第17話

激しい動悸と共に目が覚めた。


体が震えていた。

体全体が熱を持ったように熱かった。

私は額に浮かぶ汗を手の甲で拭った。


ミラー越しに運転手が不審な目を向けてきたが、

私はそれを無視して

窓の外を流れる景色に目を向けた。


そして

何度か大きく深呼吸をして

気持ちを落ち着かせた。

すると気のせいか喉に痛みを感じた。

私はそっと触ってみたが特に異常はなかった。

私は喉の渇きを感じた。


今の夢は間違いなく『ビジョン』だった。


私はあの中で危険な状況に陥っていた。

いや危険というよりも

死がそこまで迫っていた

と言ったほうが正しい。

あれはアルコールのせいではない。


毒。


自然とその単語が頭に浮かんだ。


『ビジョン』は私に告げていた。

お前は毒入りワインを飲んで死ぬと。


冷汗が頬を伝って流れるのがわかった。

私は大きく息を吸った。


私に毒入りワインを飲ませた

あの不健康そうな男を私は知らない。

なぜ私は見ず知らずの男に殺されるのか。


あそこには私以外に八人の人間がいた。

そしてあの場所。

テーブルに並んだ料理。

窓はなく、

室内は電気の灯りで照らされていた。

見ず知らずの人達の晩餐会。


そしてそれは

おそらく

今回のアルバイト中の出来事に違いない。


三日で十万円という破格のアルバイト。

単においしい仕事だと思っていたが、

こうなると話が変わってくる。

よくよく考えれば怪しいことこの上なかった。


何かを得ようとすれば

何かを失うのは世の常だが、

命の対価が十万円では安すぎる。


しかしここまできて引き返すわけには

いかなかった。

何せこのままではここまでの交通費、

そして今乗ってるタクシー代も

回収できないのだ。


どちらにせよ

あのワインさえ飲まなければ

私が命を落とすことはない。

予め落とし穴の位置がわかっていれば

落ちる人間などいない。


それにしてもわからないことがある。

なぜ私が殺されるのだろう。



その時、突然タクシーが止まった。

「お客さん、着きましたよ」

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