第6話

私がこの出来事を誘拐事件と知ったのは

十六歳のとき。

自分の不思議な力と

その特性を理解してからのことだ。


私は夢の中で

落葉ちゃんの未来をミたと思っていた。

しかし、

初めに話した通り、

私が夢としてミるのは自分の未来なのだ。


これは明らかに矛盾しているが、

別の解釈をすれば矛盾がなくなる。

そこへ考えが至った時、

私は絶望した。


つまり本来ならば

誘拐されていたのは落葉ちゃんではなく

私だったのだ。

そして私はそれが怖くて

夢の中で泣いていたのではないか。


あの時、

落葉ちゃんがあの黒い大人に駆け寄った時、

本来なら私も隣にいたのではないか。

事前に見た夢の恐怖が当日の私の体を

恐怖で強張らせたために

落葉ちゃんだけが駆けていったのだ。


そして夢の中で

窓越しに笑顔で手を振っていた落葉ちゃん。

あれは私が車内から見た光景ではないのか。

夢の終わり、

私の肩に手を回したのは、

私を夢から起こそうとした母ではなく、

車を運転していた

誘拐犯の手だったのではないか。


落葉ちゃんは私の代わりに誘拐されたのだ。



そしてもう一つ腑に落ちないことがある。

どちらかといえば

私よりも人見知りな落葉ちゃんが

なぜあの黒い大人には

すんなりと付いていったのか。

私は思った。

黒い大人は女だったのではないか。

しかしたとえそれが正しいとして

今更どうなるのだろう。

落葉ちゃんは誘拐され、

帰らぬ人となってしまったのだ。

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