帰りの時間


「もうこんな時間!?ご飯に夢中になりすぎちゃった!みんな!お片付けの時間だよ!」


「「「「「えぇぇぇぇ!!!」」」」」


「また明日もしますから!お片付けの時間だよ〜!ママたち帰ってきちゃうよ〜!」


園児たちは春先生の一言で一斉に動き出す。俺はお腹いっぱい食べすぎたせいで動けずにいる。そこに料理人のお姉さんが近づき、俺を持ち上げる。

申し訳ない。


「今日はありがとうございます。照史あきと…くんでいいのかな?」


「えぇ!構いませんよ!えっとお姉さんは…?」


「私は鶴元つるもと 香苗かなえといいます。料理のことなら任せてください」


俺たちはブルーシートの外へと行くと、園児たちがビニールシートを片していく。お腹いっぱいだろうに。ありがとう。


「カナ姉だね!今日はありがとう!」


「カッ!?いえ、お気になさらず」


カナ姉は顔を後ろに向け、俺を見ないようにしていた。顔が赤いな。熱でもあるのか?

ただこのお姉さんを近くで見てみると分かる。

かなりの美人だ。肌も綺麗で顔も整っている。この人のトレードマークである赤黒い髪はお手入れがされているのかサラサラだ。俺が知らない間に解いていたようだ。


「………」


「わ、私の顔になにか付いておりますか?」


「いや、何ともないよ。もう大丈夫だから、下ろしてくれないかな?」


つい見すぎたようだ。俺は誤魔化すための口実を作る。カナ姉は少し残念そうな表情をすると、俺を下ろす。これじゃ太っちゃうな。


「よし!手伝いでも…と思ったけどいつの間にか終わってるや」


「はい。子供たちの親に会いたい気持ちなのですかね。すごく早かったですよ」


「確かに、子供にとっちゃ親っていうのはとても安心しますからね」


この時、香苗かなえは何かがおかしいと感じた。照史あきとの発言がまるでのようなものだったからだ。

そして、その目はとても優しい。だが、その目の奥には悲しみがあるようにも思える。香苗かなえは彼の表情を見て、あることを学んだ。


「そうですね。。生きていれば安心ですから」


俺はその言葉に少し泣きそうになってしまう。前世の親とももう会えないのと自覚してしまった。くそっ!体の年齢が幼いからか感情が豊かなのだろう。ちょっと困る。


「そう…だね。…すぅ〜はぁ〜…それじゃ俺も準備をしようかな!それじゃ!また明日!」


「…はい。それじゃあまた…」


俺は早足でその場から逃げ、レモン組へと入る。

少し気持ちを落ち着かせないと…。


「あらっ?どうかなされたの?そんな悲しい顔をなされて」


誰も居ないと思っていたクラスには桜が居た。まずいな。落ち着けない。


「いや、ちょっとね」


「そうですの。ふむ…では、わたくしが一肌脱いであげますわ!」


桜は俺の方へ近づくと背伸びをして入口の鍵を閉める。そして、そのまま俺を抱きしめた。


「いいですのよ。大丈夫。無理なさってたのは見ていましたから」


「なんで?俺が無理してるって?」


「ふふっ淑女しゅくじょたしなみですわ。人をよく観察しておりますもの」


桜は俺の頭を撫でつつ、背中をトントンと叩く。

何故だろう。落ち着くと同時に眠気も襲ってきた。

俺は桜にもたれかかってしまった。


「いいのです。少し横になりましょう。私はあなたのそばに居ますの」


「そう…か。うん、じゃあお言葉に甘えて…」


そのまま俺は桜の匂いに包まれながら、眠りに落ちてしまった。

この時、俺は前世の両親に『頑張んなさい。いつでもそばにいるからね。無理しちゃダメよ』と言われたような気がした。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「…寝てしまわれたのですね。やはり無理をしていたのですね」


私は彼をゆっくりと地面に下ろすと膝枕をする。背丈は私と同じはずなのに何故だか、大きく感じてしまう。私が最初、彼を見た時、私たちと同い年には見えなかった。


「手が届かなさそうに感じてしまうのは…この人が大人びいているから…なのかもですわね」


私は彼の頭をゆっくりと撫でる。すると、その目からは涙が溢れ、頬を伝い、私の服を濡らす。彼は手を上にあげると手を開いたり閉じたりいる。


「怖い夢でも見てるのかしら。でも、大丈夫。私が居ますからね。安心してください」


私は彼の手をそっと握りしめ、彼の頭を起きるまで撫でていた。

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