第32話

ある日、Sは街で声を掛けられた。

それが笠原だった。

笠原の行きつけのバーで

二人は軽くお酒を飲んだ。

二杯目を飲んですぐに

Sは意識が朦朧としてきた。

そしていつの間にか意識を失っていた。



薄暗い倉庫のような場所で

Sは目を覚ました。

頭がぼぅっとする中で、

男から乱暴に服を脱がされた。

抵抗する暇もなく、

男が中に入ってきた。

不快感と痛みでSは叫び声をあげた。

男は笠原だった。

Sが叫び声をあげると笠原は固くなり、

その動きも激しさを増した。


笠原はすぐに果てた。

随分長く感じたが、

実際それは三分程度だった。


笠原が体から離れると

同時にSは生温い液体が

お尻へ垂れるのがわかった。

自分が乱暴されたことを

このときになってようやく現実として理解した。


Sにとっては初めての男だった。


Sは涙を拭いて

近くに脱ぎ捨てられた服に手を伸ばした。

しかしその手は空をきった。

すぐに笠原が馬乗りになってきた。

両手を押さえつけられ、

左の乳房を笠原の口が捕らえた。

笠原は交互にSの乳房をその口で弄んだ。

ふっとSの両手が自由になった。

途端に、下半身に痛みが走った。

笠原がふたたび侵入してきたのだ。

Sは悲鳴をあげた。

笠原が動いている間、

Sは目と口を閉じてその痛みに耐えた。

笠原の動きが止まり、

やっと解放されたと安堵したのも束の間、

今度は後ろから犯された。

笠原は四つん這いになったSの髪を掴んだ。

後ろから激しく突かれる度に、

前に倒れようとするSの髪を

笠原は掴んでは引き戻した。

痛みの場所が一つ増えた。

体を支えている手が辛くて、

肘を付くとお尻を叩かれた。

「肘を付くな、手で支えろ」

そんな罵声が背後から聞こえてきた。

手をついて上半身を起こすまで、

お尻を叩かれ続けた。

痛みの場所は三か所になった。


これまでと違って笠原はなかなか果てなかった。

Sは延々と続く責めに手をついて耐えた。

後ろから犯されながら、

Sが考えていたのは兄のことだった。

早くに両親を亡くしたSには六つ年上の兄がいた。

親代わりの兄と一昨日喧嘩してから

口をきいていないことを思い出した。

その時、周囲に響く雨の音が耳に入ってきた。

外は雨なんだ。

と冷静にSは思ったという。


笠原は一定のリズムで動いていた。

後ろから突かれながら、

Sは薄暗い周囲に目を向けていた。

ただ広い空間だった。

向こうの壁に窓がいくつか見えたが、

その窓のガラスはすべて割れていた。

雨も中に降り込んでいるようだった。

その時になって、肌に当たる雨を感じた。

見上げると高い天井が見えた。

が、所々に穴が空いており、

そこから雨が侵入していた。

さっきより雨の音が大きく聞こえた。

それに混じってギシギシと軋む音が

体の下から聞こえてきた。

顔を下に向けると、

汚いマットが目に入った。

マットを雨がポツポツと濡らしていた。

すぐに後ろから髪を引っ張られて、

ふたたび割れた窓ガラスに視線が向けられた。

大声で助けを呼べば誰かが気付くかもしれない。

Sはそう思った。

しかし結局、助けを呼べなかった。


徐々に笠原の動きが速くなる。

激しい動きに耐え切れず、

Sは肘から前に崩れ落ちた。

雨に濡れたマットに顔が沈んだ。

すぐに髪を引かれ、

手より先に頭が持ち上げられた。

視線が真上を向いた。

口の中に雨が侵入してきた。

笠原の手が首に回された。

その手に力が入って、

Sは呼吸が苦しくなった。

叫ぼうとしても声が出なかった。


殺される。

苦しさと恐怖で体が硬直した。

その時、

Sの中の笠原がより激しく膨張したかと思うと、

熱いモノが放出されるのがわかった。


笠原の動きが止まると共に、

首に掛けられていた手が離れ、

Sはふたたびマットに頭から倒れ込んだ。

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