第81話 クソ野郎共!!

 「おーいしっかりやれー!」

 「テディ! テメー! こっちに飛ばすんじゃねえよ! きったねぇーな!」

 「ハハハハハハ! 臭いんだじょー!」


 俺達は今、地面に埋められている大便などの大量の汚物を掘り起こしていた。

 「さっさと運べ!」


 「いやぁぁぁぁぁぁぁ! 汚いよー! 臭いよー!」

 ゲルテ伯爵軍には、馬を使わせて大量の汚物を運搬してもらっている。


 「ジャン子爵。そろそろお時間ですお願いします」

 「もうそんな時間か」


 掃き溜めから抜け出し、体を清めた俺は、テントへと向かいそのまま怪我人を治していく。


 ルーク隊には土を、粘土質の高い土をとことん掘って集めさせている。


 「きちーー!」

 (ユウタ代わろう。この程度の怪我なら僕の回復魔法でも治せる)

 「オーケー任せた」


 「やっと見つけたよ旦那〜。こんな所に居たのかい」

 「どう? アズーラ城に忍び込めそうな道筋はありそうだった?」


 「どうかねぇ〜。旦那が話していたような武器が、相手が持っているなら、今の所は難しいな……相手に隙が生まれて来ないと侵入は出来ないんじゃないか?」

 「シャオでそう感じるなら、やらせるだけ無駄って事か……分かった」


 「それとお相手さんは、朝・昼・夜と交代でずっと見張りをつけてる。人数を減らしたりしないし、ありゃあ多分担当でやらせてる。朝は朝担当。夜は夜担当って感じでな」

 「他にも何か分かった事があったら何でも報告してくれ」

 「りょーかい」


 怪我人を治している内に日が昇って朝になり、ジャンは力尽きた。

 俺は気合を入れ直し、ルークと共にテントを出ていく。


 食事も休憩も取らず、寝不足に肉体労働、さらに精神をすり減らす魔法を使った後に感じる朝日は骨身に染みる。

 それでもダルいという感覚はない。むしろ楽しみという感情が湧き立つ。


 さあ、戦争を始めよう。


 「主様! 指示された通り、死体を集めました」

 「ご苦労だったなリリア」


 「俺達もどうにか間に合ったよ旦那」

 「んっ? まさかシャオが酒飲んでないのか!?」

 「飲む暇が無かったんだよ」

 

 腰に手を置いて、反対の手で頭を掻くシャオ。

 酒臭くないシャオを見たのは、初めてかもしれない。


 「さてと! クソ野郎共も終わったか?」

 「クソ野郎って、ひでーよドクター! 俺達頑張ったんだぞ!」

 「うんち! うんち! うんちっち!」

 

 上半身裸で、汗と汚物が混ざった強烈な臭いを放っている奴らも合流。


 「今日から主役はお前だ! テディ! よろしく頼むぜ!」

 「オイラが主役!? うれぴっぴ! オイラに任せルンルンルン!」


 「ジャン君? あのテディって人、本当に大丈夫なの?」

 「テディはやる時はやる男だよ! 普段はおふざけ百%だけどあいつは強い!」

 「ジャン君がそう言うならいいけど……」


 皆が朝まで働き、今日から作戦を実行出来るまで漕ぎ着けた。

 全員が寝不足で、全員が疲れている。それでも俺達は戦う。


 「全員集まったな! 作戦を始める!」


 「テンダール魔法国の強さは、シャイデン軍にいた奴らは前から知ってるだろ。アウル軍もゲルテ軍も昨日の攻撃を見たから強さが分かるだろう! だが、勝つのは俺達だ!」


 「俺達アウル軍は、圧倒的に不利な戦いで何度も勝ってきた。しぶといクソ野郎共だ! だから信じて付いて来い! 勝たせてやるよ! そしてシャイデンの仇を討つぞ!」


 「ドクターカッコいいじょー!」


 「これが俺達のやり方だ! いくぞ野郎共!」

 「「「「おおおおおおおおおおおお!!!!」」」」


 「さ〜て始めるか。テディ!」

 「アイヤー」


 「オイラのなっまえーはテディ! オイラは主役で隊長! ドクターの為にやルンルン!」

 「頑張る頑張るうんちっちー! うんちっちー!」

 

 ゴゴゴゴゴゴゴッ。

 地面が揺れ動き、テディの魔法によってゴーレムが三体出現。


 「それじゃあ行くぽよ〜。シュピーン!」

 ゴーレムが山のように積み上げられた粘土質の砂を使って団子を作っていく。その団子を汚物に付ける。


 「そーれ!!」

 野球のボールのようにアズーラ城に投げつけた。

 

 「どんどんいくぽよ〜」

 「テディに続け!! 俺達もやるぞ!!」


 シャオ隊に作ってもらったカタパルトを使い、汚物玉をぶん投げる。

 腐ってきている死体も同じようにぶん投げて、トコトン嫌がらせをしていく。


 「アッハッハッハ! アッハッハッハ!」

 「お前らも笑ってやれ!」

 「「「アッハッハッハ!」」」


 (本当にこんな事で効果あるのか? この攻撃で人が死ぬ訳じゃないだろ?)

 (人は臭いでストレスを感じたりするものなんだ。そのストレスが命のやり取りでは致命的なミスに繋がったりする。ユウタが言っていたスナイパーって武器は、相当集中力が必要なはずでしょ? 地味な嫌がらせが、集中力を失くす事も大いにある)


 (それに、死体や汚物によって疫病や病気が発症したりする。日数が続けば続く程、地味に効いてくるよ)


 「なるほどなぁ。まだまだいくぞ〜!!」

 俺達の嫌がらせに対して、魔法国は何一つ反応を見せない。

 いや、まだ始めたばかりだ。効果が出るのはまだ先か……。


 風に流れて嗅いだ事もない臭いが、戦場を包んでいく。

 ただただ臭い。


 「「「アッハッハッハ!!」」」

 「「「アッハッハッハ!!」」」


 「オジョー! オジョー!」

 野球のように投げていた玉を、汚物にはつけず今度はボーリングの玉のようにアズーラ城に向けて転がす。


 ドッカーン! ドッカーン! 

 地面にまだ眠っている地雷が反応し、爆発が起こる。


 「凄いんだゲルゲール」

 「テディ! どんどんいけ!」

 「分かったノラ〜」


 最初に作戦を伝えた時、ゲルテ伯爵とルークはかなり引いていた。

 汚物を使う事もそうだったが、死体を冒涜するような行為に対して嫌悪感を示していた。


 考え方の違えはあれど、目指す目標が一つなのは変わりない。

 勝利。


 その為に必要な事だという事で、彼らは納得してくれた。

 俺達は、負ける事が許されない。

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