一章 命の対価

第15話

アルバイト当日の朝、

私は寝不足のまま家を出た。

昨夜、早めに布団に入ったものの

私は気持ちが昂って

なかなか寝付けなかったのだ。

まるで遠足を待ちわびる子供のような心境だった。



私はバスで忌寸駅まで行って、

そこから電車で朝臣市へ向かった。

電車に揺られながら、

私の頭をかすめたのは

三ノ宮家の別荘も

朝臣市にあるのではないかということだった。

どちらにせよ仕事中は外出はできないだろうし、

たとえ外出できたにせよ、

三ノ宮家の別荘を探すほどの時間はないだろう。

それにたとえ見つけたとしても、

三ノ宮家の人間がいるという保証もなく、

仮にいたとしても

門前払いを食らうのは目に見えていた。



初めて降り立った朝臣駅は

世間で言われている朝臣市の華やかな

イメージとはかけ離れていた。


朝臣市といえば

近年別荘地として人気を博していて、

富裕層の落とすお金で町は潤い、

現在も別荘地の開発が進んでいると聞く。

さらに山間部を開拓して

リゾートホテルを誘致する

という計画も浮上しているらしい。


春は花見で酔いつぶれ、

夏は海沿いの別荘地が賑わいを見せ、

秋は紅葉を肴に酒を酌み交わし、

冬は高原で雪と戯れる。

結局、別荘地と言いつつ

ほぼ一年中、客足は途絶えない。

おまけにその客は

程度の差こそあれ一般的な基準から見れば皆、

裕福なのだ。

にもかかわらず、

この寂しさはどうだろう。


古い駅舎を出ると

ロータリーにタクシーが二台

とまっているのが見えた。

目の前に広がる光景に

私は落胆の溜息を漏らした。

随分と田舎に来た

というのが素直な感想だった。

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