第85話 もう一人の人格
「お前……なんか変なもんでも食ったのか?」
「いえ違いますよシャオ。私は至って正常です」
見た目はテディのまんまだが、喋り方と雰囲気は別人だ。
違和感というか気持ち悪い。
「ドクター、私について説明させて頂きます」
「テディは二重人格なのです。私はテディのもう一つの人格です。今まで隠していて、申し訳ありませんでした」
ジャンと俺みたいなものか?
いや、どうだろうか?
「皆様も知っているとは思いますが、テディの魔法は中々強力でして、子供の頃はよく暴走を起こし、周りを破壊していました。そのせいもあってテディは恐れられ、迫害され、一人で生きていきました。その時に誕生したのが私という人格なのです」
「私はテディと一緒に生きていきました唯一の友達として。魔法の暴走が無くなれば、テディは人に受け入れられると思い、私はテディの魔法、その力の大半を封印しました……それでも受け入れられる事はありませんでしたが。テディの力はまだ全力ではありません」
「テディが全力を出したい場合、私の許可が必要なのです。テディは許可を求めて来ました。『仲間の為に戦いたいから全力を出したいと!』そして私は許可しました」
「私は感謝していますドクター。そして仲間達。受け入れてくれた事を! ドクターが困っている現状を破壊してあげましょう」
見た目がテディだからか、スラスラ意味のある発言をする事に違和感しかない。
いつものテディじゃない事だけは、はっきりと分かる。
テディはやっぱり面白い! アウル軍のお笑い担当なだけはある!
「一つ聞いてみてもいいかな? テディはどこで魔法を覚えたんだ?」
「……私にも分かりません。私という人格が生まれた時には、すでに魔法が使えていましたので」
「本当に信用して良いんだな?」
「勿論です! お任せ下さい!」
「分かった。部下を、隊長を、テディを信用しよう! ならやる事は決まった全員外へ出ろ!」
陣営のあちこちに火が灯され、全軍を集めた中央には大きなキャンプファイヤーが周りを照らす。
「皆グラスを持ったか?」
「「「「おおおおおおお!!」」」
「明日は死闘になる。だから英気を養え! 明日に備えろ! 暴れるだけ暴れろ! 明日の食べる食い物はない! 目の前にあるのが全てだ! テンダールから奪うぞ! カンパーイ!」
「「「カンパーイ!!」」」
宴が始まった。
ジャンは、残り少ない食料と酒を全て使い切った。
(ジャンいいのかよ! 後戻り一切出来ないぜ!?)
「もうこれでいい。生きて戻れるかもしれない。そんな逃げ道が残るから覚悟が出来ないんだ。父上が死んでユウタと戦った最初の戦い。あの時の気持ちだよ今は」
(クックック! まあいい! 明日やらなきゃ俺達は終わる! 最高じゃねえか!)
「頼んだよユウタ……」
(任せろ!)
「こんな事をしても良いんですか?」
「テディか……その姿でそんな喋り方だと違和感が凄いんだよ」
「申し訳ありませんドクター。ドクターも少しは楽しんだらどうですか? ずっと顔が張り詰めていますよ?」
「自分の力が足りない、不甲斐なさを反省しているんだよ……」
「何を反省する事が? ドクターはしっかり責任を果たしていますよ」
「ハハハ。テディにそんな事を言われるとは思わなかったな!」
「おーい! ヘンテコテディ! こっち来いよ! 呑むぞー!」
「私はこれで。ドクター、テディを頼みましたよ」
宴は夜更けまで続いた。
そして今、今度こそ引き返せない戦いが、ぶっ殺さないといけない一日が始まった。
「さてと、なんだか相手も随分待ち構えているな!」
「あれだけ昨日騒いだんです。今日攻撃するぞって言っている様なものですからね」
「分かってるよなテディ。お前を信用して全て任せたんだ! しくじるなよ!」
「ドクター達こそ、巻き込まれてもテディのせいにしないで下さいよ?」
馬から降りたテディは、一人前に進んでいく。
両手を地面につけた。
いつもゴーレムを生み出す時にテディがやる仕草だ。
しかし、今日はいつもと違った。
手の平だけではなく、全身が魔力で光り出し、土が、地面が動き始めて砂がテディを包み込んだ。
それがどんどん大きくなっていき、一体のゴーレムが出現した。
「ドクター! 私の一撃で開戦しますよ?」
喋った。
「それじゃあ始めましょう!」
テディの声がするゴーレムが両手を動かす。
ゴゴゴゴゴゴゴッ!
人間二人分の高さはある直径の玉が、何十個と地面から出現した。
手の平を上に向けると、巨大な玉が浮かんでいく。
手遊びで作る鉄砲を両手で作り、要塞に向けるテディ。
そして一言――。
「オジョーーーーー!!」
とんでもない速さで玉は要塞に飛んでいき、要塞にぶつかり弾け飛んだ。
「まだまだいきます」
同じように次々と玉を生み出し、要塞に向けて放った。
それだけの攻撃を放ったのにもかかわらず、要塞には少しのダメージしか与えられていない。
「へぇ〜。やりますね」
次に生み出したのは真っ黒の玉。土というより鉄の塊に見える。
その玉を再び要塞に飛ばすと、今度はしっかり壁にダメージを与えた。
徐にテディが、要塞に向かって走り出す。
ある一定の距離に入った途端、テディに向かってあらゆる攻撃が向けられた。
ドドドドドドドドドッ!
ドッカーンキーン!
大砲に機関銃。さらには魔法。
炎、水、氷、雷、風。一点集中でテディが狙われた。
どうなっているのかよく見えない。
「大丈夫か?」
攻撃が止み、攻撃を全て受けたテディの姿が見えた。
先の戦いでは、簡単に崩れてしまった攻撃だったが、なんと傷一つ付いていなかった。
「悪いけど、それじゃあ私には効きませんよ!!」
テディが手を地面に付けると、自分を中心に砂嵐が巻き起こり始めた。
少しずつその規模は大きくなり、砂嵐でテディと要塞が見えない程に。
俺達が入り込める余地は、一切なかった。
それよりも砂嵐が酷すぎて、何が起こっているのが分からない。
時間と共に砂嵐の勢いが弱まってくると、俺達軍勢の前に石橋が何本も現れた。
「こいつを辿っていけって事かテディ」
「おもしれぇー! 行くぞ!」
俺達はそれぞれ石橋を渡る。
石橋を渡っている最中に視界が開けていく。
薄っすらとテディの影や要塞が見えてくると、爆発音が鳴り始めた。
俺達ではなく、テディを狙い撃ちする音だ。
どうやら俺達の存在にはまだ、気付いていないようだった。
そしてとうとう、要塞の屋上に到達する。
ここまで来れば、存分に暴れる事が出来る。
「敵襲ー! 敵襲ー!」
やっと俺らに気付いたみたいだ。
「さあ、殺し合いをしようぜ!」
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