四部 殺人未遂事件

プロローグ アルバイト

第13話

私は高校を卒業すると

フリーターとして生きていく道を選んだ。

進学用に貯めていたお金を元に

一人暮らしを始めた私は

社会という大海原に

たった一人で挑むことになった。


心機一転、

私はコンビニのアルバイトを辞めて

宿禰市にある桐壺亭本店でアルバイトを始めた。

結局私はまだ三ノ宮家との関わりを

完全には捨てきれずにいたのだ。

そして

私はここで社会人としての基礎を叩き込まれた。


桐壺亭は

小洒落たファミリー向けレストランだった。

特徴としては食事よりも

その外装や内装に金をかけていた。

チェーン店であるにもかかわらず

各店舗によって

その外装や内装が違うのも特徴だった。

味は他のファミリーレストランと

さほど変わらなかったが値段は倍だった。

そして不思議なことに

どの店舗も繁盛していた。


私はここで働いていれば

いつか三ノ宮家の人間に

会うことができるのではないかと考えていた。

そして、もし会えたら笑顔で挨拶をするのだ。

私はこんなに幸せに生きてますよと。

決して不幸な姿など見せてやるものか。


しかし三ノ宮家の人間に会うことは

一度もなかった。


どの世界でもその内部にいる人間は、

自分の属する世界が

虚構にまみれていることを知っている。

彼らは自分達の作り出すものに

値段に見合う価値がないこともよく知っている。

うちの店長ですら、

ここに来る客は味のわかっていない

馬鹿ばかりだと裏では笑っていた。


私はここでもう一つの教訓を得た。


・人は肩書や背景で騙される。


そして商売とはいかに人を騙すか

ということがその本質である。

物事の本質を見抜ける人間は少ない。

だから大多数の人間を騙して

金を搾取することができるのだ。

世に名を残した芸術家だって

自分の作品に

途方もない値段が付いているのを知れば

あの世で大笑いするに違いない。


人々の前で神の存在を説くような人間こそ、

その存在を信じていないのも自明の理である。


いつの世も騙されるのは

無知で愚かな人間ばかりなのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る