第1の冒険 前半
シンドバッド一行はソハール港から出航し、まず東インド諸島を目指した。
商人とはいえ、その交易の殆どを父に任せ、自国での取引のみを行なっていたシンドバッドにとって、外国というのはまさに未知の世界である。
自国とはまた違った文化や人々が住んでいるに違いない。シンドバッドはまだ見ぬ島への期待を胸に船先を見つめる。
船はペルシア湾を抜け、順調に航路を進んでいる様だ。
しかし変わり映えのない景色に飽きてきたのか、皆船内に閉じこもってしまった。
「いやー航海って意外と退屈なもんやなー。」
船に揺られ呑気に独りごちたその時だった。
島が見える。しかもそれはもう目と鼻の先、あわよくばぶつかるのではないかという距離にそれはあった。
「えらいこっちゃやで……。」
シンドバッドは夢でも見ているかの様な光景に思わず目を擦った。しかし紛う事なき現実はすぐそばまで迫っている。
船を止めようにも、もう間に合わない。
「皆つかまれー!!」
シンドバッドは船内の仲間にも聞こえる様声を張り上げた。
ドン、と鈍い音と共に船は激しい揺れに襲われた。次いでバリバリと木の割れる音が響く。
終わった、と思った。シンドバッドはこのまま縁もゆかりもない海の真ん中で大して親しくもない野郎と共に死に腐らなければならないのだと思うと寒気がした。その上急に現れた島にぶつかって急死とは阿呆にも程がある。
シンドバッドが思考を巡らせている中、他の商人達は既に島への移動を始めていた。
「無事ですかー! シンドバッドさん。」
頭上から降る声にシンドバッドは顔を上げ、手を振る。
「よかった……! 他の船員達も皆無事です。船もそこまで壊れてないみたいで……不幸中の幸いとはこの事ですね。」
純真無垢を形にしたような青年に声を掛けられ、シンドバッドは自分の腐り切った性根との差を感じて軽く絶望した。
そして船の状態を確認すべく、他の船員達と共に陸へ上がる。
あの音と衝撃の割には船はしっかりと形を保っていた。幸い船が陸にうまく乗り上げたおかげで船の損傷は最小限に留まった様だ。
「上陸したはええけど今んとこ誰にも会ってへんな。」
島に上陸した一行は島の探索を始めたが、歩けど歩けど木1本生えていない。
「無人島どころか生き物の気配すらしないのは流石に……。草木1本生えてないのもおかしいですね。」
名は知らないが何やら頭の良さそうな男が呟いた。
こいつは一体誰や。自分が集めたとはいえ全く覚えがない。
「そや! 皆改めて自己紹介してくれ。これから一緒に旅するんやから顔と名前は覚えんとな。」
多分、紹介は一度済んでいる。自分が覚えていないだけで。しかし彼らはエキストラではない。いつまでも男Aでは流石にまずいだろう。冷めた目で見られようと再度名前を確認するしかないのだ。
2度目の紹介を終え、シンドバッドは頭の中で名前を反芻する。
まず自分の隣にいる男、彼はアーリムと言うらしい。先程のインテリ男である。体は華奢だが、見立て通り頭の回る男ならこの旅に欠かせない人材だ。
その彼の右隣にいるのがシャーディー。アーリムとは対照的に筋肉質で恰幅のいい男である。力仕事を任せるならこの男だろう。
そしてその隣がハイサム。鷹のような鋭い目が印象的な男だ。口数が少なく何を考えているか分からない。お友達になれるか正直不安なタイプだ。何故連れてきたのだろう。
そして最後にクトゥブ。おどおどしていて正直1番頼りなさげ。ただ海図の読み書きができるという理由で連れてきた。
しかしさっき話した良心の塊のような青年は一体どこへ行ってしまったのか。その姿が見当たらない。何なら1番名前を知りたい男なのだが。
しかしとても旅の精鋭とは言えない船員達をシンドバッドは改めて見回す。意識でも失っていたのかと思う程適当な人選に今更驚愕する。本当に、酒にでも酔っていたのかもしれない。
自分もそう大した人間ではないのだからまぁよしとしよう。
これは目的も信念もないゆるい旅なのだから。
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