに)


 そうリンネは思ったが、素直にハルカズに従った。

 単純に、チガヤといっしょに入るのが楽しそうだと思ったからだ。

 

 シャワーを止めると、設置されていた鏡に映る自分の身体が目に入る。

 解かれた長髪。ボリュームのある胸。すらりとしたお腹。

 内出血のある右腕。左肩の切り傷。右太ももの銃創。左下肢の痣。


「入っていい?」

「いいよ」


 チガヤが奥に詰めてくれた。一人用の湯舟なので、二人で入るとちょっと狭い。

 それでも、特別なことをしているようで、楽しさが勝った。

 向かい合って座る。

 

 チガヤの身体はリンネとは対照的だ。

 緑色の髪は痛みもなく綺麗だし、肌は病的なほどに白い。

 外傷はなく、その身体はお餅のように柔らかい。


「リンネはお風呂、初めて?」

「どうだろう。たぶん違うと思うけど……」


 しかし記憶の大部分を占めるのはシャワーだ。

 組織では清潔保持の一環として、シャワータイムが設けられていた。

 衛生管理を主目的としたもので、気持ちよさや楽しさを求めるものではない。


「私は……動かなくなる前は、よく入ってたよ。施設の人も優しくしてくれたし」

「そうなんだ。良かったね」


 隣でシャワーを浴びていた同僚が、使用時間を超過して罰を受けていたことを思い出す。

 チガヤがそういう目に遭わなくて良かったと、心の底から思う。


「リンネは、ずっと辛かったの……?」

「辛いとか楽しい、とか。ようやくわかってきたところだから。まだ、わからないかな……」


 ナノマシンバーサークの暴走によって死にかけた時。

 あの時は肉体的に苦しかった。

 美味しい物を食べている時は、とても楽しいし、しあわせ、というものなのだろう。

 けれど、それ以外にもまだまだ知らないことがたくさんある。


「ハルカズが言った通り、私は何も知らないんだ」


 もうその事実を受け入れつつあった。悔しさはない。

 ただ、少し恥ずかしいような気がしてきた。


「たぶん、私も。だけど、少しだけなら知ってるよ」

「どんなこと?」


 リンネが訊くと、チガヤが手でお湯をすくった。


「入浴剤を入れるとね、いつもと違うお風呂が楽しめるんだよ」


 それは早速試さなければいけない。

 リンネはハルカズを呼んだ。


「何かあったか?」


 すぐにハルカズがやってくる。チガヤに異変が起きる可能性を考慮して、近くで待機していたのだろう。

 予想通りだ。


「入浴剤ってのを試したいんだけど、どうかな」

「入浴剤? 探してみるか……」


 ハルカズが洗面台を探す。すぐに見つかったようだ。


「あったから、今――」

「じゃあちょうだい」


 リンネは湯船から出て、戸を開けた。


「うわっ! 何してる!?」

「……? どうしたの?」


 なぜかハルカズが目を背けた。こちらを見ないようにしている。


「せめてタオルか何か……!」

「タオル? なんで?」


 現にチガヤに裸を見られても何とも思っていない。

 だが、ハルカズは顔を腕で隠しながら入浴剤の袋を手渡し、逃げるように出て行ってしまった。


「変なハルカズ」


 戸を閉めて、湯舟に戻る。

 緑の粉が透明なお湯に注がれて、色が広がっていく。

 チガヤの方から色づいたお湯が、無色だったリンネ側のお湯を染め上げた。


「いい匂いだね……」

「でしょ?」


 チガヤはにこりと笑う。と、不意に抱き着いてきた。


「チガヤ?」

「柔らかいし、あったかい」


 呟くチガヤの声は不思議だ。心が癒されるような、そんな気分になる。


「あなたは私の、大切な、ともだち……」

「チガヤ……」


 リンネは自分の両手を恐る恐るその背中に回した。

 繊細なガラス細工に触れるように。


「もう少し、こうしてていい?」

「いいよ」


 リンネはチガヤの抱擁を受け入れる。

 互いの体温と感触を確かめ合った。



 ※※※



 ハルカズがシャワーを浴び終えると、チガヤがベッドに横になっていた。


「疲れが出たか」

「そうみたい」


 ソファーに座るリンネが応じる。

 常人が何気なく行う入浴動作も、チガヤにとっては負担なのだ。


「ベッドはどうするの?」


 問われて、自身のミスを再認識する。

 この任務が始まって以降、チガヤの衣食住に手がかかることはなかった。

 全てゆりかごが賄っていたからだ。ゆえに、ホテルも二人部屋を予約してしまった。

 それでも、大きな問題はない。


「いいさ、俺はソファーで寝るから。リンネはベッドを使っていいぞ」


 道中のほとんどがジープでの車中泊だったので、ソファーでも十分ありがたい。


「私は、いっしょに寝てもいいよ?」

「は?」


 一瞬思考が停止した。


「な、なに言ってる!?」

「大きな声出さないで。チガヤが起きちゃうよ」

「悪い……。でも、いきなり何言い出すんだ?」

「何って、ベッドの方が眠れるでしょ? 狭いとは思うけど……」


 きょとんとするリンネ。

 その仕草で点と点が繋がった。さっきの無防備さはそのせいか、と。


「俺は大丈夫だ。だから大人しくベッドで寝てくれ」

「ならいいけど……」


 リンネがベッドに身を預ける。

 ハルカズもソファーで横になった。明日も早いから眠らなければならない。

 が、リンネのことを思うと頭が痛くなってくる。


(当然と言えば当然か。戦闘兵器に性知識なんて必要ないからな。しかし、先が思いやられるぜ)


 チガヤの今後も心配だが。

 リンネのことも不安だ。

 彼女には、生き方を教える者が必要だ。

 自分があの男に救われたように。


「救われた者は自立せねばならない……か」


 恩人の教えを思い出しながら。

 ハルカズも眠りについた。



 ※※※



 チガヤはまたお花畑にいる。

 これは夢なのかそうではないのか。

 

 どっちでもいいことだ。

 愛しているのだから。お花たちを。

 

 大切な二輪のお花へ微笑みかける。

 そして、ふと思う。

 大事な花をもっと増やせれば……それはきっと、楽しいことなのではないかと。


《チガヤ》


 声が聞こえて顔を上げる。


《もう少しで、会えるね》


 友達の声は徐々に大きくなっている。

 出会いを夢見て、チガヤは微笑んだ。

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