第67話 安心
「ぐぅぅぅ……な、なんだ貴様らは?くそっ……侵入者だぞ何をしておる!」
俺のビンタで目覚めたコーダン伯爵が頬を押さえながら立ち上がり、外の護衛に叫びながらベッド脇に置いてあったベルを鳴らす。
恐らくそれは只の鈴ではなくマジックアイテムで、屋敷全体に異常を知らせる効果がある物だと思われる。
「無駄だ。外の護衛はおねんねしてるし、俺がこの部屋に張った魔法の結界がそのアイテムの効果を遮断している」
「なっ!?」
俺の言葉に、伯爵の目が驚愕に見開かれる。
「ついでに言うなら……ベッドの上の女共は呪いで寝かせているから、腕を切り落としても目覚める事はない」
「た、た、た……戯言だ!そんな言葉を信じると思ったか!」
どすどすと足音を立てて、伯爵が扉へと走る。
そして外に出る為ドアノブに手をやるが――
「な、なんだ!?開かんぞ!?」
ドアノブはピクリとも動く事はなかった。
結界の効果だ。
音やマジックアイテムの効果を遮断しているだけな訳がない。
当然物理的な遮断もしてある。
「結界を張ってあると言っただろう?お前に逃げ場などない」
「く、くそっ!お前らは何者なんだ!一体何の目的で……そうか!金か!金だな!!それならいくらでもくれてやる!!」
ドアノブから手を離した伯爵が今度は壁際に走り、室内にあったデカイ金庫――識別機能付きのマジックアイテム――を開ける。
その中には金塊がぎっしり詰まっていた。
コイツの行動は本当に貴族ではなく成金っぽく見えて仕方ない。
まあ別にどうでもいい事ではあるが。
「金など求めてはいない。お前は今から俺のする質問に素直に答えろ。嫌なら苦痛を味わって貰うだけだ」
「こ、答えればわしには手出しせんのだな?」
伯爵が怯えながら厚かましい事を聞いて来る。
「それは答えしだいだ」
暗殺に関わっている時点でどういう答えが返ってこようが殺す事はもう確定している訳だが――だからこそこうやって夜襲をかけたのだ――一々喚かれても面倒なので、敢えて希望を持たせて素直に話す様に仕向けておく。
……拷問はあんまり好きじゃないからな。
以前の暗殺者共は迷わず拷問したが、それはそれ以外に情報を引起き出す術がなかったからだ。
嘘発見器がある今、返答をする相手をむやみやたらと苦しめる気はなかった。
例えそれが、絶対に殺すべき憎むべき相手であったとしても、だ。
これでも一応勇者だしな。
まあ殺されたのがコーガス侯爵家の血筋とは言え、顔も知らない相手だから冷静でいられるだけで、それが義父や義兄弟達だったなら、怒りに任せてやっていたかもしれんが。
「う、嘘ではないな?もし嘘だったら容赦せんぞ」
生殺与奪を握られているこの状況下で、一体何を容赦しないと言うのか?
生き延びたいなら相手の機嫌を伺った方が無難だと言うのに、勝ちの芽も無く威嚇するなど愚の骨頂である。
ま、一々それを指摘したりはしないが。
不安にさせるだけだからな。
「安心しろ。必要なのは情報だ。お前の命に興味はない」
俺は相手を安心させるため、駄目押しでスキル【ウィスパーヴォイス】を使う。
「そ、そうか。それならばなんでも答えよう」
その効果は
我ながら本当に便利なスキルを編み出した物である。
さて、それじゃあどう関わってるのか聞かせて貰うとするか。
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