第65話 フォルテラ王国

 ミリア聖国を抜け、フォルテラ王国へと入った三人。

 ロア王国とは一切国交がない為にどんな国であるか不明な国。

 その国に入った瞬間、俺は懐かしさを感じ、三人は驚愕していた。


 ジャン達の話しによると、フォルテラ王国は他国に囲まれていて戦争が絶えないという。

 しかし、ロア王国のように大国ではない為、そもそも人が少ない。

 だから独自の進化を遂げた国なのだそう。


 魔法ではない。



 ブオーーーン!

 「おおおおお! 何だよあれ!」

 ルイス国王が騒ぐ。


 騒ぎたくなる気持ちも分からなくもない。

 三人が乗る馬車の横を車が通った。


 (スッゲー車じゃん!)

 (クルマ? それは何?)


 (機械と燃料で動く馬車って所だな)

 (あれは魔法ではないって事?)

 (違うだろうね。何台も通ったんだから一般的なんだろうよ)


 舗装された道の両脇には、街灯らしきものが置かれていてとにかく近代的だった。

 辿っていくと街らしき場所へと到着する。


 どう見ても軍人らしき人達に馬車の中を確認された。

 迷彩の服を着て、銃を持っていた。


 「よし! 通っていいぞ!」

 街へと入る。


 三人の乗った馬車は珍しいのか通る人、通る人に見られた。

 門番の人に聞いた宿屋へと向かう。


 馬車で来る人専用の宿屋なのだとか。

 そういえばフォルテラ王国に入ってから一度も馬車とすれ違わなかった。


 宿屋に着いてすぐに街へと繰り出した三人。

 こんな別世界の街、飛び出したくもなる。


 見るもの全てが新しい物で溢れていた。

 三人共全ての店を見るが如く物色する。


 ぐぅ〜。

 腹の虫が鳴る。


 「どこか食堂でも入ろうか」

 少し歩いた先に見えた食堂へと入る。


 席に座ると、店員にメニュー表を渡された。

 この世界に来て初めて渡されたメニュー表だった。


 「おいおい! ここに書いてある物を全部作れるって言うのか? それに聞いた事もない物ばかりだぞ」

 「これはこれで迷いますねぇ」


 「俺が代わりに全員分注文してやるよ!」

 「すいませ〜ん!」

 「はい」


 「カルボナーラとミートソース。後グラタンにサラダ。ピザも下さい! 最後にサバの味噌煮定食も」

 「わかりました」


 「ちょっと良いですか?」

 「はい?」


 「ここには冷蔵庫って物がありますか?」

 「冷蔵庫? 冷却箱の事ですか?」

 

 「それです! 見せてもらう事は出来ますか?」

 「えっ!? 多分大丈夫だと思いますけど」

 「お願いします」

 店員の後を付いて行き、厨房の方へと向かっていく。


 「料理長〜! お客さんが冷却箱見せてほしいって言うんですけど?」

 「あぁ!? なんだそれ! テキトーに見せてやれ」


 「いいみたいですよ」

 厨房の中へと入る。


 「これが冷却箱です」

 冷却箱……冷蔵庫だった。

 「これってどういう仕組でどう動いているんですか?」


 「そこまで知らないですけど、電気で動いてますよ」

 「電気!? 電気があるんですか!?」

 「えっ!? ええまあ」

 当たり前になってて俺は気が付かなったけど、冷静に辺りを見ると確かに電気が通っている。

 厨房は、魔法や日の灯りではない電気の明るさだった。


 「あんちゃん一体どっから来たんだ?」

 隣で鍋を振っていた料理人が話しかけてきた。


 「ロア王国からです」

 「そんな遠くから来たのかよ! ロア王国に電気はないのか?」

 

 「ないない」

 「そりゃあ冷却箱が珍しい訳だ」

 

 「冷却箱って一般的な家庭にも置いてありますか?」

 「全部の家にあるとまでは言わないが、あるんじゃねえか?」

 「なるほど。ありがとうございます」


 「トイレ借りてもいいですか?」

 「厨房を出て左に進むとありますよ」

 店のトイレに入る。水洗トイレだった。


 「ジャン。この国ヤバイぞ!」

 (やばいって?)


 「俺のいた世界の物に溢れてるよ。科学が発展し過ぎだよこの国」

 席に戻ると料理が並べられていた。


 サバの味噌煮定食を食べる。

 こんな物があるって事はどう考えても日本人だよな。

 味噌なんて物、日本人しか使わないよなきっと。


 食事を終えた俺達は宿へと戻る。


 (おいジャン! 明日この国の歴史を探ってくれ。俺と同じ世界、同じ国の奴が居たはずだ)

 (という事は、ユウタって今日見た物作れたりするの?)

 (無理だよ。作れる訳ない!)


 「ルイス、この街にもう一泊しないか? ちょっと調べたい事があるんだ」

 「そうしようか。私もその提案をしたかったんだ! 見て回りたい所が山のようにある」

 「私も同じで見て回りたい」


 「じゃあ明日はそれぞれ別行動をしよう」

 「そうだな」


 次の日三人は、夕方に宿屋に集合する事を決めそれぞれ別行動を取る。

 ジャンはこの国の歴史が分かる場所、街にある図書館へと向かった。


 「えっ!? 無料!?」

 「はい! 持ち出しは出来ませんが、見るのは無料です」

 「信じられない」


 街にある図書館は無料で入る事が出来て、無料で見る事が出来た。

 ロア王国では王都にしか図書館はないし、貴族の認められた人しか出入りが出来ない。


 「凄いな……この量」

 図書館というだけあっておびただしい数の本が置いてあった。


 フォルテラ王国の歴史について書かれた本を片っ端から抱えて机に座り本を読み漁る。


 200年程前、フォルテラ王国は滅亡する寸前だった。

 しかし、そんな王国を救う為に、神からの使いである人間十人が現れる。

 その者達が使う魔法、いや奇術はフォルテラ王国を豊かにした。


 『科学』というものだった。

 

 畑を豊かにし豊作になった。

 病人が減った。病気が治った。

 戦争にも勝った。

 人々の生活が劇的に変わった。


 十人の中から国王が誕生した。

 彼ら彼女らの力を使えば世界を征服出来たのかもしれない。

 しかし、その力は死ぬまで国民の豊かさに使われた。

 現在はその子孫が国政の中枢を担っており、『科学』を中心とした発展を遂げている。


 そのような内容が書かれていた。


 (今まで話す必要もないから話さなかったが、こんな国があるなら話さないといけない)

 (いつになく真剣だねユウタ)


 (とにかく黙って聞いてくれ。俺は馬鹿だったし馬鹿だからなんとなくしか話せない。話を聞いてその後はジャンが考えてくれ)

 (分かった……)


 俺は語り始めた。

 以前はどんな世界に居て、どんな世界だったのかを。

 そしてフォルテラ王国に現れたの地球人は、とてもつもなく頭がいい十人だったと。


 だとしたら考えられる可能性を全て話した。特に戦争になった場合の話を。

 銃があるという事は、車があるという事は戦車や大砲があるかもしれない。

 もっと言えば戦闘機まであるかもしれない話までした。


 「簡単に言うと、誰でも使える魔法みたいなものか」

 (そういう風に捉えた方が分かりやすいかもしれない)


 「誰でも使えるというのは、卑怯なんてものじゃないね」

 (それにきっと魔法を使えるやつもちゃんと居るんだろうしな)


 「前途多難だねルイス国王が目指している先は……」

 (こんな国が存在しているなんて思わなかったな)


 本を読み終えると宿屋へと戻ったジャン。

 二人は街を楽しんできたようで、沢山の荷物を抱えていた。


 「二人に話したいことがある」

 「ジャンが珍しいな! どうした? 面白い物でも見つかったのか?」

 「面白い物か……そうかも知れないねルイス」


 「実は今日図書館に行ってきたんだ。それでその時に――」

 ジャンは二人にこの歴史について、国について説明した。


 そして『科学』というものがどういったもので、どう凄いのか?

 という事も同時に説明していく。


 黙ってジャンの話を聞く二人。


 「そんなものがこの国に存在するっていうのか?」

 「目の前で見てないから分からない。でも二人もこの街を見て凄いと感じたんでしょ? この部屋の明るさも街の明るさも魔法じゃない。電気ってものらしいんだ」


 「一体どうなってるのか……」

 「詳しくは分からない。ただロア王国にはない技術を使われているのは確かだね」


 「もし戦う事になったとしたら、ロア王国は勝つ事が出来るのか?」

 ルイス国王が険しい顔をする。

 先程までの明るかった空気はなく、急に重たい空気へと変わってしまった。


 「あ〜おわり! おわり!」

 俺は手を叩く。


 「俺から話しといて悪いけど、考えるのやめようぜ! 新しい物がいっぱい! 飯も美味い! そんな国を旅するんだ。今は楽しもうぜ! どっちみち戦うのだって先の話だろ?」


 「なんか今日一日中図書館で本読んで考えて、ずっと頭使ってたから疲れちった。俺は寝る!」

 俺はベットへと潜り込む。


 考えたら考えた分だけ不安が出てくるものだ。

 そして勝手に相手を肥大化させてしまう。


 こういった時は、寝てしまうのが一番だ。

 俺は知っている。


 大丈夫……なんとかなる。

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