起床


俺は今、以前働いていたドラッグストアに居た。


「おはようございます」


「.......」


俺は店長に挨拶をすると無視をされる。残念な事だが、いつもの事だ。俺は出勤ボタンを押し、カードをかざす。ピッという音が鳴ると『おはようございます。今日も一日頑張りましょう』と機械が挨拶をする。


(ちゃんと挨拶するのは君だけだよ。おはよう。じゃあ頑張ろうか)


俺は今日のシフト表を確認する。朝のバイトは今日も休みだ。12時間勤務中、6時間はレジとなっており、その中には休憩という文字がない。


(またか...まぁやるしかないな)


俺は開店準備を進める。俺は外に旗を立てようと1度外に出る。


「パパ?」


そこには大きくなった美海ちゃんが居た。幼稚園にいたあの頃の可愛さはあるが、身長が高くなっている。


「...美海ちゃんか。どうしたの?」


「お仕事大丈夫?顔色悪いよ?」


美海ちゃんは心配そうに俺の顔に触れる。だが、薬指には銀色の指輪があった。俺はその手を払う。


「...大丈夫だよ。気にしないで」


俺は振り返ることなく店の中へと入っていく。美海ちゃんは何やら訴えかけているようだが、俺の耳には入ってこない。


(これでいい...これでいいんだ...俺はあっち側ではないんだから)


だが、何故だろう。胸に穴が空いたような感覚に襲われるのは...。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「...きて...起きて」


俺は体を揺らされている感覚を覚え、目を開ける。そこには美海ちゃんが俺の体を掴んで左右に振っている。


「...美海ちゃん?...さっきのは夢か。おはよう」


「おはよう。うなされていたけど大丈夫?」


「大丈夫。美海ちゃんはよく眠れた?」


「眠れたよ!」


俺は体を起こそうとすると左手が重い上にやけに痺れて力が入らない。左手の方を見ると桜が俺の手のひらに頭を乗せ眠っていた。


「あっ桜ちゃんはぐっすり眠っているからそのままにしてあげて?」


「...嘘だろ?いつつ!」


桜は俺の手に頭を擦り付け、だらしない表情をしている。...ん?今、目を開けなかったか?


「桜?起きてるな?」


「.......」


「いつつ!やっぱ起きてるな!おどきなさい!」


「...ちぇ」


桜は目を開けると悔しそうに体を起こした。桜は八つ当たりのように俺の手をペチンと叩くと逃げるようにベッドから飛び出す。


「いってぇ!桜、やったな!」


「知りませんよ〜だ!寝かせないあなたが悪いんですぅ!」


あっかんべー!とする桜はそのまま部屋を出ていく。俺は大きくため息をつくと体を伸ばす。


「う〜!!うし、美海ちゃん、行こっか」


「うん。それとパパ」


美海ちゃんは俺に手を差し出す。俺はどういう意図があるのか分からず、そのまま握手をする。

美海ちゃんは気に食わなかったのか、首を振っている。あぁ!手を繋ぐってことか!


「ちょっと待ってね...じゃあ行こうか!」


俺は手を離し、ベッドから降りると美海ちゃんに自分の手を絡める。美海ちゃんは納得した様子でニコニコしている。

俺たちは一緒に歩き始め、扉を開けるとそこには春先生と俺のお母さんと美海ちゃんママが居た。次からはママーズと言おう。


「「「おはよう」」」


「「おはよう」」


「もうご飯は作ってもらってるわ!あのカナ姉さんの料理はすごいわね!私じゃ難しいわ!美味しすぎておかわりしたわ!」


お母さんは目を輝かせ、俺に言ってくる。あの人の料理は美味いからな!


「おぉ!いいね!早速ご飯だね!」


俺たちはお母さんたちの後を付いて行く。

だが、さっきの夢のせいなのか、素直に喜ぶことが出来ず、胸にぽっかり穴が空いたような感覚が残っていた。俺は美海ちゃんに縋るかのように繋いでいる手を少しだけ強く握る。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る