四章 未視感

第35話

柱時計が鳴った。

いつの間にか二十一時になっていた。


私は気まずさから

もう一度招待客の名簿に目を落とした。


宿儺と鈴木の名前が嫌でも目に入った。


このどちらかが

私に毒入りワインを飲ませる人間に違いない。


その時、

私は恐ろしいことに気付いた。


これは衝動的な殺人ではない。

それは毒殺という殺害方法が示している。

犯人は予め毒を用意しているのだ。

つまり計画的な犯行。


背筋がゾッとした。


なぜ私は見ず知らずの男から

殺されなくてはならないのか。

その動機は何だ。


動機。


人を殺人に駆り立てるような動機。

その原因が私にあるとはどうしても考え難い。

それとも。

私は知らず知らずのうちに

他人から殺されるような恨みを

買っていたのだろうか。


ふと頭に浮かぶ三ノ宮家の文字。


私の中には三ノ宮家の血が流れている。


近親者ほど邪魔になるのは

これまでの歴史が証明している。


それに三ノ宮家の人間が

私の事を快く思っていないことはわかる。

そして桐壺亭でアルバイトをしている

私の行動を把握することなど

三ノ宮家にとっては朝飯前のはずである。

明日の招待客の中に

三ノ宮家の息のかかった人間がいるのだろうか。

三ノ宮家が

罠を張って私という獲物がかかるのを

待っていた可能性はあるのか。


いやいや馬鹿馬鹿しい。


私は頭を振った。

いくら三ノ宮家でも人を殺すなんて

そんな真似はしないだろう。

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