第66話 帝王との約束
フォルテラ王国の全てが新しい事だらけだった。
地球、日本に居た頃には特に気にした事もない物や技術が、この世界にあるだけでとんでもなく便利で生活を劇的に変え、国民の生活を豊かにしていた。
ルイス国王とレオンは特にフォルテラ王国の『科学』に興味を持ち、ロア王国に取り入れる事が出来ないか本気で考えていた。
フォルテラ王国の旅は三人にとっては身になる旅になった。
そして今、目的のトドル帝国への国境を越える。
街を経由し、大陸の最も東にある帝都に到着した。
「ここがトドル帝国の帝都か……」
「やっと着きましたね」
三人は巨大な門を下から見上げた。
ロア王国の王都よりも三倍以上あろうかという高さの門。
さらにジャンが言うには、魔力の気配も感じるという。
門を通り、街へと入る。
宿を取り一息つく。もう手慣れたものだった。
「明日は帝王ベルナーレに会いに行く。今日は疲れを癒やして全快で挑もう」
「何があるか分からないからね」
「最悪の事態が起こったら僕が二人を逃がすよ!」
「ハハハ。そうならないように気をつける」
三人は早めに就寝した。
朝起きると、帝王ベルナーレに会う支度を整える。
商人に扮装していた服ではなく、素顔のまま正装を着ていく。
ルイス国王は白く、レオンは青く、ジャンは黒い正装で街を歩くと目立った。
帝王ベルナーレが居る城まで行くのに、さらに三ヶ所の門を通った。
不思議に思った事は、帝王ベルナーレからもらった手紙を見せると簡単に通る事が出来たことだった。
本物であるかどうか確認する術が何かあるのかもしれない。
城に到着し、何十人の兵達に囲まれながら城の中を案内されていく。
(いつでも動けるように、いざという時は頼むよユウタ)
(了解した。それよりも警戒されすぎじゃね?)
そんな状態にもかかわらず、ルイス国王とレオンは、動じない
「こちらへどうぞ」
巨大な扉を大人四人の力によって開くと、謁見の間に通された。
正面に見える階段を上がった先に、大きなクッションのような物に寝転んだ人物がキセルを吸いながらこちらを見ていた。
周りには屈強そうな兵が何十人と配置されていた。
「入ってよいぞい」
その言葉に反応し、三人は中へと入っていく。
部屋の中央辺りになるとルイス国王が立ち止まり、言葉を発した。
「お初にお目にかかります帝王ベルナーレ。私がロア王国、現国王のルイスである」
部屋中に響き渡るような声を出す。
「朕が帝王ベルナーレ本人だと何故思った? 偽物かも知れないぞ?」
横になっていた体勢からあぐらに変わる。
「はっきり言うと、勘ですよ勘! ただどうみてもあなたの纏う雰囲気は、帝王と呼ばれるのに相応しいとそう感じただけです」
「へぇ〜。兵士達よ! こやつらを捕えよ!」
周りの兵士達が、武器を取り出して武器を構えた。
俺はダガーを手に取り、ルイス国王を庇うように前に出る。
レオンはルイス国王の背中側に立った。
「ハハハ! 凄いな! ルイス国王よ! たった三人でロア王国からここまで来たのか?」
「そうです! 私が信頼する最高戦力です。刃を交えない方がいいですよ?」
「ほほう。朕が一言命令すれば、三人ならすぐに殺せるぞい」
「遠路はるばるから来た三人の客人を、賢王と名高い帝王ベルナーレが、話も聞かずに殺すとは私には到底思えない」
「ハハハハハハ!」
太モモをバシバシ叩きながら大笑いをする。
「矛を収めよ。ルイス国王よ失礼したぞい。朕が帝王ベルナーレである! よくぞここまで参られた。歓迎しよう! 食事と酒の用意をせい」
「はっ」
「では客人達、朕に付いて来るぞい」
帝王ベルナーレが立ち上がり、歩き始める。
付いて行った先は、城の屋上のような場所だった。
中央にはテーブルと椅子が並べられ、何人もの侍女が横で待機していた。
「好きな所にすってよいぞい」
席に座ると、向かいに帝王ベルナーレが座った。
「まさか三人で来るとは思わなかったぞい!」
グラスに飲み物が注がれる。
「ではまずは乾杯しよう」
四人は乾杯する。少しすると次々と食事が運ばれてくる。
食べ切れない程の量がテーブルに並べられた。
「さあ、存分に食事を堪能してくれ!」
俺は早速、食事を口へと運ぶ。
う、うめぇ〜!
口いっぱいに頬張った。
その姿を確認したルイス国王とレオンは、食事を始めた。
(ユウタ、体に異常ない? 大丈夫?)
(体?? 全然平気だよ! とにかく美味いぜ)
(なら良かったよ!)
(なんかあるのか?)
(毒だよ……毒が盛られているんじゃないかと思ってね)
「食事は美味しいかい?」
ベルナーレに俺は聞かれた。
「最高に美味しいですよ! 旅の途中で色々食べて来ましたが、一番美味い!」
俺は頬張りながら喋った。
「ジャン。はしたないですよ! 落ち着いたらどうですか?」
「なんだようるせーなレオン! いいだろ別に!」
目の前にいるベルナーレはニコニコしながら俺達の事を見つめていた。
その眼は他人を見透かしているような漆黒で、何を考えているのか全く読めない。
爪は長く、食器などが持てないからか、侍女に食べさせてもらっている。
食事を堪能し、腹が膨れてきた頃。
「お前達はそろそろ下がれ!」
「かしこまりました」
周りに居た侍女達全員を下げた。
この場の屋上に居るのは、四人だけに。
「それでこの手紙の意味はどういった事なのでしょうか?」
ルイス国王は、帝王ベルナーレにもらった手紙を本人に見せる。
「特に深い意味はないぞい! 本当にお主と話をしてみたかっただけぞい。ここトドル帝国まで噂が広がっていた。ロア王国に神童が生まれたと。全く縁もゆかりも無いが、どんな小僧か見たくなっただけぞい。正直本当に来るとは思わなかったぞい」
「私もトドル帝国からこういった手紙が来るとは想像もしてなかったです」
「朕の国、トドル帝国がどうじゃ?」
「すげーいい国だよ!」
「ほほう。どこがだぞい?」
「村や街に泊まって帝都まで来たが、人々が楽しそうにしていた。贅沢な暮らしを全員が出来てるとは思わないが、心は全員豊かだと俺は思ったよ! よっぽどこの国の王が凄い奴なんだと俺は感じたよ」
率直に俺は感想を言った。
「お主のロア王国は豊かではないと?」
質問を投げかけられた。
「豊かですよ! ただロア王国は常に他国との争いが起こる国だ。つい最近だって大きな戦争が起きた。毎日毎日ずっと安心して暮らせるか? と言われら暮らせねぇ」
「なるほど、なるほど。フフフフッハッハッハ!」
何がそんなにツボったのかテーブルをバシバシと叩きながら笑う帝王ベルナーレ。
「ルイス国王に聞きたいぞい! お主はどんな国を、どんな未来を描いてるのじゃ?」
ルイス国王は、真っ直ぐベルナーレを見つめ、強い口調で話し出す。
「帝王ベルナーレ、私はロア王国が、この大陸全土が平和で安心して暮らせる世の中を創造したいと思っています!」
「どうやって? 言葉だけならなんとでも言えるぞい。子供にだってな! でも現実は違う。生きてきた過程も文化も、宗教や考え方、教育まで違う世の中でどうやるんだ?」
ベルナーレの雰囲気が変わった。強敵を目の前にしているかのような重圧がかかる。
「法を元にした世の中を作ります! 王族も貴族も関係ない! 法が絶対の世の中を作り出し、平等の世の中を新たに作り出し、教育を施し、長い時間をかけて新しい世の中を作り出します」
「王様が、国のトップがその法を破ったらどうするんだぞい?」
「罰則を与えます」
「それは、処刑まで含まれるのか?」
「勿論です」
「中央政府、つまり政治に関しては民衆の投票を集い、その結果で代表者を選んでいきます!」
(凄えな……この世界でそんな事を考えられるのかよ)
「平民でも代表になれる制度を作ります。その為に教育にも力を入れていき、全ての人間にチャンスと競争力を! そして相乗効果で国を豊かにしていきたいと考えています」
「その考えだとルイス国王、お主自身が平民に成り下がってもいいと言っているようなものだぞい! それでもいいのか?」
「私自身が無能で、国民から支持がなければ、甘んじて平民になる事も受け入れます!」
「甘い! 甘すぎるぞい! でも悪くない!」
帝王ベルナーレが両手を開き、こちらに見せてきた。
「十年だぞい! 十年以内にロア王国が他の国を取り込み、考えも熱意も変わらず、このトドル帝国までやってきた時は、朕はお主にこの大陸全土の舵を取らせる事を約束するぞい!」
(すごい……)
(ん? 俺にはイマイチなんだが、どういう事だ?)
(帝王ベルナーレはルイス国王が大陸統一を目指している事を察して、さらにトドル帝国までやってきた時は無条件で降伏する約束を、口頭だけど今ここで約束したんだよ)
(そんな簡単に言っていい事じゃないよな?)
(勿論だよ……)
「ありがとうございます」
「朕は病気での〜。十年程しか持たないぞい! 朕の次に帝王になるのは、どうにもならないバカ者でな、そやつが帝王になったらきっと国が混乱し下手をしたら滅ぶ。その前にその野望を成し遂げてはくれまいか?」
「全力を尽くします!」
「さてと、そろそろ中へ入るぞい! お主ら今日は城に泊まっていくといい。明日朕達が送ってやるぞい」
「ありがとうございます。ですが宿屋を取ってありますし、馬車も置いてきているので、一度戻ってもいいでしょうか?」
「心配せずとも、宿屋には話を通して馬車も城に移動させてあるぞい。お主らの荷物も全て持ってきておるぞい」
「それはそれは」
(帝都に入ってきてから気付いていたって事? 魔法の類か?)
(さあな)
「それじゃあ部屋に案内させるぞい。ゆっくりするといい」
「ありがとうございます」
「では御三方、部屋にご案内致します」
豪華で広い部屋に案内された。
「私は外に居ますので、何かあれば仰って下さい」
部屋にあるソファに座る。
「ふぅ〜。疲れたな!!」
ルイス国王が天井を見上げた。
「ジャン、あたには肝を冷やしましたよ」
「えっ!? なんで!?」
「なんで!? って王同士の会話に臣下が勝手に話すなんて許されるものじゃない! 機嫌を損ねたりしたら本当に殺されていたかも知れない」
「大丈夫だったからいいでしょ!」
「あなたは本当に……突然驚くような行動をしますよね。それはそうと、ベルナーレ帝王が口約束とは言え、あのような事を言い出すとは思わなかった」
「私も驚いた。だけど、十年か……」
「期間が短すぎる」
「逆なんじゃないか? 期間があるなら思い切れる! 後回しにしなくていい! それに戦争の期間は短ければ短いほどいいんじゃないか?」
「ジャンの言う通りだな! やる切るしかない! 国に戻ったらやる事がいっぱいだよ」
「私もですよ」
三人はその後、城内にある巨大な風呂に入って体と心を癒やしマッサージまで受けてそのまま眠りについた。
次の日の朝。
「ベルナーレ帝王、またお会いしましょう」
「面白いものを見せてやるぞい! トドル帝国の魔法使いを使ってお主らをロア王国まで送ってやるぞい!」
ゾロゾロと杖を持った人達が、ざっと三十人程現れた。
そして全員が一斉に呪文を唱え始めると、突然地面が光り出し、魔法陣が出現する。
「これは一体??」
「心配しなくてもよいぞい! 久々に志高い良き若者に出会えたお礼だぞい」
「最後に聞きたいことが!」
「なんじゃ?」
「何故あの位の発言で私を、私達を信用してくれたんですか?」
「朕は魔力を可視化して見る事が出来る。その魔力を視ることで相手が奥底でどんな事を考え、どんな人物なのか分かるのだ。お主らは眩しい程真っ直ぐで透き通っていたぞい。今まで視てきた誰よりも! その魔力と若さに朕は託そうと思ったまで。ルイス国王よ、再び会える事を楽しみに待っておるぞ」
――。
白い光に包まれ、目の前が真っ白に。
気が付くと、ロア王国の王都の前に到着していた。
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