第77話 釣り
公国軍に包囲されたアーク達の周囲に結界を張る。
単に遠距離から結界で相手を包む事はそれ程難しくはない。
まあ俺的な感覚なので、一般的には超絶レベルの技量が必要になるが……
問題は、アークやニンジャマンクラスの相手に察知させずにそれを行う事だ。
アイツらかなり鋭いからな。
普通にやったんじゃ絶対気づかれてしまう。
え?
何で隠すのか?
そりゃもちろん、その方がびっくりするだろ?
驚かす意味が分からない?
それなんだが、実は俺は彼らを篭絡する為にこの場へとやって来ていた。
ミドルズ公国第三王子を、コーガス侯爵家で保護する為に。
ああ、言っておくけど、別にアーク達や第三王子の為に動く訳じゃないぞ。
俺は博愛主義者じゃないからな。
他国のごたごたに、無意味に首を突っ込む気はない。
王子を保護するのは、侯爵家に益があるからだ。
公国の跡目争いは、恐らく国を割った激しい物となるだろう。
更に、どっちが勝っても悪政が敷かれるのは目に見えていた。
第一と第二王子はゴミの様な性格をしてるからな。
激しい王位争いによる国の疲弊。
しかも王位に就いた奴は、国民の事など何も考えない暴君とくれば……国民が何を望むかは想像に難くないだろう。
そう、国外に脱出した
英雄によって国が暴君の魔の手から解放され、その際もっとも大きな働きをコーガス侯爵家が担う。
そうなれば、侯爵家の名声は鰻登りとなる筈だ。
――俺はこの公国の王位争奪を利用して、コーガス侯爵家の名声を高めさせて貰う。
「どれ……」
包囲している公国軍の周囲にも、結界を張る。
これは奴らを一網打尽にする為のものだ。
彼らを閉じ込めた俺は、手のひらサイズの水晶球をポケットから取り出した。
「大河に作って貰ったこれを早速試してみるとしようか」
それは大河産のマジッククアイテムだった。
アイツは、と言うか制作チートはマジで凄い。
なんせ注文したら、たった半日でこれを作って見せたからな。
いやほんと、良い拾い物したもんである。
え?
それはなんだって?
これは――
「こう使うのさ」
水晶球を尻にあて、俺は盛大にオナラを放出する。
肉体のコントロールを完璧に行える俺からすれば、激烈な刺激臭を含むオナラを放つ事など容易い事。
更にこのオナラには、精神を摩耗する呪いまで含ませてあった。
――この臭気を吸い込んだ奴らは、もれなく失神する事だろう。
その有毒なガスを、尻にあてた水晶球が余す事なくすべて吸い取る。
この水晶球は吸収した気体を爆発的に増殖する効果を持っているもので、大河はこれを
オナラだけに『ブー』てか。
アイツも中々しゃれたネーミングセンスの持ち主である。
ああでも、俺のオナラを吸い込ませるってのは伝えてなかったか……ま、その辺りはどうでもいいだろう。
「ご照覧あれ!」
何となくテンションが上がり、何故か無駄に叫びながらそれを結界内へと投下した。
何故かは自分でもわからない。
人間、100年以上も生きていればそういう日もあるもんだ。
「ぐっ!?」
「がぁぁ……」
「くぜぇぇぇぇぇ!!」
水晶自体はそう頑丈な物でもないので、地面に当たってあっさり砕けた。
そして砕けた事で増幅された俺のオナラが勢いよく放たれ、結界内を蹂躙する。
藻掻き苦しみ倒れていく兵士達。
だがアーク達には一切影響はでない。
事前に彼らを守る保護膜として、結界を張っておいたからだ。
「広範囲雑魚無力化兵器としてはぴか一だな」
欠点があるといしたら、人目のある所でやると死ぬ程格好悪いと言うところぐらいだろうか。
「事前に入れとければいいんだが、誤って割った時に困った事になるからな。大河に改良を頼んどくか」
正直、雑魚を制圧するだけならこんな物を使う必要はない。
適当に力をばら撒けばいいだけだ。
だがそれをしてしまうと、死者が出てしまう可能性が出て来る。
だから今回の様に、死者を出さず、大人数を素早く制圧するという点ではかなり便利なアイテムと言えるだろう。
……ここにいる公国の兵士の大半は、雇われてるだけだからな。
助けるためとは言え、悪事に関わってるか分からない人間を殺せば、アーク達からの印象が最悪な者になりかねない。
そうなると、第三王子を利用するという『ウィンウィン計画』に支障が出てしまう。
だから殺さず制圧する必要があったのだ。
まあそれと……この状況を生み出すために俺がアーク達の居場所を垂れ込んでいる訳なので、利用した挙句、問答無用で殺してしまう程俺も無情じゃないってのもある。
一応、これでも勇者な訳だし。
「さて、じゃあ行くか」
結界を解除する。
そして空中から降り立ち、アーク達の元へと向かう。
俺が敵じゃないと分からせるため、足元に小型になった
その際、普段はしている力の隠蔽は解いておく。
アークレベルなら、間違いなく俺の力に気付くだろう。
危機的状況に颯爽と現れ、敵を制圧する圧倒的強者。
漫画なんかではべたな展開ではあるが、現実では早々起こらないだけにそのインパクトは強烈だ。
きっと彼らは、俺の用意した
さあ、ここからは楽しい楽しい
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