第3話

当時、

私は両親と三人で稲置市に住んでいた。

稲置市は宿禰市の南に隣接していて、

さほど都会ではないが

喧騒と閑静が調和した住みやすい都市だった。


そしてその頃、

私には同じ幼稚園に通う

落葉ちゃんという仲の良い友達がいた。

家も近所で家族ぐるみで付き合いがあった。

彼女は私を「三ちゃん」と呼んでいた。

言い忘れていた。

私の名前は

三ノ宮結女(さんのみや ゆめ)

という。


ある夜、

私は悪夢にうなされた。

その夢は後に訪れた現実と相まってか、

成長した今でも朧気に覚えている。


悪夢は霧がかかったような

灰色の映像から始まった。

徐々に霧が晴れて視界が開けた。


それは昼下がりだった。

私の隣に落葉ちゃんがいた。

私達は並んで歩いていた。

いつもの幼稚園の帰り道だった。


突然、私達は見知らぬ大人に声をかけられた。


その大人は

足元から頭の天辺まで黒で覆われていた。

その顔は微笑んでいたが、

私はその笑顔に

言葉では言い表せない不気味さを感じた。


私とは対照的に

落葉ちゃんは楽しそうに

その黒い大人と会話を始めた。

二人が何を話しているのか私には聞こえなかった。

黒い大人は落葉ちゃんと話している間も

チラチラと私の方に視線を投げてきた。


どういう話の流れでそうなったのか。

その黒い大人が

私か落葉ちゃんのどちらか一人を

家まで送ってくれることになった。

そしてどうやってその選択がなされたのか。

気が付くと

車の窓越しに笑顔の落葉ちゃんが見えた。

窓の向こうで手を振る落葉ちゃんに

私は手を振り返したが

車はすぐに発進した。

落葉ちゃんと別れて

私は何故か大声で泣いていた。


そんな私の肩に大きな手が優しく触れた。

その手が私の体を揺すった。


私は目が覚めた。


そして先ほど私の体を揺すっていた手の持ち主が

母だとわかって、

私は泣きながら母の胸に飛び込んだ。

そして母に落葉ちゃんが知らない人と

遠くに行ってしまったことを告げた。

「怖い夢を見たのね」

そう言って母は私の頭を優しく撫でた。


そんな夢を見た翌日、

落葉ちゃんは

普段と変わらない姿を幼稚園に見せた。

私はあれは夢だったんだと安心し、

しばらくするとそんな夢を見たということすら

私は忘れてしまっていた。

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