第82話 違和感

 「ちょっといいかい旦那」

 「シャオか? 入ってきて良いぞ」

 もう寝ようとしていたジャンの所に、シャオがやってきた。


 「アズーラ城の見張りが、今日は殆ど見当たらない。忍び込むならチャンスだぜ旦那」

 「なら今すぐ行こうか」


 作戦を実行してから九日が経過した。

 変わらず相手からは反応がなく、効果がないと感じていたが、やっと少しは効果が出てきたようだ。


 「シャオ。アズーラ城に入ったら出来るだけ城内の情報を集めてくれ」

 「りょうかい」

 「行くぞ」


 幸運にも今夜は月が空に出ていない。忍び込むには良い夜だ。

 シャオが見つけたという死角が多いルートを使うと、簡単にアズーラ城に到着し忍び込む事が出来た。


 「ここからは別行動だ。三十分後に再びここで」

 「りょうかい旦那」

 俺達は、二手に分かれてアズーラ城を探索する事に。


 自分達がやった事とはいえ、城内はとんでもない悪臭が漂っていた。

 臭過ぎて目が染みる程だ。


 それにしても人の気配が無さ過ぎる。

 だけど、所々で建物に灯りが付いているのを見ると、誰も居ない訳ではなさそうだ。


 「おいこっちだ! 早くしろ!」

 声が聞こえ、数人が走ってどこかへ向かっている。

 俺はそれが気になり、そいつらの後をついて行く。


 そいつらは、城内にある大きな建物に入っていった。

 俺は忍者のように無音でその建物に近づいていき、窓からそっと中を覗き込む。


 覗き込んだ部屋には、苦しみ悶えている人が大勢、横になって並べられていた。

 その人達に魔法を掛けている人や、看病している人が。


 他の窓から見た違う部屋も、そして近くにある他の建物も何軒か覗いたが、同じような状態だった。


 (もしかしてだけど、今この瞬間が、攻める最高のチャンスなんじゃないか?)

 (多分、いやユウタの言う通りだね)


 (さっさとシャオと合流して戻るか)

 誰にも気付かれないようにその場を離れ、シャオとの合流地点へと戻る。


 「ちょっと待たせちまったかな旦那」

 「今来た所だ。自軍に戻りながら報告頼むシャオ」

 


 「城内は異様な程、人が少ないと感じたよ。戦争をしているという気配がない。それだけじゃなくて、食料庫を見つけたんだが、殆ど食料がなくて尽きかけていた」

 「それは奇妙だな……俺はいくつかの建物を覗いたが、病人のような人で溢れかえっていたよ」


 「旦那の作戦通りって感じか?」

 「どうだろうな……城内を見て思ったのは、今が攻め時って事。戻ったらすぐに攻めるぞ!」

 「ゲッ! 忙しないねぇ〜ったく」


 「それじゃあシャオ。到着してすぐで悪いが、隊長共全員起こして俺のテントに来るように伝えてくれ」

 「はいはい」


 ――。


 「全員集まったな。早速だけど今から全軍でアズーラ城を攻める! 侵入して分かったけど、今が絶好のチャンスだ」


 「旦那の言う通りチャンスだよ。見張りの兵士もほとんどいなかったしな。ヒックヒック!」


 「静かに準備を始め、一時間後に全軍で攻める。テディのゴーレムで門を壊して場内へと突入する!」


 「「「「はっ!」」」」


 その場で解散し、それぞれ準備に取り掛かった。


 「なあジャン……レオンの親父がやられるような戦いだったのに、こんな簡単に攻め落とせそうなの違和感しかないんだが」

 (僕もそう思うよ)


 「とにかくいきゃあ、何が待っているか分かるか」

 奥歯に何かが挟まっているような、気持ち悪い違和感を感じたまま、俺は向かう。


 「ジャン様、全員集まりました」

 「ありがとうジェイド。それじゃあ始めようか」


 「俺達アウル軍が先頭を切る。ルークとゲルテ伯爵は、後を付いてきてくれ。行くぞ!」

 今宵のような闇夜には、アウル軍の黒い防具はよく馴染む。

 すぐに気付かれる事は、まずないだろう。


 警戒しながら進んだが、驚く程何もなく門の前まで到着した。

 「テディ頼む」


 「オジョー!!」

 テディが両手を地面に付けると、手と地面が光出す。


 ゴゴゴゴゴゴゴッ。

 いつもは三体のゴーレムを生み出すが、三体分の魔力を注いだゴーレムが出現。

 アズーラ城の城壁が、肩の高さまでの巨大なゴーレムを生み出した。


 「門を破壊してくれ!」

 「お任せマルマール!」


 テディが拳を握り、両手を上げると、連動してゴーレムも同じような動きをする。さらにジャンプし、拳を振り下ろす。


 ゴーレムもジャンプして、城壁に拳を振り下ろした。

 その一撃で、壁一面にヒビが入る。

 

 「ガジョーン!!」

 そして突っ張り、突っ張り、突っ張り!

 テディが何度も何度も突っ張りし、正面の壁を破壊する。


 「突撃するじょーー!!」

 最後に壁を蹴り飛ばし、正面の壁は完全に崩れた。


 「行くぞーー!!」

 「「「おおおおおお!!」」」


 全軍でアズーラ城内へと入り込んだ。

 魔法国兵士による抵抗をみせるかと思ったが、いとも簡単アズーラ城は落ちた。


 わざわざ気合を入れたのに、拍子抜けだ。



 「「「おおおおおお!」」」

 兵士達の雄叫びが上がる。


 夜は過ぎ、東の空が明るくなってきた。

 違和感が拭いきれないまま、アズーラ城を攻略した。  

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