第66話 サプライズ

『こういう潜入なら、私よりブルドッグの方が適任だと思うのだがな?』


エーツーが伝音でそう尋ねて来る。


時刻は深夜。

そして俺達のいる場所は――コーダン伯爵邸の堀の側だ。


以前確認を取ってから既に3か月経っている。

もうそろそろアクションを起こして問題ないと判断し、今日はコーダン伯爵邸を尋ねて来ているという訳だ。


言うまでも無く非公式で。


『シンラがこんな事を手伝う訳ないだろ』


確かに、森で暮らして来らす種族であるシンラの隠密能力は高いと言えるだろう。

だが、彼女は誇り高きエルフの戦士だ。

たとえ相手が屑だろうと、夜襲をかける手伝いなどする訳もない。


『だいたいお前じゃなきゃ、嘘か本当か確認出来ないだろうが』


そもそもエーツーを連れて来たのは潜入のサポートではなく、嘘発見器としての能力を見込んでの物だ。

ただ潜入するだけなら俺単独で事足りる。


『よし、じゃあ行くぞ』


侵入する準備――結界に穴を開けた――が終わったので、俺達は侵入する。


腐っても伯爵家だからな。

流石に素通りとはいかない。


『ざるな警備だな』


エーツーの言う通り、コーダン伯爵邸の警備はざるだった。

ほぼ最初に突破した結界頼りと言っていい。


『まあ今のこの平和な国で、貴族の屋敷が襲撃されるなんて事はまずないからな』


平和ボケと言っていいだろう。

だからこそ王宮での一件は、未遂に終わったにもかかわらず王都を暫く封鎖する程の大騒ぎになった訳だが。


ま、そもそも仮に厳重にしてても俺には全く意味がないけど。


「がっ!?」


「うっ!?」


進路上、どうしても必要な相手だけを殴って眠らせ俺達は進んで行く。

もちろん無暗に殺したりはしない。

只の夜警程度が、コーガス侯爵夫妻暗殺に関わってる訳もないだろうからな。

無差別に殺生する程、俺も残酷ではないのだ。


まあそれが侯爵家の為に絶対必要だとなれば、もちろん話は変わって来るが。


「ぐぅぅ……ぐごぉぉ……」


『ぐっすり寝てるな』


ベッドの上で自分の運命も知らず、伯爵が高いびきをかいている。

その馬鹿面に拳を叩き込んでやりたくなるが、ぐっと堪えた。


『両サイドの女はどうする?』


伯爵の横には、半裸の若い女性が二人眠っていた。

こんなイビキをかくやつの直ぐ横で、よくぐっすり眠れるなと感心してしまう。


『呪いで眠らせておくさ』


魔族程ではないが、俺も呪いを扱う事が出来る。

発動までが遅く、力のある相手にはまったく効かないので実戦ではほとんど役に立たない物だが、眠りこけている女達を昏睡させる事ぐらいなら楽勝だ。


……って、そういや元魔族の王がいるんだからこいつにやらせればいいか。


『それなら私がやろうか?勇者よりは得意だと思うぞ』


俺の考えを察してか、エーツーがそう言って来る。

相変わらず鋭い奴だ。


『ああ、頼む』


魔王が素早く、寝てる女二人に呪いをかけた。

流石本家だけあって、その手際は見事な物である。


「さて、じゃあ始めるとするか」


俺はコーダン伯爵の寝室に結界を張る。

それから奴の首元を掴んで引き起こし――


「う、ぐ……ふげぶっ!?」


そのでっぷりと付いた脂肪で分厚い頬をビンタして叩き起こした。


さあ、尋問開始だ。

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