第12話 ドガル子爵と可憐な女騎士

 「お待ちしておりましたドガル子爵」

 「ダル公国との戦闘で、大活躍したとお聞きしましたよジャン男爵」


 「いえ、たまたま運が良かっただけですよ」

 「それだけでダル公国の大軍と戦い、リー将軍を討ち取るなんて出来ませんよ。流石は三傑といった所でしょうか」


 「お褒めの言葉ありがとうございます。今回のバーリ城攻略はよろしくお願いします」

 「こちらこそよろしく頼みますよ」

 ジャンとドガル子爵は軽く挨拶を交わした。


 ドガル子爵はこれから戦いに行くというのに派手な服を着て、指や首には宝石をジャラジャラと身に着け、下品極まりない格好をしていた。


 (すっげ〜成金貴族だなこいつ!!)

 (替わった時に、そんな事を思っても本人の前とかで発言しないでよ)

 (一応気をつけておくよ)


 馬に乗ったドガル子爵の隣には、可憐な姿をした女騎士の存在が。

 グロッセの調べた所によると、彼女がドガル子爵軍の戦果の全てを担ってきたという。

 かなり優秀らしく、ドガル子爵からかなり重宝されているのだとか。


 ただ、今回の総指揮はドガル子爵が行うので、バーリ城攻略はかなり厳しくなるとジャンは予想していた。


 「ではアウル軍は、我が軍の後を付いてきて下さい」

 「分かりました」

 ドガル子爵は軍を進め、アウル軍もその後を続いていった。


 (ジャン。あのドガル子爵が軍を動かして勝てるのか?)

 「このまま普通に戦ったら無理だと思う」


 (えっ!?)

 「ドガル子爵がもっと兵を連れてくると僕は思っていたんだ。でも連れてきたのはたったの三千、何か良い作戦か奇策がないとバーリ城は落とせないと思う」


 (じゃあどうすんの?)

 「隣にいた女騎士居たでしょ。彼女がドガル子爵に何か進言してくれれば、もしくは何か考えてるのか? 今はバーリ城を目指す事しかないね。着いたら作戦会議があるだろうからその時分かると思う」


 (もし何も考えてなかったらどうするの?)

 「だからエルガルドを先に行かせたんだ。それでも最悪な状況になったら撤退しかないね」


 (めちゃくちゃ不安しかないじゃんこの戦)

 「そうだね……」


 「ジャン様。考え事ですか? 先程から独り言が多いもので」

 「大丈夫だよジェイド。問題ない」

 「なら良いのですが……」


 「ジャン様! ジャン様! 新しい情報が」

 「グロッセどうした?」


 「ドガル子爵の女騎士なんすけど、名前はリリア。女性なのに軍に入り、戦で活躍した事で今の地位に昇ったそうです」


 「……」

 (へぇ〜あの綺麗な姉ちゃん結構凄いんだな)

 「他に何か分かったことは?」


 「優秀なので他の貴族から引き抜きの話もよくあるとか。なのにドガル子爵にずっと仕えているのには理由があって、妹と弟がいるそうなんすけど、その妹と弟は戦の中で体の一部を失くし、体も弱く、ドガル子爵の治める領地から離れる事が出来ないみたいっす」


 「なるほど……グロッセありがとう」

 「はい!」


 (ドガル子爵の事を尊敬しているとか、恩を感じているとかそういった事はなさそうだね。リリア隊長にそんな事情があるなら絶対に帰らないといけないと思っているだろうね)


 (ジャン……お前何考えてんだ?)

 (いや、何も。とにかくこの戦い、出来るだけ負傷者を抑えたいって思ってるだけだよ)


 数日進軍すると、大きな壁に覆われたバーリ城が見えてきた。


 「ジェイド様、今伝令が来まして、この辺りで陣を敷き、夜に軍議を行った後、明日から攻略を始めるとの事です」

 「分かった。ジェイドは僕と一緒に軍議に参加してほしい」

 「分かりました」


 アウル軍とドガル軍は陣を敷いて一息つく。

 ドガル子爵から食事を配給してくれるのだが、それがあまりにも酷いものだった。

 内容もだが、量も全く足りなかった。


 ジャンがこうなる事を見越してか、アウル軍の蓄えから兵糧を持ってきていた。


 (なあジャン、軍の食事ってこんな不味いし少ないのか?)

 「基本的に保存食だから、こんなものだよ、量が多くなるか少ないかの違いしか無いよ」


 (囚人だってもっと良い物を一日三食食べてるぞ)


 「ドクター! ドクター! オイラ腹減ったよ〜! もっと食べたいよ〜!」

 「我慢してくれテディ。あの城を攻略したらきっと凄いご馳走が出てくるよ」


 「ドクターそれホント??」

 「本当だともテディ。だから頑張ろう」

 「分かったよオイラ頑張る!」


 (こんな雰囲気のままで平気なのか?)

 (あまり長引くとまずいかもしれない……)


 「ジャン様、ドガル子爵から軍議を行うから来てくれとの事です」

 「分かった。ジェイド一緒に来てくれ」

 「お供します」


 ドガル軍陣営に行き、一際目立つ大きなテントへと目指し、中へと入った。

 「おおお、ジャン男爵待っておったぞ」


 ドガル子爵はすでに酒を飲んでいるようで、手にはワイングラスを持ち、頬が赤い。

 座っている隣には女をはべらしていた。


 (なんだこのクソ野郎は! やる気なさすぎだろ……)


 「ドガル子爵、明日から攻略を始めるとの事ですが、我々は何をするのでしょうか?」

 「そうそう、おいリリア! 説明してあげなさい」

 「はい!」


 例の女騎士が説明を始める。

 「アウル軍はバーリ城の北門側から攻めてもらいたい。我々ドガルは南門から攻めます」


 「……」

 「それだけですか?」


 「はい、それだけです。攻め方に関してはそちらのやり方で好きににやってもらって構いません」

 「でも手柄は私に頂戴ね、ジャン男爵。リリアが上手いことやってくれるから、アウル軍は北門で出来るだけ敵を引き付けてくれればいいから」


 (おいおいマジかこのおっさん!)

 (あまりにも酷すぎる。ドガル子爵は本当に何も考えていないみたいだね。リリア隊長ならこれじゃあ城は絶対に落とせないって簡単に分かるはずなのに……)


 「軍議は終わったんだから早く帰って、私はこの後、この子達と忙しいんだ! ねー!?」

 「分かりました、それじゃあ失礼します」

 ジャンは早足でそのテントから立ち去る。


 「ジャン様、ドガル子爵は失礼ながら想像以上に酷いと感じました……このままだと部下達を無駄死にさせてしまいます。エルガルドに合図を出して、我々だけでバーリ城を攻略してしまうのはどうでしょうか?」


 「ジェイド……あまり大きな声で話さないで」

 「失礼しました……」

 (俺もジェイドの意見に賛成だね! さっさと奪っちゃえばいいじゃん!)


 「ジェイドの言いたい気持ちも分かるけど、ここで僕達が戦果を出してしまうと、この瞬間はいいけど男爵よりも上の爵位であるドガル子爵に目を付けられると厄介。もっと上位の嫌な貴族とも繋がりがあるドガル子爵を敵に回すと後々面倒くさい」


 (なんだか難しい、面倒くさい話してるな〜。ドガル子爵もやっちゃえばいいじゃん)

 (そんな簡単な話だったらいいんだけどねユウタ)


 「今はドガル子爵に恩を売っておいた方がいいと思う」

 「ジャン様の言っている事もわかります。ですが、部下達を無駄死にさせたくありません」


 「僕だって同じ気持ちだよ。分隊長を僕のテントに呼んできてジェイド。作戦会議するよ」

 こうして分隊長達が、ジャンのテントに集まった。


 「集まったね。それじゃあ作戦会議を始める! 明日から北門を僕達だけで攻める事になった。だけど攻め落とそうとしなくていい。出来るだけ負傷者を出さないような戦い方をしてほしい。怪我したら僕が治すから絶対に死なないでくれ」


 「だけど攻める姿勢は見せないといけない。それは上手いことやってほしい!」

 

 「それって逆に難しい注文じゃないっすか?」

 「グロッセの言う通り、普通に戦うより難しいと思う」


 「ただその後はどうするおつもりなんですか? 結局はバーリ城を攻略しないといけないんですよね?」

 「攻略に関しても問題ない。僕に考えがある。数日間はそうやって出来るだけ負傷者を出さないように戦ってほしい」


 「「分かりました」」


 「クルクルぱっぱ! クルクルぱっぱ! ドクターオイラは何をするの〜?」

 「テディは自分自身でしたい事はある?」


 「ん〜、オイラはしたい事なんてないよ〜。お腹いっぱい食べたいだけでおじゃる!」

 「明日から戦わないといけないんだけど、出来るだけ怪我しないように戦ってくれる? テディは皆のことを守ってくれるかな?」


 「分かったでおじゃる!」

 テディはふざけたポーズで返事をした。


 翌日を迎え、バーリ城攻略戦が始まった。

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