第72話 問題発生

ミドルズ公国からの最初の入植者が、我がコーガス侯爵家の領地へとやって来た。

少々子供の比率が高いが、そこはまあ問題ない。

教育せんのうしやすい方が後々都合がいいので、全然ウェルカムである。


因みに、彼らはまだ正式なエンデル国民とはなっておらず、コーガス侯爵領内でのみ生活する事が許されている――管理の為の大河製チップは埋め込み済み。


まあ勿論、永遠にそのままという訳ではない。

侯爵領で10年暮らし、その間大きな問題を起こさなければ正式に国民として迎え入れられ、晴れて自由に国内を移動する事が出来る権利を得る事になる。


まあそうなったら大手を振って領地から出て行ける様になる訳だが、10年何も問題なく、しかも優遇された環境で暮らしてきた奴らが好んで外に出ていく事はないだろうから、一気に人が減ってしまうなんて心配は全くいらないだろう。


「ご苦労でした」


「いえいえ、これぐらいお安い御用です」


入植者達用の生活環境を整えたのは、ケリュム・バルバレー率いる大商会だ。

もし彼が居なかったら、進展はもっと遅々とした物となっていただろう。


「ま、とにかくこれからがスタートです。これからもよろしくお願いしますよ」


あ、もちろんタダ働きじゃないぞ。

鉱山が本格的稼働し始めれば、その流通を一手に引き受けるバルバレー商会は大儲けする事になる訳だからな。


「お任せください」


侯爵家を罠に嵌めた者達や、暗殺に関する調査。

まだまだ片付いていない事は多い。

だが、事復興に関しては順調と言える物だった。


――このまま順調に侯爵家復興は進んで行く。


そう思っていたのだが、世の中とはなかなか思う様にいかない物だ。

数か月後、とある大事件が発生し、想定に綻びが発生してしまう事となる。


「やれやれ、全く……」


寝耳に水の事態に、俺は大きく溜息を吐いた。

それは――


「どうかしたのか?」


「ミドルズ公王が暗殺された」


――聖女によって回復したミドルズ公王の暗殺だ。


「第三王子が殺したって事になってるが……まあ、犯人は間違いなく第一王子か第二王子のどちらかだろうな」


公王は第三王子を次期国王に据えようと働きかけて来た。

その王を第三王子が殺すのは理屈に合わない。

この場合、醜い王位争いをずっと以前から繰り広げて来た第一王子か第二王子が犯人と考えるべきだろう。


「父親である王を暗殺するとは……人間とういうのはどうしようもない生き物だな」


親殺しと聞き、シンラが顔を顰めた。

仲間と支え合って生きる森の民であるエルフからすれば、同族の、しかも親である王を権力争いで殺すなどありえない事だ。

彼女が不快に思うのも無理ない話である。


「厄介な話だ……」


ミドルズ公国からは、入植者が追加で送られてくる手筈になっている。

だが王が暗殺され、激しい王位争いが始まってしまえば、そんな約束など守られる筈もない。


良くて国政が落ち着いてからの再開――最低でも数年先だろうと思われる。

最悪、そもそも話自体が立ち消えてしまう可能性すらあった。


「それで?お前はどうするんだ?」


「ん?」


シンラの言葉に俺は首を傾げる。


「第三王子は冤罪で捕まっているのだろう?まさか勇者と呼ばれた男が、それを見て見ぬふりをする気なのか?」


「……」


シンラはどうも、俺の事を正義の味方か何かと勘違いしている様だ。

勇者なんて物は、そんな綺麗な物じゃないんだがな。


「まあ安心しろ。第三王子は処刑されたりしないから」


「なんだ。もう手を打ってあるのか。流石だな」


「いやまあ……そうだな……」


確かに、俺は第三王子救出に動く予定ではある。

但し、それは別に正義のために手を打った訳ではない。

成り行き上、ただそうなっただけである。


――そう、俺は第三王子の救出作戦に参加するだけだ。


青の勇者のパーティーメンバー。

狼のウルとして。

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