お迎え


俺が目を覚ますと桜はお母さんのような表情をして、俺を膝枕していた。しかも手まで握られて。

気持ちがいいし、もう一度寝ようかな?と思ったが、さすがにダメだ。

俺は体を起こそうとすると桜は俺の体を押さえつける。俺は驚く中、桜は俺の頬を触る。


「あの…桜さん?何してるのかな?」


「ふふっ…いいじゃありませんの。ゆっくり休まりませんと…ね?」


ね?と言われましてもそろそろお母さんたちが来るんじゃないか?さっきから外が騒がしいんだが…。


「あれからどのくらい寝てたの?」


「おおよそ15分ってところですわ。今、他の子達はお母様を待っているところですわ」


「そうなんだ。それじゃ…あの起こさせてくれない?」


「ダメですわ。今は私との時間を楽しんでくださいまし」


俺の事を逃がすまいと体を押さえつける桜と体を起こそうと必死に力を入れている俺との勝負が始まった。だが、勝負はある一言であっけなく終わる。


『あきちゃ〜ん!!ママですよぉ〜!!』


お母さんの声が外から聞こえた。何やらテンションが高い。仕事で上手くいったのだろうか?


「仕方ありませんわね。今回はここまでにしましょうか」


桜は押さえつけていた手を離す。俺は起き上がると桜は俺にハンカチを渡す。ハンカチをどうすればいいんだ?


「顔、濡れてますわよ。それでお拭きになって」


「え?…あぁありがとう。洗って…」


「そのままでお願いしますわ。我が家の家ほ…んんっ!我が家の使用人にやらせますから」


俺がハンカチで顔を拭き終わったところで桜は急いで立ち上がり、ハンカチを奪い取る。そして、大事そうにポケットにしまうと扉の鍵を開けた。


「では、また明日。ごきげんよう」


「ご、ごきげんよう」


ごきげんようなんて初めて聞いたぞ…。

俺は扉を開け、外に出るとお母さんが俺を探しているようだった。人とは思えない速さで首を動かしている。傍から見ればただの不審者にしか思えない。

あっ目が合った。


「あきちゃーーん!!」


「おか…ぐふっ…!」


お母さんは一目散に駆け寄ると俺を抱きしめ、頬擦りをする。頬が…熱い!早く擦りすぎだって!


「迎えに来たよ〜!あきちゃん!」


「お仕事お疲れ様。それじゃ帰ろっか」


「あきちゃん…お疲れ様なんて…お母さん感激!

そ・れ・と♪これはしないのかな?」


母は俺を離すと頬をトントンと叩く。もしかして漫画とかでよく見る頬っぺにキッスってやつか!?


「えっとぉ…それはちょっと…」


「え?してくれないの?…いつもはしてくれるのに?」


お母さんは俺から距離をとるとオヨヨと涙する演技をする。時々チラッと見ているあたり俺はこれまでやってないのだろう。


「…やりません!」


俺がそう言い切るとお母さんは俺にすがりついてくる。動けなくなっちゃった。


「そ、そんなぁ!お願いあきちゃん!人生で1回だけしてほしいの!お母さんのお願い!ちょっとだけ!ちょっとだけ!」


人生で1回ってことは俺は1回もやってないってことじゃねぇか!やらなくてよかった!


「……やりません!」


「ちぇっ…あきちゃんのケチ!減るものじゃないんだからやってくれたっていいのに…」


お母さんはブスッとした顔をする。機嫌損なってしまった。俺はお母さんの手を意を決して繋ぐとお母さんは喜び、恋人繋ぎをしてきた。

俺は恥ずかしい気持ちになりながら、みんなにお別れの挨拶をする。ほかの園児たちは大きく手を振る中、圭介くんはクスクスと笑っていた。

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