第12話

高校生三年生になると

私は進路で悩むことになった。

進学か就職か。

言い換えるならば束の間の自由か、

一生の不自由かである。

そして束の間とはいえ、

その自由を手にするにはお金が必要だった。


背に腹は代えられない。

私は意を決して

夏休みに父の実家の三ノ宮家を訪ねた。


三ノ宮家は

「桐壺亭」

という外食チェーン店を

全国二十三都市にわたって展開していた。

これを一代で築き上げたのが父の父

つまり祖父である。



宿禰市の允恭町にある父の実家は

「クリーン・ホーム」の何倍も大きかった。

高い築地塀に囲まれたその屋敷は、

その門構えからして一種の異様さを孕んでいた。

四脚門に不釣り合いなインターホンを押すと、

家政婦と名乗る女の声がした。

私は自分の素性を明かしてから、

三ノ宮家の人間と話がしたいと伝えた。


そのまま少し待たされて、

ふたたびインターフォンから

先ほどと同じ声が聞こえてきた。

彼女は私に三ノ宮家の人間は不在だと告げた。

私は彼女に伝言を頼んだ。

彼女はただ一言「畏まりました」と答えて、

それで会話が終わった。

私は帰路に就いた。


それから一週間待っても連絡はなかった。


もしかしたら

私の伝言は祖父に届いていないのではないか。


私はふたたび足を運んだ。

対応は前回と同じだった。

私は出来るだけ早く連絡が欲しい

と念を押してからその場を後にした。


しかし夏休みが終わっても連絡はなかった。


私は自分と父方の家族との間の溝の深さを

再確認した。

そして、

ただ外国人というだけで母を毛嫌いし、

それ故に私達家族を遠ざけた

三ノ宮という家を心の底から軽蔑した。


このことから私は一つの教訓を学んだ。


・金の多寡がその人間を計る物差しにはならない


この世は何かを得ようと欲すれば

別の何かを諦めなくてはならない。

すなわち巨額の富を得た人間は

それと同等の何かを失っているということを。

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