第22話 自己紹介と見取り図

「ただいま到着された、三ノ宮さんです」

男装の麗人が私を紹介した。

二人の視線が私に向けられた。


「どうぞ、そちらに腰掛けなさい」

徐に魔女が命じた。

私は魔女の対面のソファーに腰を下ろした。

男装の麗人はドアの近くで立っていた。


「まず自己紹介をしておきましょう。

 私は桧垣(ひがき)と言います。

 そしてこちらが」

そう言って隣の執事然とした男へ顔を向けた。

「私は大神(おおがみ)と申します。

 普段は私一人で

 この別荘の管理を任されています。

 今回はお客様がいらっしゃるとのことなので

 私一人では対応しきれないと思い

 桧垣さんと佐藤さんにお手伝いを頼みました」

佐藤というのが男装の麗人の名前だろう。

こう言うと誤解を招くかもしれないが、

その特徴的な外見とは違って

名前は平凡だなと思った。

大神と名乗った老人は

そこで一度口を閉じると

少し困った表情を浮かべた。

「本来は我々三人で事足りるのですが、

 旦那様が私にご相談なしに

 貴方をお雇いになられたようで・・」


そこで私は

あの『ビジョン』に出てきた

往年のコメディアンが

大神の言う旦那様ではないかと思った。

ただ、

あのコメディアンは貫禄こそあれ

せいぜい三十代に見えた。

あの若さでこの別荘を手に入れているのか。

所謂青年実業家という人種だろうか。


それよりも今の大神の話では

私は手違いで雇われた

招かれざる雇われ人のようにも聞こえた。


「安心して下さい。

 三ノ宮さんには旦那様との契約通りに

 三日間お手伝いをしてもらいます」

そう言って大神は温和な笑みを浮かべた。



続いて魔女の口から

仕事に関しての詳しい説明がなされた。


ゲストが来るのは明日の昼。

それから中庭でバーベキューをした後、

夕食は食堂で大神の手料理でもてなす。

ゲストは一泊して

翌日の昼に解散。

それが今回のパーティーの流れだった。


私の仕事は

ゲストの泊まる部屋の掃除と

バーべキューの準備と片付け。

明日の夕食と最終日の朝食の配膳。

あとはゲストの要望に対応すること。


聞けば聞くほど楽な仕事に思えた。

正直、これで十万円はおいしいと思った。

しかしそれは命という対価がなければの話だが。


最後に

私の振る舞いが雇い主の評価に繋がるため、

ゲストに失礼のないようにと

念を押された。



続いて大神からこの建物の説明があった。

建物は上から見ると凹の形をしていた。


建物の右棟には私の泊まる部屋を含めて

四つの部屋があり、

私と佐藤の部屋から奥に向かって

桧垣そして大神の部屋と続いていた。

そして一番奥の部屋が雇い主であり

この別荘の主でもある旦那様の部屋だった。


一方建物の左棟にも四つの部屋がある。

手前から応接室。今いる部屋だ。

その隣が遊戯室。

そして食堂。

最後に倉庫も兼ねた厨房となっているようだ。

食堂と厨房は廊下に出ずとも

部屋の中にあるドアから

行き来できるようになっているらしい。


そして厨房の前には二階へと続く階段がある。


二階には全部で五つの部屋があり、

そこが今回ゲストルームとして使われる。

外観からもわかっていたが、

二階部分があるのはこの左棟だった。


特筆すべきは主の部屋と遊戯室だった。

この二部屋に限って

他の部屋の二倍の広さがあった。



大神の話が終わると

桧垣と佐藤は応接室から出ていった。


「どうしました?

 掃除道具は階段の脇の収納スペースに

 入っています」

不思議そうな表情を浮かべる大神に

私はタクシーの領収書を見せた。

「こちらは後で旦那様に渡しておきましょう。

 そういえば三ノ宮さんは

 忌寸市から来られたのですね。

 あの町には有名な探偵さんがいらっしゃるとか。

 たしかお名前は・・」

そこで大神は手を口に当てて考え込んだ。

残念ながら私にはまったく心当たりがなかった。

「そうですか。

 すみません、無駄話でしたね。

 どうぞ仕事に取り掛かって下さい」

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