第64話 ルイス国王からの要望

 ミリア聖国を横断する為に、三人は馬車を走らせていた。

 「穏やかだね〜」

 「寝転んでないで、交代してよルイス」

 「しょうがない代わるよジャン」


 「先の大戦……二人はどうだった?」

 「どうだったと言われても、私は父上の補佐をしていただけですからね」


 「シャイデンの戦いぶりはどうだった?」

 「……」

 

 「正直言って驚いた……父上のあんな姿を見たのは初めてで……」


 (レオンの父親ってあの女みたいな人だろ? 強いのか?)

 (強い……とは思うよ。でも武勇って意味だとバルナ侯爵やアウグスト辺境伯の方が話を聞くけどね。それにシャイデン侯爵は内政を司っているからあまり戦いには出たりしないんだよ)


 「父上はいつも冷静で紳士。何があっても動揺すらしないような人で……今までにも戦っている姿を見たことがあったけど、自ら戦う姿を見たことがなかった。でも今回の戦いでは、自ら率先して先頭に立ち、野獣のような姿で敵を殲滅していた」


 「シャイデンが、ロア王国で最も野蛮な貴族っていう噂は本当のようだな」

 「?????」

 「あれ? レオンは知らないのか?」


 「シャイデンは若い頃、クロウ家に生まれたことに反発してかなり悪い事をしていたって噂だからな。相当暴れ回っていたらしい」

 「父上にそんな過去が……今の姿からは想像が出来ない……」


 「あのロベルタの父上バルナが、一番喧嘩したくない相手って言っていた程だからな」


 (シャイデン様にそんな裏の姿があったのか)

 (目の前でその戦う姿見てみたいな!)

 (魔法が得意な人だから、見たことがない戦い方かもね)


 「そのシャイデンの姿を見た上で聞くが、レオンはシャイデンを超えることが出来るか?」

 その質問にレオンは、目を見開いてルイス国王見た後、下を向く。


 「ハハハ! 簡単に言うなよルイス! 実際に見てもないくせに! 父上を超えられるかって!? 超えようと努力しているのに突然あんな実力を見せられたんだ。追い付けるかもと思った背中があっという間に見えなくなったよ」

 レオンは力強く握った拳をゆっくりと開き、開いた手のひらを眺めている。


 「それでも言うが、超えろ!」

 「……」



 「話は変わるけど、今日はどこまで行くんだ?」

 ジャンが話題を変えた。


 「昼頃には街に着くはずだ。今日はそこで一泊しようと思っている」

 「なら街の散策も出来そうだね。せっかくだし三人で街に繰り出そうよ」

 「そうだな! そうしよう! ハッ!」

 掛け声と共に、馬車の速度を上げていく。


 ミリア聖国に入ってから一番大きな街に到着する。

 宿屋を見つけ馬達を休ませると、三人は街の散策をしに行った。


 街の中央にある大きな市場を散策する。

 その場所には、ダラムや王都ではあまり見かけない物や食材が沢山売られていた。

 店を一通り回った後、屋台で食事を取った三人。


 食べ終えた後は宿屋に戻り、部屋でゆっくり時間を過ごす。

 談笑をしている間に日が沈んでいき、夜になった。


 「ふぁ〜あ。明日も早いし寝るとするか」

 「そうだね」

 「「「おやすみ」」」


 意識が遠くなっていく。

 「ジャン! ジャン! 起きてください!」

 小声で名前を呼ばれ、目を開けるとレオンの姿が。


 「申し訳ないけどちょっと付き合って」

 「眠いんだけど……」

 「頼む!!」

 腕を引かれ、俺は宿屋の庭にまで連れて行かれた。


 「一体どうしたんだよ」

 「私に剣の稽古をつけてほしい!」


 「剣の稽古!? なんで急に!? 一体どうして!?」

 「ルイスに……ルイス国王に言われでしょう? 父上を超えろと!」

 「それがどうしたんだ?」


 「父上の戦いは本当に凄まじかったんだ。鬼神の如き強さで、一人で大軍の中に飛び込んで行き、魔法と剣そして体術を使って敵を葬り去っていたんだ……それだけじゃない! ちゃんと戦術も組み立て自らが劣りとなって相手を誘い込み殲滅していたんだ。味方だったら頼もしく、相手だったらゾッとする程の強さだった」

 

 こんなレオンを俺は初めて見た。

 スカしたいけ好かない奴かと思っていたが、そうでもないらしい。


 「あの父上をルイスは超えろと言った。とてもじゃないが普通に努力していては追い付けない。だからジャンに稽古をつけてもらいたいと」

 

 「なんで俺!?」

 「ジャンの急成長は尋常じゃないからだよ。何があったのかは知らないけど、正直言って別人かと思う位だよ! そんなジャンからなら、成長のキッカケがもらえるんじゃないかと思ってね! 悪いけど付き合って欲しい」


 (あのレオンが僕にアドバイス!?)

 (そんな驚く事なのか?)

 (そりゃあもう! 幼い時から頭脳も魔法も天才と呼ばれていたから)


 「それでもなんで剣なんだ? お前が得意なのは魔法だろう?」

 「魔法は得意だが、父上のように大軍に飛び込んで立ち回れるほど接近戦に強くないからだ。父上のように自らが先頭に立ち、軍全体の士気を上げられるような実力が私は欲しい」


 「レオンって頭いいくせして馬鹿だな」

 「い、今私の事を馬鹿って言いましたか!?」

 「ああ言ったぞ! お前馬鹿だろ」


 「父親の真似したってあくまで真似でしかない。超えられないだろ!? 本当に超えたいんなら逆だろ? 魔法を極めろよ!!」

 「魔法を極めるって言ってもどうすれば……」


 「接近戦にも対応出来る魔法を取得して、さらに大軍を一撃で殲滅出来るような魔法を覚えろよ! 戦いも楽になるし士気も上がるぜ!?」


 「そんな魔法あったら苦労しませんよ!」

 「はぁ〜。だったらお前が! レオンが創れよ! そういった魔法を新たに!」


 「私が!? 魔法を創る!?」

 「そうだよ! そうすれば父親を超えられる! 新しい魔法なんだ。相手からは脅威以外の何者でもない。味方だったら最高の大将だろうよ」


 「……魔法を新たに創る。そんな発想全くありませんでした」

 「想像も出来ないが、レオンならやれそうな気がするぜ俺は。お前がこんな魔法があったら最高だなって魔法を創っちゃえよ」


 「なるほどなるほど! やはりジャン、あなたに話して正解でした。部屋に戻りましょうか」

 「よっと。それじゃあ戻ろうか!」

 部屋に戻る途中、レオンは一人でぶつぶつ、ぶつぶつ何かをずっと呟いていた。


 (新しい魔法か。そんな発想浮かびもしないよ! 流石だねユウタ)

 (別に……思ったことを言っただけだよ)

 (なるほどね)


 部屋に戻った二人は眠りにつく。





 翌日、朝早くに街を出発した。

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