第3話 いじめられっ子

 「あああああっと!! もう朝か……拘置所の中の習慣で早起きになっちゃったな」

 (ユウタ……? おはよう。朝食食べるなら、下の階にある食堂に行けば食べられるよ)


 「そうなの? じゃあ行こうかな」

 ベットから起き上がり学校に行く制服に着替えていると、ガラス越しに初めて自分の姿を見た


 びっくりする程の真っ白い髪の毛で、顔色は悪く、表情はどこか暗い、12歳なのに目の下には酷いクマが出来ていて、猫背な姿がガラスには写っていた。


 「お前暗いわ!! びっくりしたわ!!」

 (そんな事を言わなくてもいいでしょ)


 「まあでも俺よりお前の方が、数段カッコいいよ」

 (……)


 「さ〜て朝飯食べに行きますか」

 部屋を出て階段を降りていき、食堂に入り席に座ると、目の前に朝食が用意された。

 食べるとあまりにも薄味で、あんまり美味しくなかった。


 (なあ、貴族ってもっと豪華な朝飯とかじゃないの?)

 (僕の家は貧乏だから寮だし、寮の朝食はこんなもんだよ)


 (拘置所の方がまだ美味しかったぞ)

 (お金持ちの貴族たちは、ここ王都にも家があってそこから通ったりしてるけどね、僕の家はそんな余裕もないからね)


 「それじゃあ学校に行こうかな」

 学校に到着するとすぐに、外に出るよう言われ、動きやすい服に着替えて大きな広場へと。


 「それじゃあこれから実技訓練をする! いつものように二人組を作って訓練を開始しろ」

 ガタイの良い先生にそう言われたが、俺と組んでくれる人は誰もいなかった。


 「もしかしてだけどジャンってさ、友達いないの??」

 (ごめん)

 「じゃあいつもどうしてんの?」

 (いつもは木陰で終わるのを待ってる……)


 「マジかよ! 暗っ! 暗すぎるわ! じゃあ俺が勝手にやっていいでしょ?」

 (え? うん大丈夫だよ)


 俺はスタスタと歩き、あくびをしている一人の女の人の前に立った。

 「ねえ、おばさん! 俺の相手してよ!」

 「あぁ!? 今なんつった!?」


 座っていた女が俺のことを睨みつけ、顔を近づけてきながら立ち上がる。

 (ユウタ急に何言ってるんだよ!!)

 (この人って大人だから一応先生でしょ)

 (今年から入ってきた先生で、実技訓練の副担任の先生だよ)

 (じゃあ大丈夫じゃん)


 「だから俺の組手の相手がいないから、おばさんが相手してって言ってんの!」

 「てめぇ舐め過ぎだろガキが! こっち来い」

 俺は言われて女の後を追う。


 「好きな武器使いな。私が相手してやるよ」

 「へ〜。ありがとうおばさん」

 俺は木剣のダガーを二本手に取り、構えた。


 「てめぇに礼儀を教えてやる」

 「教えて下さいよおばさん! あいにく俺は敬った人にしか先生って呼ばないものでね!」

 「じゃあ先生って呼ばしてやるよ。殺す気でかかってこい」

 「いいの? おばさん死んじゃうよ?」


 「ハッハッハ! やるもんならやってみろよ!」

 「じゃあ行くよ」

 俺はダッシュで女の懐へと入り込む。


 しかし、一瞬女の姿が消えたかと思ったら俺の体は宙を舞って、空を見上げていた。

 そして背中に衝撃が走り、地面に叩きつけられる。


 (おい,おい! 何が起きた?)

 (僕にだってわからないよ)


 「おい立てよクソガキ! それで終わりな訳がないよな?」

 俺は立ち上がる。


 「終わりな訳がないだろババア!」

 そう言った瞬間、俺の体は吹き飛ばされ、遅れて腹に激痛が走る。


 「カハッ……」

 (やばい。一切息が出来ねぇ)


 髪の毛を引っ張られながら、無理矢理立ち上がらされた。

 「まだ終わりじゃないよな??」


 「終わりじゃねえよババア……」

 俺は蹴りを食らわせようとしたが、その前に放り投げられ、空中で舞っている俺の体に逆に蹴りが入って、地面に叩きつけられた。

 (クソババアが……)


 息が出来ない上に頭も体もフラフラだったが、俺は立ち上がった。

 「意外と根性あるんだな」

 腕を組みながら女は俺に向かってそう発言した。


 その佇まいと発言が馬鹿にされていると感じて、キレた。

 「ぶっ殺してやるババア」

 力が入らない足を前に出して、ダガーで斬り掛かる。

 体が空中で一回転して再び地面に落とされた。


 俺は訓練中、何度も何度も立ち上がり向かって行ったが、体に触れることさえ出来なかった。

 「よ〜し。今日の訓練はこれまで戻るぞ」

 終了の合図が聞こえたが、俺は仰向けになったまま動けなかった。


 「なあ先生、先生より強い人ってこの王国に何人いるんだ?」

 「やっと先生って呼んだな! それに変な質問だな。一対一ならそうだな、多分50、いや30人位じゃないのか?」


 「先生って相当強んだね? じゃあ俺に稽古つけてくんない?」

 「あ!? やだよめんどくせぇ! でもいつでもかかってきていいぞ。相手してやるよ」

 「今いつでもって言ったな? 本当にいつでも行くからなババア!」

 

 「グハッ」

 腹に蹴りを入れられた。


 「ババアじゃねえ。レベッタ先生だ覚えておけよジャン・アウル」

 「俺のこと知ってたのか?」

 「そりゃあ受け持ってるクラスなんだから知ってるわ。それより早くしないと次の授業遅れるぞー。じゃあな」


 「じゃあなって全く立てないんですけど」

 (僕と替わってよ。回復魔法使うから)

 「あ! その手があったか。完全に忘れてたよ」


 「僕がやるから」

 (悪いな……それにしてもあのレベッタ先生強すぎだろ。ほとんど見えなかったぞ)


 「あの人ってあんなに強かったんだね。いつも怠そうして眠そうにしてたから、あんまり実力がないのとか思ってた」

 (人は見かけによらずだな)

 「なんでユウタは、いきなりあの人の所に向かったの?」

 (ん〜なんとなくだな。なんか同じ匂いがしたんだよ)


 「同じ匂いって?」 

 (それより早く授業行かなくていいのか? 遅れちまうぞ?)


 「あ! そうだった早く行かないと――」

 教室へと戻り、授業をみっちりと受けた。


 授業を受けて分かった事があった。この世界は大きな大陸に、いくつもの国が乱立しているという事。

 このロア王国が、大陸で一番大きな国である事。そして国境あたりでは絶えず戦が繰り広げられているという事だった。


 (戦争って事は、人殺してもいいんだよなぁ〜。最高じゃないか)

 (ユウタはそんな事思ってるの? 戦争は良くない事だよ)

 (でも実際に戦争してるんだろ?)

 (まあそうなんだけど……)


 「おいジャン! 今日もちょっと来いよ!」

 昨日の三人組がまた現れて、ジャンを連れ出していく。


 「ジャンく〜ん、お前は俺達のペットなんだからちゃんとしつけが必要だよな。それじゃあ躾を始めるぞ」

 三人組が殴りかかっていく。ジャンは亀のように身を屈めて丸くなり、ただただ暴力に耐え続け身を守っていた。


 「ほらやり返してみろよジャンく〜ん!」

 「もうお前の家は終わってるんだよ!」


 「……」

 (いつもこんな痛みに耐えて、回復魔法で回復してるのかよ。悪いが勝手に替わるぞ)


 (やめてよ一体何をするつもり!?)


 俺は目の前にあった尖った木の枝二本を手に取り、一人の太ももの内側に、そのまま思いっ切り刺した。


 「ぎゃああああああああああああ」

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