第84話 というかお前だれ?

 首都テンダールの近くに野営を敷き、到着したその夜に軍議を開いた。

 何かいい案が出てくる事は一切ない。


 明日、一日かけて要塞を観察し、再び軍議を開くという事で解散した。



 ――次の日。


 「おいおい! ありゃあすげぇーなー!」

 昨日は分からなかったが、要塞の壁は何かでコーティングされているようで、太陽の光を反射する程テカり、さらに表面はツルツルしていた。


 ハシゴをかけたりする事も出来なそうで、一番攻めやすそうな場所は、太陽の光が反射するように工夫されていて、逆光のようになり、眩し過ぎて攻めるのが難しそうだった。


 他の場所を見ても弱点らしい弱点と呼べるような場所はなかった。

 レオンやロベルタのような巨大な魔法を放てるのであれば対抗出来るかもしれないが、俺達の軍でそれ程の使い手は存在しなかった。


 正攻法で攻めたとしても、機関銃や大砲に大勢がやられてしまうだろう。

 俺やシャオ、他何名かは中へと侵入出来るかもしれない。侵入し、少しずつ戦力を削っていき、好機が訪れるまで長期戦に持ち込んで戦う手段を取れるかもしれないが、この戦いにそんな時間はない。


 ジャンは焦っていた。

 食料が無くなれば撤退するしかないが、ロア王国に帰るまでの日数分の食料はすでにない。

 魔法国が追ってきたらきっと全滅する。


 「さーてと、ジャン……どうすんだ? こりゃあ厄介だな!」

 (……)


 「壁を全てぶっ飛ばせるほどの魔法があれば、話しは簡単なんだけどな!」


 一日ウロウロしたが、魔法国からの反応は一切なかった。

 守ってさえいればいい。そうすれば負けない。そういう戦略だろう。

 射程範囲に入ったらすぐに撃ち殺されるとは思うが。


 観察が終わり、軍議を開いた。

 天幕での空気は重苦しい……。


 完全に空気を読めないテディはいつも通りだが、他の皆は険しい顔をしている。

 ジャンもきっと同じ顔つきに違いない。


 「主様! あんなモノは今までに見た事がありません。知らない武器や攻撃が待ち受けていると思います。明日私達の部隊を突撃させて下さい。その時に受けた攻撃を参考にして戦略を立てて下さい」

 開口一番に口を開いたのはリリアだが、言っている事は自殺すると言っている様なものだ。


 「それは出来ない却下する」

 「でもさぁ旦那。実際どうするつもりなんだ? 単純に攻めても絶対に勝てないぜ?」


 「ジャン様、以前の戦いで使った穴を掘る方法はどうでしょうか?」

 「道具がない。時間がない。それにやってる事が完全にバレるから難しいよジェイド」


 「ルークやゲルテ伯爵が何でもいい。何か意見はないか?」

 「率直に言うと、分からないというのが感想です」

 「ジャン君本当に勝てると思ってるの? 僕はもう諦めたよ! ここで死ぬんだよ僕らは」


 悲観的な意見しか出てこず、一日経っても何も進展しない。

 「ジャン様! 緊急の連絡があります。入ってよろしいでしょうか?」

 「どうした? 入れ!」


 「魔法国からの使者と名乗る人物が来ているんですが、どうしましょうか?」

 「使者!? 何人で来ている!?」

 「たった一人です。武器も所持していません」


 「分かった。その使者をここまで連れて来い!」

 「はっ!」


 ――。

 使者を連れて戻ってきた。


 「失礼します。突然の訪問大変申し訳ないと思っています。しかし、魔法国総大将であられるナバーロ様が早急にロア王国の皆さんに伝えたい事があるようなので、私が使者としてやってきました」


 その使者は、服の内側から正方形の薄い板を取り出した。


 「この石版を机の上に置いて、魔力を注いでよろしいでしょうか? そうする事でナバーロ様と直接繋がり、本人と直接言葉を交わす事が出来ます」


 「やってもらって構わない」

 「ジャン様! 罠かもしれませんよ?」

 「いや、それはないから安心してくれ」


 「流石でございます。では始めます。皆様近くに寄って下さい」

 使者が板を置いて魔力を注ぎ始めると、ホログラムのように板の上に人間の映像が現れた。


 「やーやー! 初めましてロア王国の皆様。俺は魔法国総大将ナバーロだ。以後お見知りおきを」


 ナバーロと名乗る人物は見るからに若い。ジャンと同い年位だ。

 それで総大将を任されるとは、実力者なのだろう。

 雰囲気は飄々としていて、何だかチャラい。


 「大将のジャン子爵初めまして。部下のジェイドにリリア。シャオにエルガルドとテディ。それにルークとゲルテ。勢揃いだね」

 なるほど、こっちの情報は全て知っているという事か。


 「話とは一体、どんな内容なんだ?」

 「そう慌てないでよジャン子爵」

 映像の向こうのナバーロは、グラスに入った飲み物を一口飲んだ。


 「俺からの提案は一つ。君達さ撤退しない?」

 「「「「「!?!?!?!?」」」」」


 「正直君達の実力は分かってるからさ、はっきり言って首都は落とせないよ? ロア王国全軍が攻めてきたらそりゃあ厳しいけど、君達の戦力じゃあ破れないよ! 今日一日見ても攻略の糸口が見えてないんでしょ? それにそんな悠長な時間ないよね? 食料ないんでしょ?」


 (完全に勝てる。負けないと思ってるこいつを殺してぇ)


 「食料あげるから撤退してくれない? どう? 悪くない話だと思うけどな」


 (おいジャン! もしかして迷ってるのか?)

 (ユウタだって今日見ただろ? 勝てる戦略が思いつかないのにどうやって戦うんだよ! それならまだ全軍生き残って撤退した方がいい)


 (覚悟決めたんじゃないのかよ!)

 (だとしても……) 


 「君達が攻めて来ても俺達は構わない。それにここは魔法国。君達ってまだ俺達魔法国の魔法を見てないし、実力知らないよね? そんな情報不足な状態でも攻めて来るなら馬鹿だよ!!」


 ナバーロは言いたい放題だ。


 「おじょ! おじょ! おじょ!」

 スキップをして両手はキツネを作り、近づいてくる珍獣が。


 「オジョーーーーー!!」

 テディが大声を上げ、チョップで石版を叩き割った。


 「おぴょ??」


 「お前達は悪いやつだ! ドクターが困ってるじょ! あっちいけあっちいけ!」

 魔法国の使者をツンツンしながら追い出していくテディ。


 「ドクター! オイラが悪者を追い払ったのでおじゃる!」

 「テディ貴様! 何をしたか分かっているのか!? 話の途中だったのだぞ!」


 「あいつらの話なんか聞く必要ないピョン。それよりもドクター。いつもより困ってる顔してるのだ〜。オイラが相談に乗るよ? オイラが皆を助けるじょー!」

 

 つま先立ちでクルクル回りながらテディは話す。

 何を考えているのかさっぱり分からない。 


 「皆を助けるって言ったよねテディ……敵の壁テディは見た?」

 「みったよー! ツルツルピカピカで大きかったじょー!」


 「テディはあの壁、壊せるか?」

 「オイラに任せてケロケロケロー!」


 「壊せるって事か?」

 「そうでごじゃる!」


 皆がテディを凝視したが、全員が疑いの目を向けていた。

 俺もそうだった。


 確かにテディはやれる男だ。

 だが、強力なテディのゴーレムでも、壊すのは難しい事ぐらいは分かる。


 「じゃあドクターちょっと待つでおじゃる」

 両耳の穴に指を差し込むテディ。そして目を閉じると、首がカクンッと一瞬落ちた。


 テディはゆっくりと顔を上げて、ゆっくり目を開けていく。


「皆様初めまして! テディです!」

 右足を後ろに引き、右手は心臓に、左手は横方向に水平に出してまるで貴族のような挨拶をする珍獣。


 ちょっと……一体こいつは誰だ?

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