初手ドナドナ
僕は車窓から外の世界をのぞき見る。
後ろに流れていく街はブチ壊れ、
何でこうなってるのか、理由はわからない。
僕が目を覚ましたら、すでに世界は今の形だったから。
まぁ、これはいいだろう。まるで良くないが。
これよりずっと重要な問題がある。
それはもちろん、僕の手に鎮座しているモノについてだ。
ぶっとい
ごっつい
――はい。何か知らんけど捕まってます。
僕はテロリスト並みに武装した少女たちに捕まった。
そして機関車の客車に放り込まれ、どこかに向かって運ばれている。
どうしてこうなったのか。
すこしばかり思い返してみよう。
僕はバイトのため、午前8時に
たまたま目の前で座っていた人が降りて、運良く席に座れた。
席に座った僕は、そのまま夢の中へ。
そうして目的の駅につくのを待つはずだった。
しかし、ふと目をさますと世界は一変していた。
世界はブチ滅び、僕は焼け
困惑した僕が電車の中をうろついていると、どこからともなく機関車が現れる。
そして中から出てきた武装少女に捕まった。
うーむ……後半が意味不明だ。
ひょっとして、まだ夢を見ているのだろうか。
実際の僕はまだ電車の座席で寝ている。
そうだといいんだけど……。
「えっと、君にその……あの、聞きたいことがあるんだけど……いいかな?」
「あっはい。なんでしょう?」
考え事をしていたら、自信なさげなお姉さんに話しかけられた。
彼女は腰まで伸びた亜麻色の長い髪をはらう。
僕を見つめる透明感を持った薄青の瞳はどことなく寂しげだ。
その目で見つめられるとちょっとドキッとする。
いや、このドキドキは手枷と鎖のせいかもしれないな。
彼女は座席に座る僕の前にいて、手枷についてる鎖を持っている。
手枷と鎖のせいでなんかそういうプレイのようだ……。
僕は照れのため彼女から目をそらし、手の鎖をみる。
すると視界の端の彼女が、ハッとしたような表情になった。
「あ、えっと……痛くない?」
「まぁ、ちょっと重いくらいです」
「そ、そう……」
彼女は銃も持っていて、僕に対して圧倒的優位にある。
それなのに、どこか遠慮がちだ。
いや、遠慮を通り越して、怯えているといってもいいだろう。
「き、君の名前は、何かな……?」
「
「そ、そう……よろしく、フユ」
「うん、よろしく」
滑らかな亜麻色の髪をふって、彼女は笑った……ように見えた。
そこから僕らの間に会話はなくなった。
タタン、タタンと、レールの音だけが僕と彼女の間を通り過ぎる。
ふとお姉さんの髪の間に何かあるのに気づいた。
――耳だ。 だが、人間のものではない。
丸く毛に包まれた、ネコ科の動物のものに見える。
アクセサリかと思ったが、よく見ると動いている。
とても作り物なんかには見えない。
「……」
「そんなビクビクすんなよー!」
「わっ! ……おどかさないでよ」
どこからともなく、元気いっぱいの少女が現れた。
あれ、いつどうやってココに来たんだろう。
客車の扉を開ける音はなかったような……。
「こいつなんてーの?」
「フユ君だって」
「よろしくなフユ! ねーちゃんがリカルダ! で、あたしがティムールな!」
ナチュラルボブの少女は、にこやかに笑って名乗った。
その手にショットガンが無かったら僕も微笑み返せただろう。
「あっハイ。ティムールさんと、リカルダさんですね」
「ティムールでいいぜー」
「よ、よろしくね。わ、私もリカルダでいいよ……」
「あっ、どうも」
「ふーん……」
ティムールはどすんと客車の通路に座った。
そしてそのくりっとした目でしげしげと僕を見る。
……よく見ると彼女も頭の上に耳があるな。
形はにてるけどティムールの方はトラ柄だ。
もしかすると、リカルダさんがライオンで、ティムールがトラか?
コスプレ……なわけないか。
耳だけのコスプレとか聞いたことない。
「んー……うーん……」
「な、なんでしょう?」
「見た感じ、コイツはだいじょーぶそーだなー」
「?」
「うん、この人、ギタイじゃなさそうだよ。元からこんな感じ……っぽい」
「ギタ――何だって?」
「んーこっちの話! とりま、ボスのところに連れて行こーぜ!」
「そ、そうだね」
「ボスって、君たちのボス?」
「おう、しつれーのないよーにな!」
リカルダが気の毒そうに眉を下げ、鎖を持ち上げた。
彼女の顔を見ていると、なぜだかこっちのほうが申し訳なくなる。
捕まってるのはこちらなのに、これじゃあべこべだ。
「ぼーっとしてないで、行った行った!」
「あっ、はい」
僕は前を行くリカルダに案内されて、客車からまた別の客車へ向かう。
殺気いた場所もそうだが、この列車の内装はメチャクチャ豪華だ。
上質な木材がふんだんに使われ、布材はつややかなベルベット。
どこを見ても重厚なアンティーク感が漂っている。
廃墟の風景が流れる車窓がなければ、どこぞの洋館と錯覚しそうだ。
しばらくすると、リカルダがキャビンの入口で止まった。
通路も豪華だったが、ここはそれ以上だ。
まず空気感が違う。
壁には天使の彫刻が施されたレリーフがはめられて、高級感がエグい。
木製の扉も円柱状で、こんな形のものは見たことがない。
回転扉の木材版みたいな感じだろうか。
表面はよくニスが塗られ、鏡のようにピカピカと光っていた。
まちがいなく、ここが彼らのボスの部屋だろう。
テロリストの親玉って、どんな人だろう……やっぱモヒカン?
「ほらほら、入った入ったー!」
「わわっ?!」
リカルダがドアを開くと、ティムールはドアがすべて開くのを待たず、ドアの隙間に僕を押し込むようにして部屋に入れた。これじゃ案内というより配達だ。
「乱暴だなぁ……」
「フフッ、荒っぽくてごめんなさいね。あの子は何でも勢いにまかせる性格だから。ケガはないかしら?」
「いや、とくに……って、えっ、この子が?」
僕の目の前にいるのはモヒカンでもスキンヘッドでもなかった。
中世の絵画に描かれていそうな、緑色のアンティークドレスを着た少女だ。
人形のような可愛らしい少女が大きな椅子に座っていたのだ。
白に近い金髪をして、肌は陶器のように滑らかで白い。
人外じみたというと少し失礼かもしれないが、現実離れした美しさだ。
「きみがボス……?」
「そうよ。私が彼らのボスのオズマよ。以後、お見知りおきくださいな」
憂いを帯びた瞳で覗き込まれる。
僕は
「あっ、フユです。
「フフ、そこはご丁寧でしょ」
「いやぁ、びっくりしちゃって……」
「面白い人ね」
彼女はドレスの袖で口を隠して笑う。
どうみても僕に比べてふた回りくらい年下、幼女といってもいいだろう。
なのに、その所作には妙に老成した感じがあった。
「さて、さっそくだけど、いくつか質問があるの。フユ君は自分じゃない、誰かの記憶があったりしない?」
「誰かの記憶が?」
「知らない誰かと話してる記憶とか、自分とはぜんぜん違う時代の記憶……そういったものね」
「って言われてもなぁ……。そもそもの話、今が僕にとって別の時代なんだけど」
「ぜんぜん違う時代? もっと詳しく教えてくれるかしら」
「あー、えっと……20XX年の東京で、日付は――」
・・・
僕はオズマに自分のことをあれこれ語ってみせた。
ごく最近学校であったこと、バイトのことなんかを……。
彼女はただ
「こんな感じかな。本当に、ただ電車に乗っていただけなんだ」
「――なるほど。フユ君は私たちと同じみたいね」
「同じ? 言ったらなんだけど、僕は――」
「ううん、そうじゃないの。見た目とか、そんなじゃなくって……」
「?」
「私も貴方も、とっくの昔に死んでるってこと」
「え? ……えぇぇぇっ?!」
・
・
・
※作者コメント※
ここまでお読みいただき恐悦至極……
そういえば、ブクマ登録や★評価ってものがございまして
これをすると、作者が泣いて喜んで
更新速度が爆伸びするという噂です。(チラッチラッ
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