二章 舞台

第18話

目の前に漆黒に光る大きな洋風の門があった。

門から伸びる無機質なコンクリートの塀が

来る者を拒むかのように敷地を囲んでいた。


周囲には他の建物は見当たらない。

それならばこれほど強固な境界線を

引く意味がないように思えた。


静かだった。


なんて寂しい処だろう。

それが第一印象だった。


古めかしいコンクリートの塀とは

対照的なその真新しい門に

私は恐る恐る手をかけた。


門は意外なほど簡単に開いた。


私は中に入ると門を閉めた。

途端に門の向こうが遠い世界に思えて

私はしばらくの間、

彼岸に目を向けたまま立ち尽くしていた。



「どちら様でしょう」

突然背後から声がして、

私は驚いて荷物を落とした。


私は恐る恐る声のする方を振り向いた。

そしてその声の主を見て私は言葉を失った。


黒い細身のパンツと真っ白なシャツ。

両肩にかかるサスペンダーと

首元の蝶ネクタイ。

黒く艶のある髪は

女性としては短く刈られていたが、

男性であれば長い部類に入るだろう。

そして

色白できめの細かい肌。


先ほどのビジョンでミたあの人物が

そこには立っていた。


身長は私よりも高い。

それも女性ならば高いといえるが、

男性であれば平均的な身長だった。


切れ長の鋭い目は

睨んだ者を一瞬で黙らせてしまうくらいの

迫力があった。

すっと通った鼻はツンと高く、

薄い唇は鮮やかな赤に染まっていた。


何だろう。

この浮世離れした美しさは。

男なのか女なのか。


「どうなさいました?」

目の前の人物がふたたび口を開いた。

その声色は女性だった。


そして私の目が

白いシャツの胸元を捉えた。

改めて私は目の前の人物が女性だと理解した。


男装の麗人。


女性にしては凛々しすぎて、

男性にしては美しすぎる。


歳の頃は二十五、六か。

あくまでも私の予想だが。


「どうなさいました?」

男装の麗人が三度口を開いた。


「あ、あの。

 アルバイトの三ノ宮と申します」

私は慌てて頭を下げた。


「三ノ宮結女さんね。

 お話は伺ってるわ。

 こちらへどうぞ」

男装の麗人は頬を緩めると、

私に背を向けて歩き出した。

私は急いで荷物を手に取りその後を追いかけた。

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