第11話 再び戦へ
「落ち着きなよグロッセ」
ジャンはそう言って水の入ったコップをグロッセに手渡すと、一気に飲み干すグロッセ。
「それで何があったの? もしかしてダル公国はこっちに向かって来てるとか?」
「ダル公国は引き上げて行きました……やったっす……俺達は勝ちました!」
「「「「おおおおおおおおおおおお!!」」」」
歓声が上がった。
(やったなジャン!)
(ユウタのおかげだよ)
(いやここにいる全員のおかげだろ)
(そういう事だね)
「ジャン様やりましたね」
「やっと一息つけるよ」
ジャンの意識がフラッとなくなった。
「ジャン様!? 大丈夫ですか?」
ジェイドに抱えられた。
「大丈夫だ。怪我した奴連れてこい。俺の回復魔法で治すから」
戦いで怪我した人を回復魔法で癒やし、その後は全員で水浴びをして体中の汚れをとった。
部屋に戻った俺は、倒れ込むようにベットに横になり、泥のように眠りについた。
意識が目覚めると、椅子に座って何やら書類を整理していた。
(どの位時間が経った?)
「もう夕方になるよ」
(ジャンは今何してんの?)
「戦いの後始末……戦いと言っても書類とかあるんだよ。ダル公国との戦闘で勝利した事を王都に早馬で知らせたりね」
コンコンコンッとドアをノックする音が。
「ジェイドです」
「入っていいよ」
「失礼します」
「どうしたの?」
「最終的な報告をしにきました。今回の戦いでの負傷者は0、死者数は62名です。奇跡的な大勝利と言ってもいい戦果だと思います」
「そっかぁ……」
「ありがとうジェイド。下がっていいよ」
「はっ!」
(奇跡的な大勝利だってよ良かったな!)
「そうだね。今は勝利の美酒に酔っておこう」
(なにそれダサッ!)
「ダサいかな? カッコいいと思ったんだけど」
(いや〜、言わないほうがいいと思うよ)
「ハハハ。じゃあ言うのやめておくよ」
バタンッ。
「お兄様ーー! 遊ぼーー!」
突然妹のエミリが部屋に押しかけてきて、一緒に遊ぶことになり、その後もずっと離れることがなく、寝る時まで一日中一緒だった。
翌日。
エミリがジャンを屋敷から連れ出し、外へと出かけてた。
「お兄様とこうやって外に出掛けるなんて久しぶり」
「そうだね。学校があったからダラムへ帰ってくる事もなかったしね」
「これからはお兄様はここにずっといるんでしょ? 私とずっと一緒でしょ?」
「勿論だよ! 僕はずっといるよ」
「約束だよ?」
「約束するよ」
その瞬間、左側のおでこに何やら重い衝撃が走り、血が流れた。
「お前のせいだ! お前のせいで父ちゃんが死んだんだ!」
泣きながらそう叫ぶ子供の姿が数人。
「「お前のせいだ! お前のせいだ!」」
そう言いながらジャンに向かって石を投げてくる。
「やめてーーーーーーーー!!」
エミリがジャンの前に立ち塞がる。
大きな石がエミリに当たりそうになり、ジャンはエミリを庇った。
「領主様申し訳ありません!!!!!」
石を投げた子供を抱きかかえる女性の姿が。
「子供がした事です。許して下さい! 罰するなら私を罰して下さい。この子だけは」
涙ながらにジャンに訴えている。
ジャンは立ち上がって、子供と母親の元に近づいていく。
「僕の母親は妹を産んですぐに亡くなった。僕の父親は最近起こった戦いのせいで亡くなった。それでもなんで戦うのか? 戦わなかったら、ここにいる全員が殺されてしまうから。君も僕も隣にいる友達も、君のお母さんだって全員ね。君のお父さんは君達家族を守る為に立派に戦ってくれた。だから今日僕達は生きる事が出来ています」
「君にはまだお母さんがいる。君は男なんだ強くなってお母さんを守るんだ。いいね?」
ジャンは石をぶつけられた子供に優しい口調でそう言った。
「エミリ、帰ろうか?」
「うん」
ジャンはエミリの手を引いて屋敷へと戻る。
それから数日が経ち、早馬で手届いた。
(ジャン、中身はなんて書いてあるんだ?)
「簡単に言うと近くの貴族と一緒になって軍を動かし、城を落としてくれって」
(へぇ〜。また戦争しろってか)
「そうだね……とりあえず会議をしないと」
ジャンのいる部屋に分隊長全員を招集した。
「先程手紙が届けられて命令が下った。ドガル子爵の軍に加わって一緒になってダル公国にあるバーリ城を攻め落として欲しいとの内容だった」
「ゲッ! ドガル子爵っすか!?」
グロッセが身を乗り出してそう発した。
「ああ……そうだ」
(なんだ? なんだ? そのドガル子爵ってどんな奴なんだ?)
(権力と地位、お金と女が好きな典型的な嫌な貴族だよ。戦が得意とか強いとかも聞いた事もない。部下が優秀というのは噂で聞いたことはあるけど……)
(そんな奴の下に付いて戦うとか罰ゲームじゃん! 絶対ヤバいよ)
(それでも……命令には背く事は出来ない)
「あまりいい噂を聞かない貴族ですね……」
「ドガル〜! ドガル〜!」
テディは何がそんなに楽しいのか分からないが、笑いながら踊っている。
「ジェイドの言う通り、あまりいい噂を聞かない貴族なんだよ。だから今回のバーリ城攻略戦では、僕達の軍は無理難題や、戦闘が激しい場所に配置されるかもしれない。そうなっても対処できるように動いていこうと思う」
「どうされるつもりなんですか??」
ジェイドがそう言うと、皆の視線がジャンに集まる。
「グロッセはドガル子爵について、仕えている部下について出来るだけ調べてもらえるか?」
「お任せあれ!!」
「エルガルドは元々は山賊なんだ、忍び込むのも得意だろう?」
「まあ苦手じゃねえよ?」
「好きな人数連れて先にバーリ城に潜り込んできてくれるか? いつでも城の門を開けられるようになっていて欲しいんだ」
「なんだそんな事かドクター。俺に任せろ」
「何日あれば実行出来る?」
「バーリ城には何度か行ったことがある。なんとなく場所も把握してる。七日あればドクターの望みに応えられると思うぜ」
「分かった。エルガルド頼んだぞ」
「へいっさ!!」
「ドクター! ドクター! オイラは〜? オイラは何をすればいいのだ?」
「テディは僕と一緒にお留守番だよ」
「分かったのだ〜」
会議から四日後、ドガル子爵が三千人の兵を連れてダラムに現れた。
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