三章 笠原信明という男

第29話

笠原信明。

職業はホスト。

ただしそれは昔の話で

現在はヒカルの家に転がり込んで

養ってもらっているというのが実情。

つまりはヒモというわけだ。


女をたらしこんで金を貢がせる。

これはドラマや小説の中では

よく耳にする話だが、

実際にそんな男がいることに私は驚いた。

それと同時に一体どんな男なのだろうかと

興味が湧いた。


私ならどんな男なら養ってあげようと

思うだろうか。

見た目?

外見はたしかに重要な要素かもしれなかった。

しかしそれだけの理由で

お金を出すことは私には考えられなかった。


では優しさ?

しかし女に養ってもらうような男が

優しいとは考え難かった。

その優しさは金に基づく打算であり、

女に対して優しいのではなく、

女の出すお金に対する対価として

優しく接しているだけなのだ。

しかし当事者となった時、

その偽りの優しさを私は果たして

見抜くことができるだろうか。

私はそんなことをぼんやりと考えていた。


そしてなぜこんな情報を

佐藤が知っているのか私は不思議だったが、

この時はそれ以上に話の続きが気になった。


笠原は女に依存して生きている男。

しかしそれだけで人間のクズというのは

あまりにも酷い言われ様だった。


人は己の才能で食っていく。

異性をたらしこんで

お金を貢がせるのも一つの才能。

世の中綺麗ごとだけでは生きていけない。

もっと酷いことをしている人間は五万といる。


「別に女に依存して生きることが

 悪いというわけではないのよ」

佐藤は私の考えを見透かしているかのように

そう続けた。

「この男はね。

 自分の欲望のためなら、

 女に何をしてもいいと思ってるの。

 女をモノとしてしか見ていないのよ」

佐藤は何かを決心したように

一度大きく息を吸った。

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