第3話 旅支度

「五億円……五億円……」


 放棄されたコンテナで、ハルカズはバックパックに荷物を詰めながら、呪詛のように繰り返す。

 

 五億円だ。

 この仕事の成功報酬は、一人当たり五億円。

 必要経費として使用する可能性を鑑みても、間違いなく億単位の報酬は手に入るだろう。

 

 そう考えると、かなり割のいい仕事に思えてきた。

 そうだ、と自分に言い聞かせる。

 

 だからこの仕事を選ぶことにしたんだ。

 自分の第六感が、チガヤを連れて行く方がうまいと確信していたんだ。


「着なきゃダメ……?」


 青いレインコートを羽織るリンネは不満そうだ。


「痴女扱いされたくなきゃ着なきゃダメだ。これだから戦闘員は」

「別に恥ずかしくない」

「恥ずかしくなくても目立つのは困るだろ」

「隠れればいい」

「無理だ」


 ハルカズはコンテナ内に運び込んだチガヤと、彼女を包むゆりかごを見た。


「隠れたままこの子を連れ歩くのは不可能だ。それに、堂々としていた方がメリットもあるしな」

「メリット?」

「説明は後だ。まずは必要な荷物を用意しろ。わからないなら聞けよ?」

「……自分で判断できるし」

「背伸びすんなよ? どうせ戦闘訓練しか受けてないんだろう」


 ハルカズは予備の弾薬をバックパックに詰めた。

 小声で呟く。


「子どもを戦闘マシンにするには、その方が都合がいいからな」



 ※※※



「ゴワゴワする……」


 リンネはレインコートの着心地が不服だった。

 バトルスーツが原因で、作戦に支障が起きたことは一度もない。

 なのに、ハルカズは全て知ってますとでも言わんばかりの顔で、場を仕切っている。

 

 それも不満だ。

 お金にしか興味ないくせに。

 缶詰をバックパックに仕舞う。


「ところでお前、俺のことどう思う?」

「どうって?」


 いきなり何を言い出すのだろう、この男は。

 リンネが質問で返すと、ハルカズは内容をかみ砕いた。


「変な意味じゃないぞ。恨んだり、憎んだり……殺そうと思ってないかってことだ。敵だと思っているか聞きたいのさ」


 まず変な意味とはどういうことだろうか。

 疑問を振り払って答える。


「敵じゃないんでしょ、敵なの?」


 味方かどうかはまだ不確定だが、敵だとは認識していない。


「そうか、やっぱりそういうもんか」


 その物言いは気に入らない。

 やはり、彼はこちらのことを下に見ているように感じる。


「敵意すら与えられてないか……」

「何の話」

「こっちの話。お前のことはなんとなくわかってきたよ」

「じゃあ、君より強いってこともわかってるよね?」


 言い返すと、ハルカズは小さく笑って、そうだな、と同意してくる。

 求めた答えで間違いないのに、リンネの不満は晴れなかった。



 日の光が、海面を反射している。

 準備を終えたリンネたちは、速やかに海岸線へと移動した。

 そこに至るまで、チガヤの友達の反応は検出されなかった。

 

 チガヤ曰く、反応自体は強くなっているらしい。

 つまりは、この海を越えた先だ。


「やっぱ本州か。せめて日本国内であってくれよ……?」

「そんなに心配なこと?」


 リンネはハルカズの危惧の理由がわからない。


「お前はここまでどうやってきた?」

「組織のヘリ」

「ここからどうやって、拠点へ帰るつもりだった?」

「……組織の、ヘリ」


 リンネは顔を逸らす。


「そういうことだ。まず移動手段をどうするかだな。電車か船か飛行機か。まぁ飛行機は無理として電車も厄介だな」

《どうして?》

「逃げ場がないだろ? それに、敵が事故を起こそうとするかもしれん」

《たくさんお花が枯れちゃうってこと?》

「よくわからんが、まぁそうだ。だが船なら逃げ場はあるし、敵もそこまで大雑把な方法は避けるだろう。それに、一番の理由はお前だよ」

《私?》


 声しか聞こえないが、首を傾げるチガヤのイメージが想像できた。


「電車や飛行機じゃ狭すぎて、お前を置ける場所がない」

「船を奪うの?」

「そんなことしたら嬉々として狙い撃ちされるだろ? ここは正面から行くべきだな」

「正面……?」



 ハルカズが案内したのはフェリー乗り場だった。ネット予約をしてくれたおかげで、スムーズに乗ることに成功した。

 問題なくテーブルの前へ座る。

 

 チガヤの存在を、職員はあまり気にしていないようだった。

 リンネは特に気にしていなかったが、ハルカズが難しい顔をしている。


「なぜだ? 質問攻めされると想定してたんだが」

《だって、目立つと困るんでしょ? だから、みんなにお願いしたの》

「お願い……?」

《うん、お願い。こっちを見ないでって。そしたらみんな、聞いてくれたの。えらいよね》

「そういう……もの?」

「この子の能力ってことか? どういう理屈かは知らんが、好都合だな」

「だったらこれ、脱いでいい?」


 リンネは忌々しいレインコートから一刻も早く解放されたかった。


「ダメだ。チガヤのお願いの範囲がわからないし。せっかくうまく行ってるのに、台無しにしたら怒るぞ」

「君に怒られたって構わないし……」

「構ってくれ。こっちはいろいろ考えてるんだから」


 リンネは不満を募らせる。一人だったら楽だったのに。

 邪魔をする奴全部倒せばいいのに、なんでこんな慎重なのかがわからない。


「そう睨むな。青森についたらもっと着心地のいい服を買おう。それでいいだろ?」

「……許してあげる」

「ありがとうよ」


 お礼を言われて、目を見開く。

 リンネの中の不満は吹き飛んだ。

 

 なぜだろう、と思う。

 ああそうか、人にお礼を言われたのはだいぶ久しぶりだ。

 

 あの子みたいだ。

 記憶がおぼろげだけれど、笑顔が眩しい小さい女の子。

 年齢は違うけれど、チガヤと同じように儚い印象の――。


「どうした?」

「ううん、なんでもない」

「今のうちに休憩しとけ。本州に進んだら、一気に進もうと思ってるからな」

「警戒しなくていいの?」


 リンネは彼と会話しながらも、周囲の警戒を怠っていない。


「大丈夫さ、きっとな」


 ハルカズはテーブルに顔を突っ伏した。



 ※※※



『ターゲットはフェリーにて移動中です。対応の指示を』

「Rは?」

『彼女も同行しています。現状では裏切り、としか思えませんが』


 通信を受けた女性指揮官は、こめかみを押さえた。


「静観せよ」

『よろしいので?』

「標的を狙う敵は多い。下手につつけば、こちらが後ろから撃たれる。しばらくは様子を見守れ」

『了解しました。動きがあればまた報告します』

「頼む」


 その仕様上、まだリカバリーは効く。

 懸念事項はあるが、問題なく対処できるだろう。

 疑問なのは、なぜシノビユニットから裏切り者が出たのかということだ。


「なぜあんなものを守る? リンネ。教えたはずだがな、お前の命は国のものだと」



 ※※※



 フェリーを降りてすぐ向かったのは、衣料量販店だった。

 本当は食事を取りたかったが、仕方ない。

 リンネの機嫌を良くするのが先決だった。

 

 一般市民に紛れて自動ドアを潜る。

 ここでもチガヤは目立たなかった。


「じゃあ好きな上着を選んで来いよ。俺も自分の選ぶから」

「わかった。チガヤをお願い」


 リンネと別れて、男性用の服を見て回る。

 現在着用中の戦闘服は特注品だ。

 リンネほどではないが、浮いてしまう。


《いっぱい服があるんだね》

「わかるのか?」


 小声でチガヤに話しかける。


《お花の水滴から、見えるの。ちょっとだけだけどね》

「そうか。お前用のも見繕ってやりたいところだが」


 このゆりかごの仕様がわからない。

 下手に開けて、取り返しのつかない事態に陥ることは避けたかった。


《大丈夫だよ。動けないと、着替えさせるの大変だろうし》

「すまんな」


 詫びを入れながら、緑色のジャケットを手に取る。

 こういう無難なデザインがいい。人込みの中に溶け込むには。

 などと考えていると、リンネが戻ってきた。


「どうした?」

「……」


 手ぶらだ。その表情を見て理由がわかった。


「どれを選べばいいかわかんなかったか」

「……」


 ばつが悪そうな顔のまま黙っている。


「恥ずかしがらなくてもいいって。初めてだろう?」

「恥ずかしくない」

「なら悔しいのか?」


 図星なのか、リンネが一層不機嫌になった。


「俺にはお見通しさ」

「なんで」

「似たような経験があるからな」

「……どういう意味?」

「まずは服を選ぼう」


 女性用のコーナーへと足を踏み入れる。

 ハルカズにとっても未知の領域だが、上着くらいなら問題なく選べた。

 いくつか手渡す。


「後は試着して好きなのを決めればいいさ」

「わかった」


 リンネはおもむろにレインコートを脱ぎ出そうとして、ハルカズは慌てた。


「おい待て」

「……?」

「そりゃ上着だったらこの場でも問題ないかもしれんが、その中身はアウトだろう」

「何が」

「試着室が向こうにあるから」


 リンネが買い物かごを持って試着室に向かう。

 ため息を吐きたくなるが、堪える。

 

 彼女に常識がないのは、その環境が原因だ。

 恨むとするなら、彼女を育てた奴らだろう。


《リンネは可愛いね》

「そうか? 手がかかってしょうがないぜ」

《今も困ってるよ》

「マジ……?」

《どれがいいのかわからないんだって》

「ああくそ……」


 ぼやきながらハルカズは試着室へ向かった。



 結局、リンネの上着を選んだのは、新品のジャケットを羽織るハルカズだった。

 青い薄手のコートで戦闘服を隠している。

 ひとまず、悪目立ちは避けられるだろう。

 ゆりかごを押しながら、隣を歩く彼女を一瞥する。


(選択というものを知らない……そんな彼女が、組織を裏切り、チガヤを助けることを自発的に選んだ。これが意味することは……)

「何?」

「何を食おうか考えてたんだよ。食べたい物とかあるか?」

「別に」

「だろうね」


 訊くのが間違いだった。

 優柔不断とは違い、彼女は自分の好みを知る機会を与えられていないはずだ。


「時間がないし、回転ずしとかにするか。腰を落ち着けて、一度整理したいこともあるしな。確認したいこともあるし」

「確認……。む」


 リンネの表情が険しくなる。気づいたようだ。


「ねえ」

「大丈夫さ。そら、行くぞ」


 


 ※※※




 昼時ではあったが、幸いにしてテーブルには座れた。

 店員はチガヤのことを配慮して、一番奥のスペースの広い席へ案内してくれたようだ。

 通路側に彼女のゆりかごがあっても、邪魔になっていない。


「さてどれを食うかな」


 パネルで注文を始めるハルカズ。

 しかしその態度をリンネは解せない。なぜ放っておくのだろう。


「殺さなくていいの」

「殺しはなしだろ? 花が枯れるから」

「そうだけど……無力化とかそういうの」

「少し様子を見たいんだ。俺たちのことを敵たちはどう考えているのか、な」

「敵たち?」

「そう、敵たち。みそ汁飲むか?」

「……飲む」


 ハルカズはいくつか注文をして、パネルを手渡してきた。


「好きなの選んでいいぞ」

「選ぶ……?」


 リンネはメニュー表をちらりと見る。その種類に頭が痛くなる。

 食べ物を選んだことなどない。

 いつも決まったメニューが出されるし、任務が近くなると、固形やゼリーの栄養食ばかりだった。

 

 リンネが困っていると、ハルカズがにやにやしている。

 いい気はしない。

 こんな気持ちになったのは初めてだ。


「決まったか?」

「……ふん」


 鼻を鳴らす。ランダムに選んでみた。

 注文が来るまでの間、ハルカズがお茶をすする。

 リンネも飲んでみた。

 ……熱い。


「熱い時は我慢するなよ。我慢する必要はないからな」

「平気だし……」


 いややっぱりちょっと熱い。


「それで、敵たちって」


 リンネは話を変えた。


「造反組と危険視した連中、そして奪おうって奴らかな」

「そんなに?」

「あくまで推測の域は出ないが、今考えられるのはざっとこんなところだ」


 ハルカズは敵の種類を説明していく。

 まず、造反組。

 これはチガヤの護衛たちだ。


「思うに、チガヤはどこかの研究施設にいた実験体だ。天然物か人工物なのかはわからないし、今はあまり重要じゃない。大事なのはチガヤはどこかの研究成果で、その存在を知った誰かが消そうとしていること」

「造反組はそれに反発して、チガヤを外に連れ出した、ということ?」

「そうだ。みそ汁来たぞ」


 レーンにみそ汁が運ばれてきた。音に反応し、刀へ手を伸ばそうとしてしまったのをどうにか誤魔化す。


「そう緊張するなよ」


 バレていた。何とも言えない気分になる。

 みそ汁の蓋を開ける。一口飲んでみた。おいしい。


「でも、それなら味方……になるかもしれないんじゃないの?」

「もしそうだったら、俺たちの出る幕はなかったはずだ。成功したか……は怪しいが、まず彼らにお願いしていただろう。だが、あんなよくわからんところにいた」

《お願いしたんだけど、聞いてくれなかったの》


 悲しそうなチガヤの思念が聞こえてくる。


「お花の種類が悪かったんだな」

《そう》

「それに、ろくに計画も立ててなかったんだろうな。少数精鋭どころか、烏合の衆から数を抜いただけの連中だ。どうしようもなかったろう」

《外国の研究施設に、亡命するって言ってた》

「そうかい。だったらやはり味方じゃなくて、敵だ。……来たぜ」


 レーンにすしが運ばれてきた。

 すしの皿を取る。リンネが頼んだのはまぐろだった。

 ハルカズが頼んだのは白身の魚だ。

 

 リンネは迷った。食べ方がわからない。

 それとなくハルカズの方をチラ見するが、彼はまだみそ汁を呑んでいる。

 

 意を決して、箸を動かす。

 上の切り身部分のみを取って、口に入れた。


「……?」


 まずくはないが、これじゃない感じがする。

 次に白飯部分を食べる。

 これもまた変だ。こんなのにみんなお金を払っているのか。


「わからないことがあったら、聞いていいんだぞ。別に怒りはしないさ」


 どうもハルカズは、リンネにわざと失敗させようとしている節がある。

 そのことが気に入らない。今までの自分が否定されているような気がする。


「嫌なことがあるのなら、嫌と言えばいい。不満に思うなら不満を口に出せ。罰を与えるクソ教官や上官はここにはいない」

「何を……」

「今のお前は自由だよ。以前より圧倒的にな」

「自由……」

「こうやるんだ」


 ハルカズは醤油をすしにかけて、そのまま食べた。

 リンネも真似をする。


「おいしい……」


 ここにいる人はこんな美味しい物を食べているのかと驚く。


「だろ?」


 どこか得意げなハルカズに全力で同意しそうになって、


「ま、まぁ値段の割には……」


 とそっぽを向く。クスクス、というチガヤの笑い声が頭の中で反響した。


「敵について話してたんでしょ」

「そうだな。次は……チガヤを奪おうとする連中だな。強奪組とでも言うか」

「チガヤが欲しいってこと」

「正確にはその能力だな。チガヤのことについては、まだ俺もよくわからないし」


 その点はリンネも、そして他ならぬチガヤ自身も同じだった。


《ごめんなさい、うまく説明できなくて》

「チガヤにとっちゃ、ただの会話だろうしな。会話ってどうやるのって聞かれて、すらすらと解説できる奴なんざそうはいないさ。わざわざそんなこと考える必要ないからな」


 頭で言葉を考えて、口を動かす――チガヤができた説明はその程度だった。

 お花に話しかける、らしい。

 実際に起きてることは超能力だが、彼女からしてみれば、ただ普通にお話しているだけなのだ。


「ただ、連中にとっちゃ価値がある。実際、チガヤは超能力者だ。本当に大量破壊兵器と呼べるほどの力があるのかはどうでもいい。向こうがそう思ってるんだからな。彼女は人畜無害だと言ったって、奪いに来るだろうよ」

「その時は倒せばいい。枯らさないように」

《ありがとう》

「いいんだよ……」


 リンネはチガヤに優しく微笑む。彼女にすしを食べさせてあげられないのが残念だ。


《私の分も、リンネが食べてね》

「わかった」


 リンネは皿を空にした。


「脅威度はそうだな……二番目ってところかな。俺やお前はともかく、チガヤの命は奪わないだろうから、戦いやすくはある。最後は……」

「一番脅威度が高い連中。……あいつら」


 リンネは箸でレーンを挟んで反対側にある席を差す。こっちを見ていた連中と目が合った。

 チガヤを危険視する連中だ。

 チガヤを大量破壊兵器と呼び、亡き者にしようとしている奴ら。


「そうそう、皆殺し狙いの、ゴミカス野郎さ」

 

 おもむろにハルカズが立ち上がる。


「どこ行くの」

「トイレだよ。好きに注文して食べてな」

「一人で平気?」

「大丈夫だ。ただのお花摘みさ」



 ※※※



 男子トイレに入ったハルカズは、まず個室をチェックした。

 幸い、客は誰一人入っていない。

 運がいい。

 

 そこへ客がやってくる。全部で四人。

 素知らぬ顔をしているが、全員が殺し屋だ。


「なるほど、まずは情報取集ね。こっちの腕前を計ろうってか」

「あ?」


 リーダー格の男が声を荒げた。その瞳には侮りが混じってる。


「格安の傭兵を大金で雇ってその気にさせたか。失敗すれば、報酬を払わなくて済むもんな。それでいて、ある程度の強さの指標にはなる……いい手を考えたな。感心するぜ」


 えらぶった物言いをすると、傭兵たちが怒りの色を見せる。

 ありがたいことに、感情のコントロールもできていないらしい。


「新品の服だからな。汚したくないんだ」

「ふざけんなガキ!」


 殴りかかってきた男よりも素早く殴る。

 思わぬ反撃に傭兵たちの目の色は変わったが、もう遅い。

 横から攻めてきた男を蹴飛ばし、突撃してきた敵を避け、その背中に蹴りを見舞う。

 

 最後の一人が拳銃を抜いたので、その銃身を掴んで捻った。

 悲鳴を上げた敵の首に手刀を見舞う。

 最初に殴り飛ばした男が、体勢を立て直そうとしていた。


「侮ってくれてありがとな」


 おかげで戦いやすかった。殴ってトイレの床に寝かせる。

 武装を使えなくした後、全員をトイレの個室へ放り込んで使用禁止の張り紙を貼った。

 

 店の人には申し訳ないが、チガヤという存在を隠したい誰かが裏から手を回すだろう。

 口止め料として弁済か何かされるはずだ。

 

 だから許しておくれよ?

 そう思いながら用を足して、トイレを出ようとした時、


《ハルカズ、リンネが!》


 チガヤのテレパシーが響く。まさかと思いながらも急いで席へ戻り、


「――」


 絶句した。

 テーブルを埋め尽くす、大量の空き皿に。

 この短時間にどれだけ注文して、どんだけ食べたのか。


「……ちょ、ちょっとだけ、食べ過ぎた……かも?」


 リンネは気まずそうに目を伏せる。


「マジか……」


 さしものハルカズも、これは予想できない。

 リンネの食欲には呆れるしかなかった。

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