第19話

煉瓦で舗装された緩やかなスロープが続いていた。


静かだった。


小鳥の囀りと虫の鳴き声が聞こえた。

日常生活から離れた別世界に来たような

感覚に陥った。


同時に先ほどのタクシーでミた

『ビジョン』を思い出し

私は急に不安になった。


建物に近づくにつれて

私は徐々に違和感を覚えた。


建物はその全体が

無機質なコンクリートで覆われた

一風変わったデザインだった。

建物の左半分が二階建てになっていて、

正面から見ると

縦の短いL字型をしていた。

正面の壁には窓がなく、

玄関だけが建物の丁度真ん中で、

大きな口を開けていた。


敷地を取り囲んだ高い塀といい、

この建物は

外部との接触を拒絶しているのではないか。

そんな印象を受けた。


それにこの別荘の持ち主は

朝臣市の中でもあえてこの辺鄙な土地を選んで、

この奇妙な建物を建てたのだろうか。

私には金持ちの考えが到底理解できなかった。


玄関は建物の外観と比べて新しく、

不釣り合いなほど派手で豪華な造りだった。

そのことも一種異様な雰囲気を醸し出していた。


ここから足を踏み入れれば、

もう引き返すことはできない。


大丈夫。


私は自分にそう言い聞かせて

大きく深呼吸をした。


「どうかした?」

男装の麗人が前を向いたまま私に声をかけた。

「い、いえ。何でもありません」

私は動揺を悟られぬよう努めて冷静に返した。

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