第6話
そろそろご飯の準備をしようかと思い、ゲームを切り上げる。普段通り今日は俺以外家にいないので、音楽を聴きながら料理しよ。
キッチンに行きスマホで最近気に入っている曲を流し、手を洗う。食中毒が結構ニュースになっていたし、念入りに。
曲に合わせて鼻歌を歌いながら手を洗っていると、突然電話がなった。画面には母さんと表示されている。帰ってくる前の連絡だろうか。
『進作。今日は何か頼もうと思ってるんだけど、もう料理作ってる?』
「まだだよ」
『そう、よかった。お寿司とピザどっちがいいかしら?』
「寿司……。あ、二人には聞いた?」
『もちろんよ。もうすぐ帰るって言ってたわよ』
「そっか。わかった。母さんも気を付けて帰って来てね」
『はーい』
母さんとの電話を終えて、スマホを見ると二人から帰りますと連絡が入っていた。母さんもそうだけど、わざわざ連絡を入れるなんて律儀だと思う。教室で話を盗み聞いている限りでは、父親や兄弟の扱いが結構酷いなんてことを良く耳にするから尚更。とはいえ世間ではそれが当たり前だ。それを考えると、俺の家族は優しいんだろう。
五分前に連絡が来ていたので、いつ帰って来てもいいように、ドアの鍵を開けておく。帰ってくるまでは、テレビでも見て時間を潰すか。
ガチャっとドアが開く音がする。その後ドンドンとやたら大きな足音が響く。
何だ?帰ってきた誰かが怒ってる?
気になったのでテレビから視線を外し、ソファから立つ。そして音がする廊下のほうに向かうと、有紗がムスッとした顔でキッチンに立っていた。彼女は買ってきたものをキッチンに置くと俺のほうに向きなおる。
「あ、有紗おかえ……」
「バカお兄!」
お帰りを言わなかったことを怒っているかと思って、今言おうとしたらハグで遮られた。違う……か。じゃあ出迎えが無かったことを怒ってるのか?
「ごめん、テレビ見てて出迎えられなくて」
「そんなこと求めてない。私は……鍵を閉めてないことに怒ってるの!」
「あ、それは皆が帰ってくるって連絡くれたから、開けたんだよ」
理由を説明すると、有紗が拳を握りさらに怒ったように言う。
「ダメに決まってるでしょ!?そんな不用心なことして、もし知らない女の人が入ってきたらどうするつもりだったの?」
「それは……」
確かに有紗の言うとおりだ。そういった事件がないわけじゃない。怒っているのに悲しそうな有紗の顔を見て、悟らされる。ドアを開けるという一瞬の行為で、彼女はどれだけの心配したんだろう……と。
「ごめん。俺がバカだった」
「もうしないで……。お兄は大切な家族なんだから」
「もうしない。約束する」
「うん。それと、これは皆に報告するね」
「え!?」
タイミングが良いのか悪いのか、芽衣が帰ってきた。何故かニヤニヤして廊下に立っている。
「凄く仲良くなったね。ドアの前でハグなんて」
「ね、お姉からも言ってやって?お兄家の鍵閉めずにいたんだよ」
「それはダメだね……。進作君、そこに正座しなさい」
「え、あの」
「お兄~?お姉に逆らわないほうが身のためだよ?」
「えと、はい」
抵抗の意思も虚しく、芽衣の指示通りにフローリングに正座する俺。二人を見上げる形に当然なると思ったが、何故か芽衣も正座する。そして、俺の目をじっと見ながら芽衣が話す。
「進作君いい?世の中の女は皆獣だと思って。少しでも隙を見せたら、食べられちゃうよ?」
「お兄、わかった?」
「けど、獣は言い過ぎなんじゃ……」
「言い過ぎなんかじゃないよ。身を守るために、出来る限り外に出ないこと。出るにしても私たちのどちらかと一緒にいること。わかった?」
「わ、わかった」
圧が強すぎて気圧されてしまったが、彼女たちは俺の防衛意識が低いことを注意してくれているだけなのだ。過保護な気がするけど……そうに違いない。
少し気まずい雰囲気になったけど、ちょうど母さん達が帰ってきた。
「「ただいま」」
がさッと大きな袋を二つ父さんが持って帰ってきた。
「お帰り、お父さんお母さん」
「ご飯にするから準備してくれ」
母さんと有紗と芽衣が準備をしている間に、俺は父さんと挨拶を済ませる。
「初めまして、進作君。これからよろしく、っと言ってもすぐには慣れないだろうが、少しずつ受け入れてくれると嬉しい」
「初めまして……。慣れないのは確かだけど、受け入れてはいますよ」
「そうか、同性だし仲良くやろうな」
「もちろん」
そんな感じで挨拶を済ませ、席に着く。五人になったので、少しテーブルが狭いがそれもまた味があっていいだろう。
「じゃあ食べようか」
俺と姉妹二人は「いただきます」と言い、大人二人は「乾杯」が言って初の家族全員での食事を楽しんだ。ご飯のあと家族全員に「鍵は閉めろ!」と俺は怒られた。
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