第5話

 着いたのは豪邸といって差し支えない、しかし瀟洒で洗練された白い屋敷だった。

 引き渡されたのは、ぱっと見イケメン風の30~40代くらいの男だった。そして顔も髪の毛も、耳も尻尾も、目も白色だった。

 耳は犬のようだが、端から長い毛が前に落ちてきていた。

 前世でいうと立て耳の長毛種と言ったところか。


「変態か・・・」

 私は思わず呟いて、破落戸にぱっと口を覆われた。


「僕は世話はしろとは言ったけど、ベタベタ触るのは辞めてくれと言ったはずだよ?」

 思いのほか、若い声で私の飼い主

らしい

白男はいった。


「あい、失礼致しました」

 江戸時代みたいなしゃべり方するな、破落戸。

 そして変態はスルーなんだ、と上目遣いで白男を見ると、にこりと微笑まれてしまった。


 ああ、変態っぽい。変態って普通の人の振りしてるっていうもんな。


 引き渡されるとき、ウサギ女と一悶着合って、(この子は乳離れできてないから私が居ないとダメなんです。ここに来るまでも朝昼晩とわたしのお乳をしゃぶってたんですから!)と人としての尊厳を失うようなことを言われた。

 白男が目を大きく見開いた後、私をちょっと引いた目で見ていたのが忘れられない。


「うん、僕はそっちの要員はいらないんだけど、まあ、この子にとって必要ならいいかな・・・」といい、なんだかんだでウサギ女は私の侍女になった。



 朝昼晩の乳しゃぶりは続いている。

 その上、たまーに絵本の読み聞かせをしてくれる。


 ウサギ女の膝枕で、絵本を目の前に置いてもらい、読み聞かせを聞くのはなかなかよかった。

 そっちには目覚めなかったけど、この白男の屋敷の広い庭の白いブランコで、私は初めて安心して深い眠りにつくことが出来た。



 このまま変態男はどうするのかしら、と思ったら、絵のモデルや服のモデルにしたかったらしい。

 身体を撫でられることはあっても、それは骨格を確かめるため。


 裸婦像を書きたいと言ったときは、ウサギ女がカンカンになって怒った。

 「変態!」と口汚く罵った。


 白男は耳をぺたんとさせて、ウサギ女の前で下着姿になった私を遠慮がちに触った。

 「あん」と小さな声を出すと、ウサギ女は雇用主たる白男をパシンと殴り、白いタオルを持ってきて、目隠しをさせた。

 そしてウサギ女の誘導の元、(「ここはお胸ですよー」など)私の身体を確認していったのである。文字通りに。


 そしてすべての確認を終えた後で、

「なんだ、身体は尻尾以外、普通と一緒なんだ。じゃあ頭とお尻だけ撫でれば良かった」

と至極当たり前のことを言った。


「あ、でも性器は普通じゃないかも」と言うやいなやウサギ女に横蹴りされた。

 触らせて、と言いかけたところでウサギ女に殴られ、引きずられるようにして部屋の外に連れて行かれた。


 雇い主と雇われの関係に思いを馳せた。

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