運命の乱入者


「ただいま」


「おかえりなさい。あなた」


「「「「おかえりー!!」」」」


「おう、元気だったか娘たち。それとみみ。ただいま。お疲れみたいだな。あとは任せろ」


俺はそういうとみみちゃんを椅子に座らせる。カバンを見るとそこには『葛城 美海』と書いてある名札があった。なるほど、これが名前だったか。娘役の園児たちは天を仰いでいた。天使が舞い降りたからな。仕方ない。


「あなた、今日のご飯はカツよ。あなたの大好物」


「そうか。それは嬉しいな。さて、みんな席につくんだ。一緒にいただきますをするぞ」


「「「「「はい!!」」」」」


今日1番の元気を表した園児たちは椅子に座ると手を合わせる。いただきますをするその時だった。


「なんやなんや楽しそうやないか!おっちゃん…いや、この体やと兄ちゃんか。兄ちゃんも遊ばせてくれや!」


扉をガラッと開けるとそこには関西弁で喋る男の子が居た。おっちゃん?…そんなことあるか?1度試してみるか?

俺は小さい声であの常連のおじさんがやってくる時の挨拶をした。


「…いらっしゃいませ」


「ッ!?今なんて言うた!兄ちゃん!もういっぺん言うてくれや!」


男の子は俺の肩を掴むと必死の形相で問いただしてきた。やっぱりあの常連さんだ!


「もしかして常連さん…ですか?」


「まさか…ほんまにレジの…兄ちゃんか?」


「「なんでここにいるんですか(いるんや)!」」


俺は涙を流しながら、彼を抱きしめる。常連さんも同じように涙を流しながら抱きしめてきた。


「まさかまた会えたとはな!ほんま…神は居るんやな!…ぐすっ…体はどうや!なんともないんか!」


「うぅ…そっちはどうなんですうぅぅぅ!」


「泣くなや兄ちゃん!俺も泣いてまうやろぉぉ!」


2人して号泣している姿を見た他の園児たちは頭に疑問符を浮かべている。先生も同じようだったが、直ぐに切り替え、俺たちの元へやってくる。


「こら!圭介くん!他クラスに乱入しちゃダメでしょ!それにまた泣かせて!何したの!?」


「違うんですぅぅぅ!!再会できたのが嬉しくて…うぅぅ」


「その通りや!…なぁ!兄ちゃん!先生、ちょっとだけ借りさせてもらうで!久々に会えたんや!ちょっとぐらい花持ってぇな!」


「はぁ?…まぁちょっとだけなら」


俺たちは教室の外に出るといつもの挨拶をし合う。こうしないと体が変なのだ。


「いらっしゃいませ」


「おう!兄ちゃん!今日も来たで!」


「「…あははははは!!」」


俺たちは2人して笑うと握手をする。これはなにか嬉しい時にする儀式で日々よくしていたのだ。


「お前に会えて嬉しいわ!なぁ!…えっとぉ…もう兄ちゃんでええか!ほんま嬉しいわ!」


「えぇ!俺も嬉しいですよ!自分も常連さんと呼びますね!でも、なんでここにいるんですか?」


「おう。それはな…」


俺は常連さんから俺が倒れた時にはもう余命が短いこと、俺を見送った後に死んでしまったとの事だった。気がつくと俺と同じくこの幼稚園に行く日だったらしい。


「わしの場合は1年早いんやわ。最初はビビったで?クラスに入ったら女子ばっかや。何があったんか聞いたら、女子が多くて、男子が少ないんやとさ。比率は1:23や言うてたな」


「そうなんですか。だから、男子が居ないんですね」


「おう!確かクラスに1人はいるはずや。けど、りんご組のやつは怖なって来えへんらしいで。あんなええ子が多いのになぁ!」


「まぁまぁそこまでにしてあげましょう。俺の方でも過去に何があったのか調べておきますね。あとは店も気になりますから」


常連さんは一瞬顔を曇らせたが、いつもの優しそうな顔になっていた。関西弁を喋るから怖い感じだけど、この人は優しいんだ。


「ん〜そうか。まぁ店は自分で調べたらええ。おっと!話し込みすぎたようやな!兄ちゃんのクラス見てみ?」


俺はクラスの方を向くと園児は肩車をし、窓から俺の様子を監視していた。あっ美海ちゃん見っけ。


「取られるか心配なんやろうな。なんせここでの男は男に走るみたいやからな。俺はそんなことは無いし、嫁さん1人でええわ。ほな、またお昼時にでも会いに行くわ」


「わかりました。あっここでは高崎たかさき 照史あきとと言います」


「ほな、わしも。わしはなまら 圭介けいすけ言うんや。せやな…基本はいつもの感じでええけど、先生とかる時は名前で呼ぼうや。照史」


「分かりました、圭介さん。では、ありがとうございました」


「おう!また来るで!ちゃんと寝えや!」


俺はいつものお辞儀をし、彼がぶどう組に入ることを確認すると一息ついて自分のクラスに戻る。

クラスの子たちからは少し怒られてしまったが、また常連さんに会えたという嬉しさから俺の耳には何も入ってこなかった。

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