第4話

 昼休み。


 チャイムが鳴ってから少しだけ時間が経った。弁当がない俺は、食堂に行くかどうかで迷っている。行けば食堂にいる一部の子に財布にされるのは確実。けれど、行かないと昼飯がないため午後の授業で集中出来ない。


 静かに財布を取り出して中を確認する。野口が三枚。これじゃ自分の分を買う前に……。


 やっぱり彼女たちの言うことを無視してコンビニ弁当でも持ってきておけばよかった。


 そんな今日何回目かもわからない後悔をしていると、


 「お兄」


 とドアの方から声がした。


 驚いてバッと顔を向ける。そこには昨日会ったばかりの義妹こと牧野有紗が立っていた。


 クラスがざわつく。先程までもざわついていたが、その話題の中心が何となく変わった感じがした。


 タッタッと軽快な足音を立てて教室に入ってくる有紗。


 「迎えに来たよ。さ、行こう?」


 状況が読み込めていないのは、俺だけでなくクラスの全員だろう。


 よくわからないけど、逆らうと碌なことにならないと思い首を縦に振って有紗についていく。廊下に出た瞬間周りから視線が突き刺さる。男というだけで目立つのでいつものことだ、と気にしないようにして歩く。


 と、前から何か聞こえて……。


 「…………」


 よく聞こえなかったけど、有紗が何かブツブツと呟いていた。


 「ごめん。何か言った?」


 「あ、ううん。何でもない」


 ……何でもないことはないだろうと言いたけど、きっと昨日急に家族になったばかりの赤の他人には言いにくい事なのだろう。それに、ただの独り言の可能性だってある。そう思うことで気になるという好奇心を押し殺す。


 そんな風に少し考えごとに耽っていると、気が付くと辺りのざわつきが聞こえなくなっていた。こんな静かな場所が校内にあったのかと感心する。しかも、さほど教室から歩いた感じがしない。


 「お姉。お兄連れてきたよ」


 ガラガラと前方の空き教室のドアを開ける有紗。俺ですら知らなかった場所をどうして転校初日の有紗たちが知っているのか。それが気になって立ち止まっていると、


 「お兄?早くおいでよ。お弁当一緒に食べよ♪」


 ドアからひょこっと顔を出して有紗が呼びかけている。


 「ああ、わかった」


 俺は弁当という単語に釣られ、考えるのを一旦やめて教室に吸い込まれていく。


 一緒に食べようと言われたけど、俺は持ってきてないんだ弁当。もしかして目の前で食べてるところを見せる新手の拷問だったりして……。


 「早かったね有紗」


 「うん。お姉の予想通り、椅子から動いてなかったよ」


 机を三つ寄せ集めて、話しながら食べやすい配置にしてある。ちゃんと俺の椅子も置いてあるし……。やっぱり見せつけるためなんだろうか。


 「進作君。座って座って」


 「そうだよ。お兄いつまでドアの前に立ってるの?」


 「ごめん。勝手がわからなくて」


 言われた通りに用意されていた椅子に座る。目の前に有紗。その隣に芽衣が座っている。二人とも弁当を用意していて……。何故か俺の机にも一つ置かれている。


 「さ、食べましょ」


 「色々あってお腹ペコペコ」


 「えと、俺も食べていいの……かな?」


 目の前に置かれた弁当箱を指さしながら二人に聞いた。瞬間二人とも目をパチッとさせて少し沈黙する。そして示し合わせたかのように。


 「「どうぞ」」


 と微笑んで言うのだった。


 

 

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