死人たちのアガルタ ~銃と廃墟のSF探索バトルアクション!~

ねくろん@カクヨム

最悪の目覚め

 電車で寝ている時に起きる最悪の出来事とは何だろう?

 いきなり肩を殴られて怖いお兄さんににらまれる。

 寄りかかってきたおっさんの脂にさわってしまう。


 なかなか最悪だが、どうやら僕の身にこれ以上のことが起きたらしい。


「……文明さん、滅んでね?」


 電車の窓の先に広がる光景は、世界の終わりと言って差し支えない。

 都市は完全に廃墟はいきょと化し、原形をとどめていない半壊したビルが並んでいる。ビルの間の道路には、壊れて動かなくなった車が列をなしている。


「完全にブチ滅んでますね。これは……地震でもおきたのか?」


 大災害……にしては奇妙だ。まったく人の気配がない。

 大地震が起きたなら、サイレンや救急車の音が聞こえたっていいはずだ。

 しかし、今僕がいる場所はまったくの無音。


 聞こえるのは自分の呼吸の音だけ。電車内は静寂に包まれている。


「よくみたら、電車もおかしいぞ。

 なんでこんなにボロボロなんだ……?」


 僕が座っている座席はズタボロだ。

 本来、紺色のシートの生地は真っ黒になっている。


 座席の下、アルミの部分も真っ黒で泥だらけだ。

 電車の窓も大体割れているか、ススで真っ黒になっていた。


 そして、こうなってからだいぶ時間が経っていることもわかる。

 黒ずんだ植物の根が伸びていて、列車の後方は完全に潰れているからだ。


 ここまで草木に侵食されるのは、たぶん十数年はかかる。

 いったい何があったんだろう?


「……前に行ってみるか」


 僕は立ちあがって、前の車両へ向かった。

 だが、これは何か根拠があってのことではない。

 ここに座ったままよりはマシだと思っただけだ。

 だが――


「……げっ」


 錆びついた扉を体でおしのけ、入った先で僕は絶句した。

 炭色の車両の床に、白く、丸い物体――

 人の頭蓋骨が転がっていたのだ。


「け、警察!」


 僕はとっさにスマホを探す。

 だが、ポケットにあるはずのスマホがない。


「あ、あれ……?」


 よく探してみたが、財布もスマホも、家の鍵もない。

 僕の持ち物は身につけている服だけのようだ。


「盗まれた……なワケはないよなぁ。人っ子ひとりいないのに」


 そもそもの話、完全にブチ滅んだっぽい世界に警察がいるはずがない。

 とはいえ、どうしたもんか……。


「ん、あれ?」


 潰れた先頭車両のほう、線路から光が近づいてくる。

 虫や太陽ではない。

 明らかに人工的なライトの強烈な灯りだ。


「人がいるのか!?」


<プァン!! プァン!!>


 僕の疑問に答えるかのように、けたたましく警笛が鳴る。

 助かった! そう思った僕は、車両の中をつらぬく光の中に走っていった。


「おーい! こっちだー!」


<キィィィィィィッ!!!>


 金属と金属が激しくこすれる耳障りな音がすすけた電車の中でこだまする。


 僕は運転室までたどり着き、ガラスが割れ、ゆがんだ窓から前を見た。

 すると――


「なんだあれ……」


 信じられないものがそこにあった。

 もうもうと煙をあげて、黒鉄の巨体がきしむ。

 線路の上にあるのは――機関車だ。


 鉄の怪物は煤煙ばいえんを吹き上げ、ゆっくりとこちらに向かってくる。

 汽車の煙は妙に油っぽくって、鼻につんときた。


 夢ならこんな臭いはしないだろう。

 目の前の機関車は、確実に存在して動いている。


「機関車って……マジ? まさか僕が寝ている間に、文明がそこまで後退しちゃったって……コトォ?」


 目が覚めたら世界は滅んでいて、機関車が走っている。

 僕は目の前の状況に、ただ困惑することしかできなかった。


 だが、目の前の機関車には動かしている人が乗っているはず。

 彼らに話を聞けば、何が起きたのかわかるかもしれない。


 幸い、電車の先頭車両のドアは空いたままだった。

 僕は電車から線路に飛び降りて、汽車に向かって手をふった。


「おーい! こっちだー!!」


 足元から生臭い蒸気をブシューっと吹き出し、汽車が止まった。

 どうやら、僕の存在に気づいてくれたらしい。


「やっと人に会えた……ッ?!」


 耳障りな音を立て、止まった汽車の後ろから出てきた人たち。

 彼らを見た僕は、全身が凍りついた。


「じ……銃?!」


「ほら、言ったとーりだ! 人間だぞー!」


「ち、近づいて大丈夫かしら……?」


 機関車の中から出てきたのは二人の少女。

 だけど、その手には銃を持っていた。


 陽気な声をあげた元気いっぱいの少女。

 一見すると、元気なスポーツ系の女子中学生って感じだ。

 その手に大砲のように巨大なショットガンを持っているのを除けば。


 彼女が着る黄色いパーカーには、鉄板が中世の甲冑のようになっている。

 ファッションにしては攻撃的すぎる。

 袖にショットガンの弾まで縫い付けられてるし……。


 もう一方の女の子は、静かな雰囲気の深窓のお嬢さんいった風だ。

 すこしカチッとした雰囲気のコートにスカーフ。

 手にスコープのついたライフルがなければ、会社帰りのOLに見える。


 強盗か、それともテロリストか?

 いやでも中学生がショットガン持つか?

 僕は恐怖と混乱で、体が完全にフリーズしてしまった。


 少女はこちらに近寄ると、じっと僕の様子をうかがっている。

 もちろん、その手にあるショットガンはこちらを向けたままだ。


 鉄パイプを思わせる銃身がこちらを見据え、僕にきれいな黒丸を見せている。

 ひぃ、まるで生きた心地がしない。失神しないようにするのがやっとだ。


「うん、だいじょーぶ! ほら、こんなにおとなしーだろ!」


「そ、そう……?」


 大人しいんじゃなくて、動けないんです!


 僕が線路の脇で固まってると、

 お姉さんが恐る恐るこっちに近づいてきた。


(……!!!!!)


「ごめんね」


 直後、ガチンと音がして両手にズシリとした重みを感じる。

 僕の両手を見ると、黒鉄のかせがはめられていた。





※作者コメント※

本作は作者の処女作「死人たちのアガルタ」の第2稿になります。

完全新作ではありませんが、展開は完全にリライトされています。

前作をお読みいただいた方もお楽しみいただけるおもいます!

よろしくお願いします!

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